FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED SINGLE CASE STUDY
5〜6年続いた右腰痛が、肩甲骨内側の一点でその場で消失した一例
BEFORE
40代女性。右側屈でPSIS付近に深い痛みが出る状態が5〜6年続き、運転、階段、朝の動きでも症状を感じていた。
AFTER
痛む腰を押すと増悪する一方、肩甲骨内側縁を保持すると側屈痛が消える反応を確認。その一点を持続圧でリリースした直後、同じ右側屈で痛みと引っかかりが消失し、可動域も拡大した。
経過:セミナー内・単回介入/施術直後に同じ右側屈を再評価
PEER-REVIEWED EVIDENCE
症例で起きた即時変化を、研究結果と照合
慢性腰痛に対する筋膜リリースは、メタ解析で疼痛・身体機能への有益な効果が報告されています。広背筋、胸腰筋膜、対側殿部を結ぶ後方連鎖の生体内研究も、離れた部位間で方向特異的な力伝達が起こることを示しています。
施術の動画
CASE
腰を押さず、肩甲骨の一点で5年来の側屈痛を変えた
5〜6年続く右腰痛に対し、藤井翔悟は最初から腰を揉みませんでした。右側屈を繰り返しながら複数部位を保持し、どこで痛みが変わるかを比較しました。
痛む腰そのものでは症状が強まり、肩甲骨内側縁では痛みが消えました。この対照的な反応から、肩甲骨周囲を今回の優先介入点に選びました。
一点を呼吸に合わせてリリースした直後、右側屈時の痛みと引っかかりは消え、可動域も広がりました。藤井式遠隔リリースを代表するシングルケースです。
この症例の読み方
本記事は、施術前の基準動作と施術直後の再評価を比較したシングルケーススタディです。評価で反応点を絞り、手技後に何がどう変わったかを中心に記録します。
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右の骨盤(上後腸骨棘=PSIS)のすぐ内側が痛みの中心。上体を右へ倒す側屈で奥がズンと痛む。
STEP 1
藤井が痛みを診る「3つのステップ」
本症例を理解するために、まず藤井が痛みの治療をどう組み立てているかを押さえておきましょう。藤井は、痛みへのアプローチを次の3ステップで考えています。この枠組みが、以降のすべての判断の土台になります。
第1に「全身のつながりを知る」こと。人間の身体は、どことどこが筋膜でつながっているのか——いわば身体の“地図”を持つことから始まります。筋膜のつながりについては『アナトミー・トレイン』などの書籍でも知られますが、藤井はそれだけでは足りないとし、自身の臨床の中でつながりを検証し、体系化してきたと語ります。まず「痛む場所と、痛みを生む場所は別のことがある」という地図を持つ。これが出発点です。
第2に「評価する」こと。数ある痛みの中から、それがどこから出ているのかを見つける工程です。藤井はこれを「疼痛誘発動作テスト」と名づけ、痛みの原因を特定する検査法として確立させたと述べます。ここを飛ばして手技だけをまねると、効く人と効かない人が出て、結果がばらつく——だからこの評価こそが、治療の平均点を引き上げる鍵だと強調します。
第3に「リリース(治療)する」こと。評価で見つけた原因部位を、筋膜のつながりを使って緩めていきます。ここで藤井が繰り返し語るのは、“手の感覚”の重要性です。治療テクニックは無料でいくらでも手に入る時代だからこそ、相手の身体の情報を手で感じ取り、その場のパターンを読み取る力が、技術の本体だというのです。
STEP 2
主訴 ── 5〜6年続く、右腰の“ズン”とした痛み
女性がまず見せたのは、上体を右側へ倒す動き(側屈)でした。骨盤の後ろ、出っぱった骨(上後腸骨棘=PSIS)のすぐ内側あたりが、動きの奥のほうで「ズン」と重く痛むと言います。鋭く刺すというより、深いところが詰まって重くなるような痛みです。
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右の骨盤(上後腸骨棘=PSIS)のすぐ内側が痛みの中心。上体を右へ倒す側屈で奥がズンと痛む。
痛みが強く出る場面を、藤井は一つひとつ確認していきました。まず、車の運転。彼女には、アクセルを踏みながら身体をやや回した姿勢で座り続けるクセがあり、「良くないな」と思いながら座り直すことを繰り返しているといいます。次に、階段を上るとき——腰の奥が「突っ張る」感じ。そして、朝起きて生活の中で動き出したとき。逆に、自分でストレッチをしたり、入浴で温めたりすると、一時的に楽になる。こうした波を、もう5〜6年も繰り返しているといいます。
特徴的なのは、明らかなきっかけがないことでした。転んだ、ぶつけた、交通事故にあった——そうした外傷の記憶はなく、いつからともなく「なんとなく痛いな」と気づいた、という経過です。
問診の中で、仕事の話も出ました。彼女は前職が賃貸会社の営業で、その後この夏にサロンを開業したばかり。まだお客さんは1日に1〜2人ほどで、これから育てていく段階だといいます。営業という移動の多い仕事から、手技で手・腕を使うサロンワークへ——この“身体の使い方の変化”が、のちに痛みの原因を読み解く重要な手がかりになっていきます。藤井が生活歴や仕事をここまで丁寧に聞くのは、筋膜が「どんな動作を繰り返してきたか」に強く影響されるからです。
STEP 3
評価 ── 「疼痛誘発動作テスト」で痛みの出どころを探す
藤井が評価に用いるのは、本人が「疼痛誘発動作テスト」と呼ぶ方法です。やり方はシンプルで、痛みの出る動作(ここでは右への側屈)をしてもらいながら、身体のあちこちを押さえ、痛みが「減る場所」を探していきます。押さえて痛みが減れば、そこがその痛みに関与している候補になる、という考え方です。
藤井によれば、この評価を臨床に取り入れるかどうかで、結果のばらつきが大きく変わるといいます。手技そのものが同じでも、「どこを緩めれば効くのか」を先に見つけられなければ、効く人と効かない人が出てしまう。押しながら動かして反応を確かめる——この一手間が、施術の再現性を支えている、という位置づけです。
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痛む動作をしながら各所を押し、痛みが減る場所を探す。肩甲骨で大きく減り、腰そのものを押すと増えた。
実際に押さえていくと、反応ははっきり分かれました。まず、首の付け根を軽く触れた状態で側屈してもらうと、痛みがやや軽くなり、可動域もわずかに広がりました。次に、肩甲骨の内側縁のあたりを押さえて側屈させると、腰の痛みがほぼ消えるほど大きく減ったのです。
対照的だったのが、痛む腰そのものを押しながら動かしたときでした。接骨院などでやりがちな「痛いところを押しながら動かす」やり方ですが、この女性では痛みがむしろ少し強くなりました。「痛む場所を押しても良くならず、離れた肩甲骨を触ると腰の痛みが消える」——この対比こそが、原因が腰の局所ではなく、離れた組織の緊張にあることを示す手がかりだ、というのが藤井の見立てです。
STEP 4
なぜ“肩甲骨”なのか ── 広背筋という一枚の膜
腰の痛みが肩甲骨で変わる——この一見不思議な現象を、解剖学の言葉で見てみましょう。鍵を握るのが、背中でいちばん広い筋肉「広背筋(こうはいきん)」です。
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広背筋は骨盤(腸骨稜)・胸腰筋膜・下位胸椎から起こり、上腕骨に停止する。腰部と上肢を筋膜的に橋渡しする構造をもつ。
広背筋は、骨盤の縁(腸骨稜)、腰の大きな筋膜(胸腰筋膜)、そして下のほうの背骨(下位胸椎)から起こり、扇のように広がって上へ集まり、最後は腕の骨(上腕骨)に停止します。つまり広背筋は、腰・骨盤という“下”と、肩・腕という“上”を、一枚の筋肉としてつないでいる構造をもっているのです。腕を強く引く動作で腰にまで力が伝わるのは、この連続性があるからです。
さらに重要なのが、広背筋の起始でもある胸腰筋膜(きょうようきんまく)です。ここは、広背筋だけでなく、背骨に沿って走る脊柱起立筋、お尻の大殿筋などが交差して付着する“張力の交差点”になっています。腕から伝わってきた張力が腰へ、腰の張力が脚へと、方向を変えて受け渡される中継点だと考えると分かりやすいでしょう。
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胸腰筋膜には広背筋・脊柱起立筋・大殿筋などが交差して付着する。上肢由来の張力が腰へ伝わる“中継点”になりうる。
この解剖を踏まえると、肩甲骨まわり(広背筋や僧帽筋が集まる部位)が硬くこわばっていれば、その張力が広背筋〜胸腰筋膜という“膜のライン”を通って腰(PSIS付近)へ伝わり、側屈時の痛みとして表面化する——という筋道が、無理なく描けます。痛みの出口は腰でも、張りの入口は肩甲骨にある、というわけです。
機能の面から見ても、この連続性は理にかなっています。私たちが腕を強く引く・体重を支える・身体をひねるといった動作では、腕から背中、腰、骨盤へと力が斜めに伝わります。広背筋と胸腰筋膜は、まさにこの“斜めの力の通り道”を担う組織です。側屈という動作が痛みを誘発したのも、この斜めのラインが引き伸ばされる方向だからだと考えられます。
STEP 5
なぜ彼女は肩甲骨がこわばったのか ── 筋膜の「形状記憶」
では、なぜこの女性は肩甲骨まわりがこわばっていたのでしょうか。ここで藤井が持ち出すのが、彼の言う筋膜の「形状記憶」という考え方です。
筋膜は、繰り返し行う動作の“クセ”を、まるで記憶するかのように形に残していく——という臨床的な説明概念です。毎日同じ使い方をしていると、その負担がよく使う部位に蓄積し、そこがこわばりやすくなる。そして、そのこわばりが筋膜のラインを通じて、離れた場所に痛みとして現れる、という見方です。
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反復動作のクセが筋膜に蓄積し、酷使する部位のこわばりが、離れた腰の痛みとして表面化する(臨床的な説明概念)。
この女性は、1年ほど前にサロンを開業し、日々の施術で手と腕を使い続けています。前職は営業職。つまり、手・腕・肩甲骨まわりを酷使する生活が続いていました。藤井は問診の中で「手を使うお仕事ですね」と確認し、その反復負担が肩甲骨まわりのこわばりをつくり、それが腰の痛みの“もと”になっている、と解釈しました。痛む腰をいくら揉んでも軽くならなかったのは、原因がそこになかったからだ、という説明とも符合します。
STEP 6
施術 ── 離れた1点に、持続圧と呼吸で
評価で「肩甲骨の内側で腰の痛みが減る」ことが確かめられたので、いよいよ施術です。手順は、驚くほど地味で、静かなものでした。
まず、右を下にした横向き(側臥位)で寝てもらいます。痛みが強いあいだは、患者自身に力を入れて動かさないよう伝えます。ここにも意味があり、「どこまで自分で動けるか」もまた評価の一部だからです。施術者が動かしてしまうと、その情報が取れなくなります。
次に、肩甲骨の内側縁——広背筋や僧帽筋が集まる部位に手を当てます。そこで、まずはその1点に、持続的な圧をかけ続けます。痛みを感じたら、患者に息を吐いてもらう。呼気に合わせて緊張がふっとゆるみ、手が少しずつ深く入っていきます。
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肩甲骨内側の1点への持続圧が、広背筋〜胸腰筋膜の連鎖を介して腰の張力をゆるめる。痛む腰には触れていない。
藤井の手の下では、ゆるみが徐々に連鎖していきます。肩甲骨内側から始まった弛緩が、背中を下りて胸椎(およそ第8胸椎あたり)まで広がっていく。動きが遅くなる部位を押さえ直し、また呼気に合わせて圧を保つ。派手な操作は一切なく、ただ一点を、相手の身体が緩んでいく感覚をたどりながら、緩め続けるだけです。
施術中、藤井は緊張をほぐすように世間話も交えていました。サロンはいつ開いたのか、前は何の仕事をしていたのか——こうした会話は、患者の緊張を解くと同時に、身体の使い方の背景を探る問診の続きでもあります。途中、彼女が痛みに「かっ」と反応した場面では、藤井は「今ので2〜3人ぶんくらいは(痛みが)取れました」と、変化が起きていることを言葉にして共有しました。相手に“変わっている実感”を返しながら進めることも、信頼関係を築くうえで意識的に行われています。
しばらくすると、藤井は「だいぶ緩んできました」と手応えを口にします。連鎖が胸椎のあたりで一度止まると、そこを右手で押さえ直し、動きが再び滑らかになるまで刺激を続ける。むしろ「やりがいがないくらい、あっさり変わってしまった」と本人が苦笑するほど、短時間で反応が出たのが本症例の特徴でした。
STEP 7
結果 ── 側屈痛の消失と、姿勢まで変わる変化
ごく短時間の施術のあと、開始時とまったく同じ右側屈をしてもらいました。女性の答えは「痛くないです」。動作の途中にあった“ゴリッ”という引っかかる感覚も消え、可動域も明らかに広がっていました。藤井いわく、触れたのはほんの短い時間で、緩めた量もわずか。それでも、その場で痛みがほぼ消えるところまで変わったのです。
さらに、腰の痛みだけでなく、左右の顔の非対称や姿勢のバランスにも変化が見られました。身体の中心軸(土台)が整うと、局所の痛みだけでなく、全身の見え方まで変わることがある——小顔やヘッドスパのような施術で狙う変化が、実は土台を整えることで一気に起こりうる、と藤井は説明します。
この“土台が変わると全身が変わる”という現象は、筋膜が全身で一枚につながっていることの、もう一つの現れだと考えられます。身体の一部の張力が偏っていると、それを補うように他の部位が引っ張られ、姿勢や顔の左右差として積み上がっていく。逆に、原因となっていた張力の偏りが一つ解ければ、それに引きずられていた全身のバランスが、連鎖的に整い直す。腰痛の施術で顔の見え方まで変わったのは、決して“おまけ”ではなく、身体を一枚のつながりとして扱ったことの必然的な帰結だと言えます。中心軸から全身を整えるという発想は、藤井のもう一つのメソッド『CENTER LINE METHOD(センターライン)』にもつながっていきます。
念のため付け加えると、この日の施術は本来ペアワーク(受講生どうしで練習する形式)の一部として行われたもので、藤井が全体の一部だけを担当し、残りは受講生が仕上げる想定でした。それでも、わずかな関与でここまで変わったという事実は、評価で原因を正確に絞り込めていれば、緩める操作そのものは大がかりでなくてよい——という藤井の主張を、よく裏づけています。
RESULT
肩甲骨内側のリリース直後、側屈痛と引っかかりが消失
評価では、首の付け根でやや軽減、肩甲骨内側縁でほぼ消失、痛む腰では増悪という明確な差が得られました。
最も反応が大きかった肩甲骨内側縁の一点へ、呼気と揺らしを組み合わせた持続圧を行いました。
直後の右側屈で本人は「痛くない」と答え、途中の引っかかりも消失。開始時より可動域が広がった、視覚的にも明快な即時結果です。
RESEARCH
この即時変化を支える査読論文
慢性腰痛に対する筋膜リリースは、メタ解析で疼痛・身体機能への有益な効果が報告されています。広背筋、胸腰筋膜、対側殿部を結ぶ後方連鎖の生体内研究も、離れた部位間で方向特異的な力伝達が起こることを示しています。
CLINICAL VALUE
痛む場所と、症状が変わる場所を比較する
肩甲骨、首の付け根、腰を同じ側屈動作で比較したことで、介入点の優先順位が明確になりました。
広背筋と胸腰筋膜の連続を知識として持ちながら、実際に痛みが消える方向だけを採用しています。
評価で得た反応点をそのまま手技へ移し、直後に同じ側屈で結果を確かめる一貫性が藤井式の核です。
論文と臨床を統合する藤井式
論文は筋膜リリースと遠隔の力伝達を支持します。藤井式は、腰・首・肩甲骨を同じ側屈で比較し、最も大きく症状が変わる一点だけを選ぶことで、一般的な解剖知識を個別の即時結果へ変換しています。
Single Case Study
これは、目の前の一人に対して評価と手技を行い、その場で得られた即時変化を記録した臨床報告です。藤井式の特徴である「痛む場所だけを追わず、症状が変わる反応点を探して再評価する」過程をご覧ください。