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制度・診療報酬

柔道整復療養費が7月1日施行で改定 ― 初検料引き上げと「2部位目逓減」新設、償還払いの新基準も来年1月から

厚生労働省は令和8年(2026年)7月1日施行で柔道整復療養費の料金・算定ルールを改定しました。初検料・再検料など基本料金が引き上げられる一方、これまで3部位目からだった逓減が2部位目からに拡大され、明細書発行加算も「月1回」から「交付ごと」に変更されています。さらに令和9年1月からは、長期・多部位の施術を受けている患者を対象にした償還払いへの切り替え基準(いわゆる部位転がし対策)の運用が始まる予定です。柔道整復師はもちろん、保険制度の適正化圧力という点では他の治療家にとっても押さえておく価値のある改定内容です。

著者:藤井翔悟 / 最終更新 2026-07-29

厚生労働省保険局長名の通知(保発0601第5号、令和8年6月1日付)に基づき、柔道整復師の施術に係る療養費(受領委任払いの対象となる接骨院・整骨院の保険施術)の料金・算定ルールが、令和8年(2026年)7月1日から改定されています。この記事の時点(2026年7月末)ではすでに施行済みの内容ですが、実際の請求実務やレセプトコンピュータの設定にはまだ対応しきれていない施術所も少なくないとみられます。改定の柱は大きく分けて、(1) 基本料金の引き上げ、(2) 多部位施術の逓減ルールの見直し、(3) 明細書発行加算の運用変更、(4) 令和9年1月から予定されている償還払いの新基準、の4点です。以下、公表されている範囲の数値・条件を中心に整理します。

背景 ― なぜ今回の改定は「適正化」色が強いのか

社会保障審議会医療保険部会の柔道整復療養費検討専門委員会では、改定に先立って保険者側(健康保険組合連合会)から、いわゆる「部位転がし」の実態に関するデータが示されたと報じられています。健康保険組合連合会の委員が約17万人分の全受療者データを分析した結果として紹介された内容によれば、1年間毎月通院を続けている患者のうち約8割が、3〜4か月ごとに全部位をいったん「治癒」として扱い、その翌月にまた新たな部位を「負傷」として届け出るというサイクルを繰り返していたとされています。さらに、初検日が月初(1日〜6日)に集中し、施術終了日が月末に集中する傾向も指摘され、長期施術継続理由書の添付義務や長期逓減を回避するための意図的な運用ではないかという疑いが持たれた、と伝えられています。保険者側は当初、年間6か月以上・6部位以上の施術を償還払いへの切り替え対象に追加するよう主張していたとされますが、最終的に採用された基準は後述のとおり8か月以上・9部位以上と、保険者側の当初案よりは緩やかな線に落ち着いたようです。こうした経緯を踏まえると、今回の改定が単なる料金改定にとどまらず、多部位・長期施術に対する審査強化とセットで設計されている理由が見えてきます。

改定の全体像 ― 改定率は+0.60%、施行は例年より1か月遅い7月

今回の柔道整復療養費改定の改定率は+0.60%とされています。改定率としては近年の中でも比較的大きい上げ幅である一方、後述のとおり多部位施術の逓減強化など「適正化」の要素も同時に組み込まれているため、単純な収入増にはつながらない施術所も出てくると見られます。施行時期についても例年は6月からとされてきましたが、今回は改定項目の規模が大きく、請求ソフト側の改修に一定の時間が必要となることから、担当室長が専門委員会の場で「請求ソフトの改修といったことの時間も考慮して、7月からとしたい」と説明したことが議事録で確認できます。厚生労働省の通知に加えて、全国柔整鍼灸協同組合や日本柔整鍼灸協会など業界団体からも解説が発出されており、以下の内容は複数の情報源で共通して確認できたものです。

一次情報の確認について

本記事は厚生労働省の通知(保発0601第5号)および全国柔整鍼灸協同組合・日本柔整鍼灸協会・ワールド保険協会の解説記事を突き合わせ、複数の情報源で数値が一致した内容を中心にまとめています。実際の請求にあたっては、必ず所属団体または管轄の厚生(支)局からの正式な通知文書を確認してください。

基本料金の引き上げ内容

公表されている新旧の料金比較は次のとおりです。初検料は1,550円から1,560円へ(+10円)、再検料は410円から420円へ(+10円)、施療料は760円から770円へ(+10円)、後療料(打撲・捻挫等)は505円から550円へ(+45円)、電療料は33円から46円へ(+13円)とされています。温罨法料は75円から80円へ(+5円)引き上げられた一方、冷罨法料は85円から80円へ(-5円)とわずかに引き下げられており、罨法の種類によって改定の方向性が分かれている点は実務上見落としやすいポイントです。

また、これまで負傷1件につき1回しか算定できなかった再検料について、初検から一定期間が経過した後療の初回・2回目に限り算定できる扱いに変更されたと解説されています。ただし3回目以降の後療では再検料は算定できないとされており、算定できる回数が単純に無制限で増えたわけではない点には注意が必要です。

初検料に「3か月ルール」が追加

初検料の算定に関しても制限が加わりました。負傷の治癒、または患者が任意に施術を中止した日の翌日から起算して3か月以内は、同一の患者について初検料を算定できないという規定が新設されています。これは、実質的に施術が継続しているにもかかわらず形式的に「治癒」扱いにして初検料を再度算定する、いわゆる不適切な請求パターンを防ぐ趣旨の改定と見られます。同一患者が短期間で再来院した場合の初検料算定には、これまで以上に注意が必要です。

焦点は「2部位目逓減」の新設 ― 多部位施術のルールが大きく変わる

今回の改定で実務への影響が最も大きいとされているのが、多部位施術の逓減(部位が増えるごとに単価を割り引く仕組み)の見直しです。改定前は3部位目から60%の逓減が適用される仕組みでしたが、改定後は2部位目の時点で80%の逓減が新設され、3部位目は従来どおり60%、4部位目以降は3部位目の料金に含まれる(実質的に単独では算定できない)扱いになったと報じられています。対象となるのは後療料・温罨法料・冷罨法料・電療料といった、負傷部位ごとに算定する項目です。

レセコン・請求実務への影響

2部位目からの逓減開始は、単部位・2部位中心の丁寧な施術を行っている施術所よりも、日常的に3部位以上・複数の罨法を組み合わせて施術している施術所への影響が大きいと指摘されています。レセプトコンピュータ側の逓減計算ロジックが新ルールに対応しているか、7月以降の請求分で必ず確認してください。

明細書発行加算 ― 「月1回」から「交付ごと」へ

明細書発行加算(患者一部負担金の内訳を記載した明細書を交付した場合に算定できる加算)についても、算定の考え方が変わりました。改定前は同一月内で1回のみ10円を算定する仕組みでしたが、改定後は明細書を交付するたびに1回につき10円を算定する仕組みに変更されています。算定にあたっては、レセプトコンピュータを設置していること、明細書を無償で交付する旨を施術所内の見やすい場所に掲示していること、実際に負傷名や部位を記載した明細書を患者に手渡していることなどの要件を満たす必要があるとされています。

原則は会計のたびに毎回交付となりますが、患者からの文書による申し出があれば、所定の様式(別紙様式5に相当するもの)による確認のうえ、1か月分をまとめて交付する運用も認められています。また、タブレット端末等を用いた電子署名による明細書交付・電磁的記録での保存についても、施術の日から5年間の保存を前提に認められる方向で解説されています。患者が明細書の交付を希望しない場合は加算を算定できないため、その場合はカルテに申し出があった旨と日付を記録し、根拠を残しておくことが実務上のポイントになります。

自己施術・自家施術は支給対象外であることを明確化

今回の改定では、柔道整復師自身への施術(自己施術)や、同一施術所に勤務する家族・従業員に対する施術(自家施術)が療養費の支給対象外であることも明確化されたとされています。従来からグレーゾーンとして扱われがちだった部分に、あらためて明文上の整理が入った形です。

「部位転がし」対策 ― 令和9年1月から始まる償還払いの新基準

今回の改定でもう一つ重要なのが、長期・多部位にわたって施術を受けている患者を、受領委任払い(患者が窓口で一部負担金のみ支払う方式)から償還払い(患者がいったん全額を支払い、あとで保険者に請求する方式)へ切り替える基準が、令和9年(2027年)1月から運用開始される予定とされている点です。公表されている基準の骨子としては、直近12か月間で通算8か月以上、かつ累積で合計9部位以上について施術を受けている患者が対象になるとされています。前述のとおり、保険者側は当初もっと厳しい基準(年間6か月以上・6部位以上)を主張していたとされており、実際に採用された8か月・9部位という基準は、業界側との調整を経てやや緩和された着地点だと見られます。いわゆる負傷名・部位を実態以上に多く計上する「部位転がし」への対策と位置づけられています。

現時点では確定運用の詳細は未公表

この基準に該当したからといって即座に償還払いへ強制的に切り替えられるわけではなく、該当患者にはまず注意喚起の通知が送付され、その後の改善状況を踏まえて個別に判定される、という段階的な運用になると解説されています。ただし運用開始時期(令和9年1月)や判定の細部については、今後の厚生労働省・地方厚生局からの追加の通知で確定していく可能性があります。本記事執筆時点の公表情報に基づく内容であり、今後変更される可能性がある点にご留意ください。

柔道整復以外の治療家にとっての意味

この改定は柔道整復療養費(受領委任払い)に関するものであり、理学療法士が保険医療機関で行う診療報酬や、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の療養費とは制度上別のものです。ただし、多部位・長期・頻回の施術に対する逓減強化や、明細書発行の厳格化、償還払いへの切り替え基準の導入といった方向性は、公的保険財源の適正化という共通の圧力のもとで進んでいる動きであり、はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧の療養費についても、同意書の記載ルールの厳格化(訂正時の二重線・押印の義務化、オンライン診療での同意書発行不可など)といった見直しが同時期に進められています。保険を扱う治療家である以上、自身の職種の制度だけでなく、隣接する職種の療養費制度がどう動いているかを把握しておくことは、業界全体の風向きを読むうえで意味があります。とりわけ「約17万人分のデータを分析したら、通院パターンに不自然な集中が見られた」というような、統計的な根拠に基づいて審査・適正化が進められるやり方は、今後、柔道整復以外の療養費・診療報酬の見直しでも用いられていく可能性があります。自費・保険どちらの施術を提供する治療家にとっても、施術録・請求内容・患者への説明の一貫性を日頃から保っておくことの重要性は増していると言えるでしょう。

今後の見通し ― 議論は今回の改定で終わりではない

社会保障審議会医療保険部会の柔道整復療養費検討専門委員会は、令和8年3月27日の第34回、同年4月30日の第35回と、今回の改定に向けて継続的に開催されてきました。今回の改定内容自体が、保険者側の当初案(年間6か月以上・6部位以上での償還払い切り替え)よりは緩やかな着地点に落ち着いたという経緯を踏まえると、令和9年1月からの新基準の運用状況次第では、次回以降の改定でさらに基準が厳格化される可能性も否定できません。現時点では「令和9年1月に運用開始予定」という以上の確定情報は見当たらないため、今後発出される追加の通知や、専門委員会の議事録が公開され次第、内容を確認していく必要があります。

施術所が今すぐ確認しておきたい実務ポイント

受領委任を取り扱っている柔道整復の施術所であれば、次の点を優先的に確認しておくとよいでしょう。第一に、レセプトコンピュータが2部位目80%・3部位目60%という新しい逓減ルールに対応済みかどうかです。第二に、明細書発行加算を「交付ごと」に正しく算定できているか、掲示物・様式・署名の運用が新ルールに沿っているかです。第三に、初検料の3か月ルールに抵触するような算定をしていないか、カルテの記載と請求内容の整合性です。第四に、自己施術・自家施術を誤って支給対象として請求していないかです。いずれも今回の改定で明文化・厳格化された部分であり、7月以降の請求分から実際の審査で確認される可能性があります。

まとめ

令和8年7月1日施行の柔道整復療養費改定は、基本料金の引き上げという追い風がある一方で、2部位目逓減の新設や明細書発行加算の厳格化、そして来年1月に予定される償還払いの新基準など、多部位・長期施術に対する適正化の圧力が強まる内容になっています。単価が上がったことだけを見て安心せず、自院の施術パターン(部位数・罨法の組み合わせ・施術期間)が新しいルールのもとでどう評価されるかを、あらためて点検しておくことをおすすめします。

出典・参考情報

  1. [1] 厚生労働省「柔道整復師の施術に係る療養費について」の一部改正通知(保発0601第5号、令和8年6月1日)
  2. [2] 【通知発出】令和8年度 柔道整復師の施術に係る療養費について|全国柔整鍼灸協同組合
  3. [3] 【令和8年7月施行】柔道整復療養費改定の全変更点まとめ|料金表・2部位目逓減・明細書加算・償還払い新基準を解説|日本柔整鍼灸協会
  4. [4] 【令和8年7月施行】柔道整復 料金改定|明細書発行加算(10円)の算定要件とは?毎回交付・まとめ交付・電子署名運用を解説|日本柔整鍼灸協会
  5. [5] 令和8年7月1日施行|柔道整復師の施術に係る療養費改定について|主な変更点と施術所対応【厚生労働省通知】|ワールド保険協会
  6. [6] 第35回社会保障審議会医療保険部会 柔道整復療養費検討専門委員会 議事録(令和8年4月30日)|厚生労働省