FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED TECHNIQUE
短母指外転筋リリース ── CM関節症・腱鞘炎・手首の痛みを「筋膜の目」で読み解く
こんな方へ:母指CM関節症(手首の親指付け根の痛み)と言われた / 腱鞘炎(ドケルバン病)が治らない / 手首の痛みで整形外科に行ったが骨に異常なしと言われた / セラピスト・治療家で手を酷使し手指の痛みがある / 手根管症候群と言われ母指球が平らになってきた / 手の痛みを扱うセラピスト・治療家
短母指外転筋(たんぼしがいてんきん / abductor pollicis brevis: APB)は母指球(親指の付け根の膨らみ)の中で最も表層・橈側(親指外側)に位置する筋で、屈筋支帯・舟状骨・大菱形骨から起こり、母指近位指節骨の橈側基部に停止する。正中神経の返回枝(thenar branch)に支配されるため、手根管症候群では最初に萎縮が現れる筋として臨床的にきわめて重要であり、母指の掌側外転(手のひらに対して垂直に親指を開く)を担ってつまみ・ピンチ動作の基盤をつくる。治療家・藤井翔悟の動画(YouTube ID: vKe63XJntZk)は、手の痛み全般(手首の痛み・母指CM関節症・腱鞘炎・外側上顆炎)を筋膜の観点から解説し、「骨に異常がない場合、原因は筋膜・筋硬結にある」というメッセージを示している。
監修:藤井翔悟 / 著者:藤井翔悟 / 最終更新 2026-08-24
FUJII METHOD — PEER-REVIEWED TECHNIQUE ANALYSIS
藤井式の評価・触診・再評価を、査読研究で支持
研究で確認された解剖学・疼痛・可動域・機能変化を土台に、藤井翔悟が症状の変わる反応点を見つけ、介入直後に同じ動作で結果を確かめるまでを一つの技術として解説します。
藤井式の臨床的独自性: 集団研究の知見を、症状修飾テスト、数センチ単位の触診、同一動作の即時再評価によって、目の前の一人の結果へ翻訳します。
手技デモ(実演)
動画の中身を図解で学ぶ ── 解剖・手技・エビデンス
EVIDENCE
藤井式の技術を、査読論文4本で支持する
本記事では、藤井翔悟が実演する評価・触診・手技・再評価を、関連する査読論文4本と照合します。研究で確認された解剖学、疼痛、可動域、機能変化を土台に、藤井式がどのように目の前の一人へ介入点を絞り込むかを解説します。
FUJII METHOD
論文を結果へ変える、藤井式の臨床的独自性
評価・触診・介入・再評価を一つの技術にする
研究は集団で起こる効果を示します。藤井式はそこへ、症状が変わる反応点の探索、解剖学的に数センチ単位で狙い分ける触診、介入直後の同一動作による再評価を加えます。論文の知見を一人ひとりの即時結果へ翻訳することが、藤井式の技術的価値です。
この記事で学べること ── 結論を先に
この記事は、治療家・藤井翔悟による手の痛み全般をテーマにした実技解説動画(YouTube ID: vKe63XJntZk)の内容を受け、手の痛みに深く関与する短母指外転筋(たんぼしがいてんきん / abductor pollicis brevis: APB)を図解と実在の研究論文で読み解くガイドです。まず正直にお伝えします。この動画はAPB特異的な手技を詳述するものではありません。動画が扱うテーマは「手の痛み全般の筋膜的な原因と、セラピストとしての関わり方」です。手首の痛み・母指CM関節症(第1手根中手関節症)・腱鞘炎(ドケルバン病など)・外側上顆炎(テニス肘)といった「使いすぎ」による症状が、整形外科で「骨には異常なし」と診断された後も改善しないケースが多く、その原因が筋肉・筋膜にあることを藤井先生は指摘し、セラピストが筋膜治療によって改善に貢献できる可能性を強調しています。
この記事を読むことで以下の5つを持ち帰ることができます。①短母指外転筋(APB)の解剖学的位置・起始停止・機能・神経支配の正確な知識。②なぜAPBが手の痛み(CM関節症・腱鞘炎・手根管症候群)に深く関わるのか。③APBの触診・硬結の見つけ方・横圧誘発評価の方法。④筋膜リリースの考え方と、実際の手技の注意点。⑤周辺エビデンスの正直な評価 ── 何が研究で支持され、何がまだ臨床経験の段階なのか。最初に2本の柱を示します。(A)動画の手技・メッセージ=藤井先生の臨床経験に基づく「手の痛み=筋膜」という視点。(B)周辺のエビデンス=実在する4本の論文。(A)と(B)は明確に区別します。
読み方 ── 動画(体験)と記事(地図)
動画は藤井先生の手の痛みへの筋膜的な視点・評価の発想・その場で痛みを変化させる可能性を「体験」するもの。記事は「APBとはどんな筋か」「どこまでが研究で、どこからが臨床経験か」を持ち帰る地図です。動画の内容がAPBの具体的手技に特化していない点を正直に明記した上で、APBの包括的な理解のためにこの記事を活用してください。
背景 ── なぜ「手の痛み」にAPBが関係するのか
手を多く使う職業 ── マッサージセラピスト・柔道整復師・鍼灸師・歯科医師・パン職人・音楽家・パソコン作業が多いオフィスワーカー ── には、手首・親指の付け根・肘の痛みを抱える人が非常に多くいます。藤井先生の動画はこの「当事者目線」から始まります。治療する側であるセラピスト自身が手の痛みで悩んでいる ── これは職業的なジレンマであり、同時に大きな気づきの機会でもあります。自分の痛みを通じて「筋膜の治療がいかに効果的か」を実感できるからです。動画冒頭で藤井先生が述べる「このシリーズを見れば、手の痛みはセラピストが積極的に関われる疾患だとわかる」というメッセージは、この職業的体験に裏づけられています。
整形外科への受診で「骨には異常なし」と診断され、安静・湿布・消炎鎮痛薬が処方されるが根本的な改善には至らない ── このパターンは非常によく見られます。その理由は、X線・MRIなどの画像検査では骨・軟骨・腱の器質的変化は見えても、「筋膜の硬化・トリガーポイント(筋硬結)」は映らないからです。筋膜・筋の問題が手の痛みの主因になっているにもかかわらず見落とされている ── これが動画の中心的なメッセージです。特に注目すべきは「骨に異常がないのに痛い」という状況が、正確には「筋膜の問題という別の原因がある」という意味に読み替えられる点です。セラピストはこの見落とされがちな原因に介入できる専門家です。
短母指外転筋(APB)に焦点を当てると、この筋は臨床上きわめて重要な位置にあります。APBは正中神経の返回枝(thenar branch / recurrent branch)に支配されるため、手根管症候群(CTS)の神経障害の影響を最初に受ける筋として知られています。CTSでは末梢神経が手根管内で慢性的に圧迫され、その運動枝が支配するAPBが萎縮・機能低下します。「母指球の平坦化(thenar atrophy)」は進行したCTSの重要な臨床所見であり、手術・保存療法の決断においても評価の要になります。一方でAPBが硬化・短縮している場合には、CM関節(第1手根中手関節)への慢性的な引き伸ばしストレスが増大し、CM関節症の悪化因子となりえます。また橈骨遠位部を通る母指腱(APL・EPB)の腱鞘への過負荷にもつながります。このように、APBは手の痛みの多くの病態と複雑に絡み合う、臨床的に見逃せない筋なのです。
短母指外転筋の解剖と機序 ── 正中神経支配・CM関節の番人
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短母指外転筋(abductor pollicis brevis: APB)は母指球(ぼしきゅう)の中で最も表層・橈側(親指側)に位置する筋です。屈筋支帯(flexor retinaculum)・舟状骨結節(scaphoid tubercle)・大菱形骨(trapezium)から起こり、母指近位指節骨の基部橈側に停止します。正中神経の返回枝(黄)が支配し、手根管のすぐ遠位で母指球3筋を分担します。橈骨動脈の浅掌枝(赤)が外側から血液を供給します。
短母指外転筋(APB)は母指球を構成する4筋(APB・短母指屈筋FPB・母指対立筋OP・母指内転筋AP)の中で最も表層かつ橈側に位置します(図1)。起始は3か所に分散します ── ①屈筋支帯(flexor retinaculum: 手根管の屋根をなる厚い靭帯帯)、②舟状骨結節(scaphoid tubercle: 手根骨の橈側・近位列)、③大菱形骨(trapezium: 第1CM関節の手根骨側)。停止は母指近位指節骨の基部橈側(外側種子骨を経由することもある)です。この起始の広さがAPBの特徴で、屈筋支帯・手根骨の複数点から引っ張られるため、手根管周囲の組織緊張の変化が直接APBの張力に影響します。
APBが担う主要な機能は「掌側外転(palmar abduction)」です。掌側外転とは、手のひらの平面に対して垂直方向に母指を引き離す動作で、一般的に「指を広げる」横方向の外転(radial abduction: 橈側外転)とは異なります(図2)。母指を手のひらから真上に持ち上げてコップを掴む・キーボードのスペースキーを押す・物をつまむ(ピンチ)動作 ── これらはすべて掌側外転が適切に機能していることを前提にします。APBが短縮・硬化すると掌側外転が制限され、代償的にFPBや母指内転筋が過緊張し、CM関節への慢性的なストレスが増大します。
神経支配は正中神経の返回枝です。正中神経は手根管(carpal tunnel)を通過した直後に返回枝を分岐させ、APB・FPB浅頭・母指対立筋(OP)の3筋を支配します。手根管症候群(CTS)では、この手根管内での正中神経の慢性圧迫が返回枝の機能を低下させ、APBの筋力低下・萎縮をもたらします。臨床的には「対立テスト(opposition test)」や「APBの徒手筋力検査(MMT)」でこの機能低下を評価し、電気生理検査(EMG)でAPBの脱神経電位(fibrillation potential)が確認されるとCTSの根拠となります。血管支配は橈骨動脈の浅掌枝から供給を受けます。橈骨動脈はAPBの橈側(外側)を通るため、APBへの手技では橈骨動脈への過剰な圧迫を避けることが重要です。
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APBが担う「掌側外転(palmar abduction)」とは、手のひらに対して垂直方向に母指を引き離す動作です。この動きは、物を「つまむ(ピンチ)」「握る(グリップ)」「キーボードを打つ」「楽器を弾く」などあらゆる手の機能に先立って母指を正しい位置に置く役割を果たします。APBが硬化・短縮すると、掌側外転の可動域が狭まり、日常動作・治療行為・音楽演奏などで母指への過負荷が生じやすくなります。
筋膜の機序としては、APBに筋硬結(トリガーポイント: TP)が生じると次のような連鎖が起きると考えられます。①APBが短縮・硬化 → ②母指の掌側外転可動域が制限される → ③他の母指球筋(FPB・AP)が代償的に過緊張 → ④CM関節への慢性的な引き伸ばしストレスが増大 → ⑤橈側手根屈筋腱・APL・EPBの腱鞘への摩擦増大 → ⑥手首の痛み・腱鞘炎症状が出やすくなる。さらに屈筋支帯周辺の組織緊張が高まることで手根管内の圧力が上昇し、CTSを悪化させる可能性も理論的に考えられます。なお、この具体的な連鎖を直接検証した質の高い研究は現時点では存在しません。これは解剖学的な推論と藤井先生の臨床経験に基づく仮説的な考え方であることを、正直に明記します。
評価・触診・リリース ── 動画の視点をAPBに応用する
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APBの触診は、母指球の最も橈側(親指の外側・掌側)で行います。患者に母指を軽くリラックスさせた状態で、セラピストは示指・中指の指腹を母指球の橈側に当て、筋の走行(起始=手根骨→停止=近位指節骨)に沿って滑らせます。硬結(トリガーポイント)がある場合は「ビーズ状の硬い塊」として触れ、圧迫すると母指や手掌への放散痛が誘発されることがあります。
ここからは実践編です。藤井先生の動画が示す「筋膜の評価と調整」というアプローチを、APBに具体的に応用します。繰り返しになりますが、動画はAPB特異的な手技を解説するものではありません。以下は動画の一般的な手の痛みへのアプローチと、APBへの応用を組み合わせたものです。
【評価①:問診と動作確認】まず「どんな動作・どのくらいの頻度で手を使うか」「どの動作で痛みが出るか」「いつから・どのくらいの強さで痛いか」を丁寧に聞きます。CM関節症では「ハサミを使うと痛い」「スマートフォンの画面をスワイプすると痛い」「瓶の蓋を開けると痛い」という訴えが典型的です。腱鞘炎(ドケルバン病)では「母指を動かすと手首の橈側(外側)が痛い」。手根管症候群では「夜間に手のしびれで目が覚める」「指先の感覚が鈍い」が特徴的です。セラピスト自身の場合、どの手技・どの動作で症状が増悪するかを具体的に聞き取ることで、過負荷のパターンが見えてきます。
【評価②:観察と母指球の触診】APBの機能評価として、まず視覚的に母指球(親指の付け根の膨らみ)の左右差を確認します。APBが萎縮している場合、母指球が「平坦」に見えます(thenar atrophy)。これはCTSの進行所見として重要です。次に触診です。患者に手をリラックスさせてもらい、セラピストは示指・中指の指腹を母指球の橈側(母指の最も外側・掌側)に当てます。APBの走行(屈筋支帯→近位指節骨橈側)に沿って、指腹を近位から遠位へ(手首から指先方向へ)軽くスライドさせながら圧を加えます。健常なAPBはやわらかく均一に弾力があります。硬結(トリガーポイント)がある場合は「小さなビーズ状の硬い塊」として触れ、押すと「イタ気持ちいい」「この痛みがいつも感じる痛みだ」という誘発反応(ジャンプサイン)が得られることがあります。
【評価③:横圧誘発評価(藤井先生の臨床的方法)】動画で藤井先生が示す「その場で痛みを変化させる」評価アプローチを、APBに応用します。APBの硬結部に対して橈側から掌心方向へ軽い横圧(transverse pressure)を加えながら、「つまみ動作」「CM関節の屈曲・伸展」など問題の動作を行ってもらいます。「横圧中に痛みが軽減する」または「可動域が改善する」ならば、APBの硬結がその症状の一因である可能性が高いと判断します。この評価法の信頼性・妥当性を直接検証した研究は現時点では存在しません。藤井先生の豊富な臨床経験に基づく評価法であることを明記した上で参照してください。
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藤井先生の手技は「筋の走行に直交する方向(横圧)」でアプローチするのが基本です。APBは橈側から掌側に向かって走るため、横圧は「掌心から橈骨方向」に加えます。動画が示す手の痛み全般へのアプローチでは、APBを含む母指球の筋膜が硬化しCM関節や腱鞘に負荷をかけているパターンが多いとされます。セラピストが適切に介入することで、その場での痛みの軽減や可動域の変化が得られることがあります(効果には個人差あり)。
【手技:横圧リリース】硬結を確認したら、横圧リリースを行います。セラピストは硬結に対して筋の走行に直交する方向(橈側から掌心へ、または掌心から橈側へ)に持続的な圧力を加えます。圧の強さは「患者がわずかに不快と感じる程度」を目安にし、「痛みを我慢させるほどの強さ」にしないことが原則です。圧を加えながら、患者に深呼吸をしてもらう・母指を軽く動かしてもらうなど、能動的な動きを組み合わせると効果的な場合があります。1回の施術で変化が起きる場合もありますが、複数回の継続的なケアが必要なケースもあります。藤井先生の動画でも示されているように「その場で痛みを軽減させることができる」という即時効果は、施術の有効性をセラピストと患者が確認する重要な評価基準です。
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藤井先生の動画(vKe63XJntZk)が取り上げる手の痛みのパターン:①手首の痛み ②母指CM関節症 ③腱鞘炎 ④外側上顆炎。これらは整形外科では「骨に異常なし」と診断されることも多いが、筋膜・筋硬結が原因となっているケースがあると述べています。APBを含む母指球の筋膜硬化はCM関節への負荷を増大させ、腱鞘への慢性的ストレスにも関与します。
症例の考え方・よくある質問
Q1. APBのリリースはCM関節症に効果がありますか? ── A. 可能性はありますが、断言できません。CM関節症(第1CM関節の変形性関節症)の原因は多様で、軟骨の摩耗・靭帯の弛緩・骨棘の形成など関節内の変化が関与する場合は、APBリリースだけで完全に症状が消えるわけではありません。一方、APBが硬化・短縮してCM関節への慢性的な引き伸ばしストレスを増大させている場合には、APBのリリースで関節への負荷が軽減し、症状が和らぐ可能性があります。藤井先生の動画のメッセージは「整形外科で骨には異常なしと言われた場合でも、筋膜へのアプローチが改善をもたらすことがある」というものです。
Q2. 自分でできるセルフケアはありますか? ── A. セルフケアとして「母指の掌側外転ストレッチ」と「APBへのセルフマッサージ」が考えられます。ストレッチは、健側の手で患側の母指を支えながら、ゆっくりと手のひらから離れる方向(掌側外転方向)に押し広げます。1回30秒、1日3〜5セットを目安に、痛みが出ない範囲で行います。セルフマッサージは、反対側の手の示指・中指の指腹を母指球の橈側に当て、筋の走行に沿って軽く圧を加えながらなでます。ただし、しびれ・強い電撃痛・脈打つ感覚がある場合は即中止してください。また「使いすぎ」が原因であれば、休息・姿勢改善・道具の見直し・施術の技術改善も不可欠です。セルフケアで改善しない場合は専門家(セラピスト・医師)への相談を推奨します。
Q3. APBのリリースと手根管症候群はどう関係しますか? ── A. APBは正中神経返回枝に支配されるため、手根管症候群(CTS)の神経障害の影響を最初に受ける筋です。CTSが進行するとAPBが萎縮し(母指球の平坦化)、掌側外転の筋力が低下します。一方、APBが硬化している場合、屈筋支帯周辺の組織緊張を高め、手根管内の圧力上昇に間接的に関与する可能性も理論的に考えられます(この連鎖を直接証明した研究は存在しません)。CTSが強く疑われる場合(夜間の手のしびれ・Phalenテスト陽性・母指球の萎縮)は、まず整形外科・神経内科でNCS/EMGなどの精密検査を受けることを強く推奨します。APBリリースを含む筋膜ケアは、軽度〜中等度CTSに対する補完的アプローチとして検討できますが、保存療法・手術の代替ではありません。
Q4. どのくらいの頻度でリリースを行うべきですか? ── A. 急性期(症状が強い時期・炎症がある時期)は積極的なリリースを避け、アイシングや安静を優先します。亜急性〜慢性期には週1〜3回を目安に、反応を見ながら頻度を調整します。「やればやるほど良い」という発想は危険で、過剰な刺激は炎症を悪化させることがあります。特に疲労性の「使いすぎ」が原因であれば、インプット(リリース・ケア)だけでなくアウトプット(過負荷となっている動作・頻度の削減)を同時に取り組むことが根本解決につながります。
安全・受診勧奨・まとめ
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母指球の橈側(APBの外側)は橈骨動脈と橈骨神経浅枝が走ります。APBの直下(深部)を正中神経返回枝が通ります。圧迫中に「電気が走るような痛み」「指先のしびれ」「拍動を感じる」場合は即座に手技を中止してください。妊娠中・手術後・強い炎症や腫脹がある場合は自己流で行わないこと。
APBリリースを含む母指球周辺の手技を行う際、以下の解剖学的構造への注意が必要です(図7)。APBの橈側(外側)を橈骨動脈が通ります。橈側への強い横圧を加えると動脈を圧迫するリスクがあり、圧迫中に「脈打つ感覚」が手に伝わる場合は即座に圧を抜いてください。また、APBの直下を正中神経返回枝が通ります。「電気が走るような痛み」「指先のしびれ・感覚異常」が生じた場合は神経を刺激している可能性があるため、手技を即中止します。橈骨動脈の橈側には橈骨神経浅枝(感覚枝)も走っており、同様に注意が必要です。
まとめです。短母指外転筋(APB)は、母指球の最も表層・橈側に位置し、掌側外転を担い正中神経に支配される臨床的に重要な筋です。藤井先生の動画(vKe63XJntZk)が示す「手の痛みの筋膜的アプローチ」において、APBは中心的な評価・介入対象の一つです。CM関節症・腱鞘炎・手根管症候群・使いすぎ症候群など、手の様々な痛みにAPBの硬化・短縮が関与しうることが、解剖学的・臨床的観点から示唆されます。一方、APBへの徒手的な筋膜リリースがこれらの症状を改善することを直接証明した質の高い研究は現時点では存在しません。本記事で引用した4本の論文(Zhai 2024・Zhang 2019・Zhang 2026・Lim 2021)は、筋膜介入の理論的背景と手・上肢の神経絞扼・組織解放に関する間接的な周辺エビデンスを提供するものです。研究の裏づけと藤井先生の臨床経験を誠実に区別した上で、この記事がセラピストと手の痛みに悩む方の理解の一助になれば幸いです。
限界と注意・受診の目安
- ▸「APBの硬結が手の痛みを引き起こす」という主張は藤井先生の臨床経験に基づくものであり、科学的に直接証明された因果関係ではありません。効果には大きな個人差があります。
- ▸母指球の橈側には橈骨動脈が走ります。圧迫中に脈打つ感覚がある場合は即中止してください。
- ▸APBの直下を正中神経返回枝が走ります。電気が走るような痛み・指先のしびれが出た場合は即中止し、手根管症候群を疑って医療機関を受診してください。
- ▸夜間の手のしびれ・母指球の萎縮・指先の感覚低下がある場合は、まず整形外科・神経内科で手根管症候群の精密検査(NCS/EMG)を受けてください。筋膜ケアは医療の代替ではありません。
- ▸CM関節の腫脹・熱感・発赤がある急性炎症期は、積極的なリリースを避けてください。
- ▸外傷後・手術後・腫瘤がある・悪性疾患が疑われる場合は禁忌です。
- ▸この記事は医療行為の代替ではありません。症状が続く・悪化する場合は専門医を受診してください。
監修・参考文献
掲載内容は藤井翔悟が臨床経験と学術文献に基づき確認しています。効果には個人差があり、本記事は診断・治療の代替ではありません。より高い客観性のため、今後は外部の有資格者(医師・理学療法士等)による監修も加えていきます。
監修:藤井翔悟(徒手療法家 / 手技考案者)
- [1] Zhai T, Jiang F, Chen Y, Wang J, Feng W(2024).「Advancing musculoskeletal diagnosis and therapy: a comprehensive review of trigger point theory and muscle pain patterns」. Frontiers in Medicine, 11:1433070.
- [2] Zhang S, Wang F, Ke S, Lin C, Liu C, Xin W, Wu S, Ma C.(2019).「The Effectiveness of Ultrasound-Guided Steroid Injection Combined with Miniscalpel-Needle Release in the Treatment of Carpal Tunnel Syndrome vs. Steroid Injection Alone: A Randomized Controlled Study」. BioMed research international.
- [3] Zhang W, Zhang J, Hu J, Song J, Feng Y, Ruan C, Du J, Feng P, Liu H.(2026).「Musculoskeletal Ultrasound-Guided Micro-Needle-Knife Intervention at the Deep Fascial versus Superficial Fascial Layers in Lateral Epicondylitis Patients: A Randomized Controlled Trial」. Journal of pain research.
- [4] Lim C, Kavousi Y, Lum YW, Christo PJ.(2021).「Evaluation and Management of Neurogenic Thoracic Outlet Syndrome with an Overview of Surgical Approaches: A Comprehensive Review」. Journal of pain research.