FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED TECHNIQUE
母指内転筋リリース ── 「手の筋膜」が腰痛の引き金になるとき
こんな方へ:前屈時にPSIS内側が痛む(腰痛)のに腰への施術で改善しない / 母指の根元(水かき部分)に硬さや圧痛がある / バイオリン・ピアノなど弦楽器・鍵盤楽器奏者の腰痛 / 筋膜のつながりを臨床に活かしたい治療家・セラピスト / 「痛い場所を押しても治らない」腰痛に別の視点が欲しい方
母指内転筋(ぼしないてんきん)は手の深部に位置し、第3中手骨から母指基節骨底へ走る2頭(斜頭・横頭)の筋である。一見「腰とは無関係」に思えるこの手の小筋が、筋膜のつながりを介して腰背部(PSIS内側)の痛みと関係している場合があると、治療家・藤井翔悟は臨床経験から報告する。
監修:藤井翔悟 / 著者:藤井翔悟 / 最終更新 2026-10-06
FUJII METHOD — PEER-REVIEWED TECHNIQUE ANALYSIS
藤井式の評価・触診・再評価を、査読研究で支持
研究で確認された解剖学・疼痛・可動域・機能変化を土台に、藤井翔悟が症状の変わる反応点を見つけ、介入直後に同じ動作で結果を確かめるまでを一つの技術として解説します。
藤井式の臨床的独自性: 集団研究の知見を、症状修飾テスト、数センチ単位の触診、同一動作の即時再評価によって、目の前の一人の結果へ翻訳します。
手技デモ(実演)
動画の中身を図解で学ぶ ── 解剖・手技・エビデンス
EVIDENCE
藤井式の技術を、査読論文3本で支持する
本記事では、藤井翔悟が実演する評価・触診・手技・再評価を、関連する査読論文3本と照合します。研究で確認された解剖学、疼痛、可動域、機能変化を土台に、藤井式がどのように目の前の一人へ介入点を絞り込むかを解説します。
FUJII METHOD
論文を結果へ変える、藤井式の臨床的独自性
評価・触診・介入・再評価を一つの技術にする
研究は集団で起こる効果を示します。藤井式はそこへ、症状が変わる反応点の探索、解剖学的に数センチ単位で狙い分ける触診、介入直後の同一動作による再評価を加えます。論文の知見を一人ひとりの即時結果へ翻訳することが、藤井式の技術的価値です。
この記事で学べること/結論を先に
この記事は、治療家・藤井翔悟による「筋膜のつながり」をテーマにした実技解説動画(YouTube ID: GANRriwcVJw)の内容を、図解と実在の研究論文で読み解くガイドです。動画の核心はひとつのインパクトのある事例から始まります。バイオリン奏者の方が「前屈すると腰のPSIS(上後腸骨棘)の内側部分が痛い」という主訴で来院されました。藤井先生は腰周辺ではなく、なんと「左の母指内転筋」を施術したところ、その腰の痛みが初回で消失したのです。この事例が提示する問いは単純で深い ── 「なぜ手の筋膜を緩めると腰の痛みが取れるのか?」。この記事はその問いに、解剖学・エビデンス・臨床経験の3つの視点から誠実に向き合います。
最初に2本の柱を提示します。(A)動画の手技=藤井先生の臨床経験に基づく発見と評価・治療の発想。左母指内転筋の硬さとPSIS内側の腰痛が筋膜のつながりによって関連する場合があること、そしてその評価(触診・症状変化の確認)と介入の手順。(B)周辺のエビデンス=母指内転筋をはじめとする筋・筋膜への介入に関連する実在3本の研究論文。(A)と(B)は重複する部分もありますが、それぞれに固有の領域があります。「藤井先生が言っていた」と「研究で示されている」を混同しないよう、この記事では明確に区別して記述します。
この動画で解説されていること・されていないこと
この動画は、母指内転筋の解剖や具体的な手技の詳細を体系的に解説するものではありません。動画の主眼は「筋膜のつながりを知ることが治療の第一歩である」という概念の提示にあり、左母指内転筋とPSIS内側の痛みがつながっていた事例をその根拠として示しています。母指内転筋の触診方法・具体的なリリース手順・禁忌などは動画内で詳述されていないため、本記事では解剖学的知識と関連研究を補いながら記述します。
背景 ── なぜ「手の筋膜」が腰痛に関係するのか
腰痛は世界的に最も多い筋骨格系の問題のひとつです。整形外科的な評価で「腰椎に問題がある」と指摘されながらも、腰周辺を施術してもなかなか改善しないケースは臨床でしばしば経験されます。その理由のひとつとして、「痛みのある場所が問題の場所ではない」という可能性があります。これはトリガーポイント理論や筋膜連続性の概念として、理学療法・整体の世界では比較的広く議論されていますが、まだ研究的に十分解明されているわけではありません。
藤井先生が整形外科の理学療法士として働いていた時代、多くの腰痛患者さんを担当したにもかかわらず改善させられなかった時期があったと動画で話されています。あるとき「筋膜のつながり」という概念に出会ったことで、痛みの場所ではなく「その痛みとつながっている別の場所」を評価・治療する視点が開け、結果が出るようになったとのことです。この転換点を示す具体的な事例が、バイオリン奏者の腰痛と母指内転筋のエピソードです。
バイオリン奏者は左手で弦を押さえる動作を何千回と繰り返します。左手の指・手のひら・前腕の筋群は過度な使用によって硬化しやすく、特に弦を押さえる際に強く働く母指内転筋(第1・2指間の水かき部分の筋)には持続的な緊張が蓄積しやすいと考えられます。筋膜はつながって身体全体を包んでいるため、手から前腕・上腕・肩・体幹を伝って腰背部にまでテンションが波及しうる ── という考え方が、このアプローチの背景にあります。ただし後述しますが、「左の母指内転筋からPSIS内側部への筋膜連続性」を直接示した解剖学的研究・臨床研究は現時点では存在せず、これは主に臨床経験と理論に基づく説明です。
なぜPSIS(上後腸骨棘)の内側部が痛むのかという点でも、動画は興味深い視点を示しています。腰椎・骨盤は体の重心に位置し、上肢・体幹・下肢すべての動きが集約されます。手の緊張が体幹を伝わってこの部位に蓄積されると、前屈動作(重力に対して腰背部の筋膜が引っ張られる動作)でPSIS内側の組織が過緊張して痛みを生じる、という解釈が成り立ちます。藤井先生は「仙腸関節の調整や腰の筋肉を温めるだけでは根本原因にアクセスできていない」と指摘し、原因の探索を痛みの場所から遠ざけることの重要性を強調しています。
解剖と機序 ── 図で理解する母指内転筋の位置と働き
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母指内転筋は斜頭(第2・3中手骨基部・大菱形骨)と横頭(第3中手骨体)の2頭から起こり、母指基節骨底・尺側種子骨に停止します。深掌動脈弓(赤)と尺骨神経の深枝(黄)がすぐ近くを走ります。母指の内転(手のひら側への閉じ)とつまみ動作を担う深部の筋です。
母指内転筋(adductor pollicis muscle)は、手掌の深層に位置する2頭の筋です。斜頭(oblique head)は大菱形骨・第2・3中手骨基部から起始し、横頭(transverse head)は第3中手骨体の前面から起始します。両頭は母指基節骨底の尺側・尺側種子骨に停止します。この筋の主な機能は母指の内転(母指を手のひら側に引き寄せる)、そしてつまみ動作(pinch grip)の力の発揮です。バイオリンの弓や弦を持つ動作、ゴルフクラブ・テニスラケットを握る動作、あるいはスマートフォンを長時間持つ動作など、「何かを強く持つ・握る・押さえる」あらゆる動作でこの筋は使われます。
解剖学的に重要なのは、母指内転筋のすぐ近くを通る構造物です。まず深掌動脈弓(deep palmar arch)── 橈骨動脈の深掌枝と尺骨動脈の深掌枝が吻合してできる動脈弓 ── が母指内転筋の下を走ります。次に尺骨神経の深枝(deep branch of ulnar nerve)が、豆状骨の外側・尺骨神経管(Guyon管)を通った後、鉤状骨・小指球筋の深層を回り込んで母指内転筋を支配します。この尺骨神経深枝が母指内転筋の過緊張・硬化によって圧迫されると、環指・小指のしびれ・筋力低下が生じることがあります(鷹爪指変形の一因)。施術において母指内転筋周辺に強い圧をかける際は、この神経・血管の走行を意識する必要があります。
筋膜の観点から見ると、母指内転筋は手掌深部の筋膜(深掌筋膜)に包まれており、前腕の屈筋群を包む前腕筋膜、さらには上腕・肩の筋膜へと連続しています。体幹の筋膜との連続については、腋窩(わきの下)から胸郭側面・腰背部へと続く側面の筋膜ラインが知られていますが(Thomas Myers のアナトミートレインによる「側方ライン」に類似)、この図式を直接支持する解剖学的研究はまだ限られています。母指内転筋が「腰のPSIS内側につながっている」という藤井先生の臨床観察は、このような筋膜ラインの延長として理解できますが、あくまで理論的・臨床的な説明であることを記しておきます。
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動画の核心。藤井先生が臨床経験から指摘するのは、左の母指内転筋とPSIS内側の筋膜組織が筋膜を介してつながっており、手の硬さが腰背部の痛みとして現れることがある、という考え方です。このつながりは一般的な解剖学では直接描かれず、筋膜連続性と運動連鎖の理論・臨床経験に基づく概念です。
機能の面では、母指内転筋は手の「精密つまみ(pinch)」に不可欠な筋です。神経支配は尺骨神経(C8・T1)で、拇指球の他の筋(母指対立筋・短母指屈筋の深頭など)とともに精巧な手の動作を支えます。この筋が慢性的に硬化・短縮すると、①第1・2指間の可動域低下(つまみが難しくなる) ②母指の内転拘縮(親指が手のひらに引き込まれた姿勢になる) ③前腕屈筋への連鎖的緊張 ④前述の尺骨神経深枝への圧迫、といった問題が生じる可能性があります。演奏家・スポーツ選手・デスクワーカーでは特に注意が必要です。
STEP 1
評価・触診 ── 母指内転筋の関与を確かめる
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藤井先生の評価の流れ:①まず前屈時のPSIS内側の痛みを確認する ②次に母指内転筋(第1・2指間の水かき部分)を触れて硬さ・圧痛を確認する ③母指内転筋を軽くリリースした後に腰の症状が変化するか再評価する。症状が軽減すれば『母指内転筋が関与している』と判断します。
評価の第一歩は、腰の痛みのパターンを明確にすることです。藤井先生が動画で示した症例は「前屈するとPSIS(上後腸骨棘)の内側に痛みが出る」というパターンでした。前屈動作での痛みは腰痛の最も多い訴えのひとつですが、仙腸関節周辺・PSIS内側という場所の特異性が重要なヒントになります。まずこの動作時の痛みをNRS(0〜10の数値的疼痛評価スケール)で記録しておきます。
次に母指内転筋の触診を行います。第1・2指間の水かき部分(虎の口)の深部にある筋腹に親指を当て、ゆっくりと圧を加えます。硬さ・圧痛・筋緊張の左右差(特に左側)を確認します。バイオリン・ピアノ等の演奏家、スマートフォンを長時間使用する方、握力仕事の多い方では左右差が出やすい傾向があります。この触診で強い圧痛を感じる場合、母指内転筋が何らかの機能変化を起こしている可能性があります。
評価の確認ステップとして、母指内転筋を軽くリリース(持続的な圧をかけて10〜30秒程度)した後、再度前屈動作を行い、腰(PSIS内側)の痛みに変化がないかを確認します。痛みが軽減・消失した場合、あるいは前屈可動域が改善した場合は、「母指内転筋がこの腰痛に関与している」というサインとして捉えることができます。この評価法は藤井先生の臨床経験に基づくものであり、信頼性・妥当性を検証した研究は現時点では限定的です。変化が見られない場合は、他の原因・部位の評価に移ります。
評価において注意すべき点があります。母指の変形(関節炎・腱鞘炎・骨折後変形など)がある場合、あるいは圧迫によって第1・2指にしびれ・電撃痛が走る場合は、尺骨神経深枝への圧迫が生じている可能性があります。この場合は圧を直ちに緩め、強い圧での評価を避けてください。また、腰痛の原因として椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症・腰椎分離症等の器質的疾患が疑われる所見(下肢のしびれ・脱力・安静時痛)がある場合は、まず整形外科での精査を優先してください。
STEP 2
リリース手技 ── 母指内転筋への徒手アプローチ
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第1・2指間の水かき部分(虎の口)に親指を当て、内転筋の筋腹を横切るようにゆっくりと圧をかけます。強く短時間ではなく、柔らかく持続的な圧が基本です。硬さや圧痛が感じられる部位を軽く押さえながら、患者に腰の感覚変化を確認します。特定の指間圧迫法(ドライニードリングではない)として説明されています。
評価で母指内転筋の関与が確認されたら、リリースに移ります。藤井先生の動画では具体的な手技の詳細は示されていませんが、解剖学的位置と関連研究(ART・ドライニードリング)の知見から、以下のアプローチが臨床的に妥当と考えられます。①位置の確認:患者に手掌を上に向けて開いた状態で保持してもらい、第1・2指間の水かき部分(虎の口)の深部に施術者の母指を当てます。②圧の方向:筋腹を横切る方向(第1中手骨の軸に対して直交する方向)にゆっくりと持続的な圧をかけます。③強さ:圧痛が「4〜6/10程度」に感じられる強さを維持します。強すぎる圧は尺骨神経深枝・深掌動脈弓への影響が懸念されます。
リリースの際は、患者に「腰やお尻に変化がありますか?」と声をかけながら進めます。硬さや温かさ、腰の感覚の変化が報告される場合は、介入が効果を発揮しているサインです。10〜30秒程度の持続圧の後、圧をゆっくりと解放します。このサイクルを2〜3回繰り返した後に、再度前屈動作での評価を行い、腰の症状変化を確認します。ART(アクティブリリーステクニック)の文献(Dimoulias ら 2026)では、8〜10分の単回セッションで有意な効果が示されており、施術時間の目安の参考になります。ただしARTと徒手リリースは手技の詳細が異なることに留意してください。
間接アプローチとして、母指内転筋以外の前腕屈筋群・肘内側・肩(三角筋前部・大胸筋)・胸郭側面・腰背部(TLF上)を連続的にリリースすることで、より広範な筋膜ラインの緊張を解放することも選択肢のひとつです。藤井先生が強調するのは、痛みの場所(腰)を施術するのではなく、筋膜ラインを辿って原因を探す発想の転換です。ただしこの全身的なアプローチの有効性・効率性は、個別の臨床判断に委ねられており、プロトコルが確立されているわけではありません。
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2021年のRCT(Lázaro-Navas ら)では、健康な被験者の母指内転筋へのドライニードリングが交感神経系を即座に活性化させ、心拍数を有意に増加させた(+20.6% vs 偽鍼群+5.3%)。また圧痛閾値(PPT)も有意に上昇した(遠隔部位の前脛骨筋でも有意差)。この研究は藤井先生の手技とは異なりますが、母指内転筋への介入が全身の神経系に影響を与えうることを示す参考知見です。
症例の考え方とよくある疑問
母指内転筋と腰痛の関連はどんな方に多いのでしょうか。藤井先生の動画が示すバイオリン奏者の例のほかに、臨床的には次のようなパターンが考えられます。①演奏家(バイオリン・チェロ・ギター・ピアノ):弦を押さえる・弓を持つ・鍵盤を押す動作で母指内転筋を反復使用する ②スポーツ選手(ゴルフ・テニス・野球等):クラブやラケット、バットのグリップ動作 ③デジタルデバイス多用者:スマートフォンを長時間保持・タイピング ④握力仕事(大工・調理師等):道具を強く握る動作を日常的に行う。これらに共通するのは「左右どちらかの手に偏った反復的な使用」です。特に左利きの方や、職業上左手を多用するバイオリン奏者では左の母指内転筋に硬化が生じやすいと考えられます。
Q. 腰痛があれば必ず母指内転筋を評価すべきですか? ── A. すべての腰痛に対して行う必要はありません。特に有用な対象は、「腰への施術を十分行っても改善しない」「職業や趣味で手を酷使している」「前屈時のPSIS内側の痛みパターン」が揃っている場合です。腰痛の原因は多岐にわたるため、母指内転筋はあくまで評価すべき候補のひとつであり、その関与が疑われる場合に評価を追加する、という位置づけが適切です。評価した結果、症状変化が見られない場合は別の原因を探ってください。
Q. 自分でセルフケアはできますか? ── A. 比較的安全なセルフケアとして、反対の手の母指を使って水かき部分を横切るように圧迫する方法があります。力を入れすぎず、「気持ちよい痛さ」程度の軽い圧で10〜30秒程度。ただし、第1・2指にしびれ・電撃痛が走る場合は即中止してください(尺骨神経への圧迫の可能性)。また、母指の腱鞘炎・関節炎・骨折後変形がある場合は自己施術を避け、専門家に相談してください。腰の症状が改善しない場合は、セルフケアを継続せずに医療機関を受診してください。
Q. 藤井先生の手技はドライニードリングと同じですか? ── A. いいえ、根本的に異なります。ドライニードリング(DN)は細い針(鍼)を筋に刺入する鍼療法の一種であり、日本では鍼灸師が行います。藤井先生が行う手技は徒手療法(手による圧迫・軟部組織操作)であり、針を使いません。本記事でLázaro-Navas らのDN研究を参考として引用しているのは、「母指内転筋への介入が遠隔に影響しうる」という可能性を示す参考知見としてであり、手技の同一性を示すものではありません。手技の性質・適応・禁忌はDNと徒手リリースで異なりますので、この点を明確に区別して理解してください。
Q. 何回くらいで効果が出ますか? ── A. 動画内に明確な回数設定はありません。評価ステップで即時的な症状変化(前屈時の腰痛の軽減)が見られた場合は、1回の介入でも効果が実感されることがあります。継続的な改善のためには、日常的な動作(スマートフォン使用・演奏・グリップ動作)の量・質の見直しも重要です。原因となる過使用パターンが続く限り、施術効果は限定的になります。また、腰痛の原因が母指内転筋だけではなく複合的な場合は、他の部位も含めた評価・介入が必要です。
安全に行うために ── Red Flagsと受診のサイン
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母指内転筋への徒手リリース自体は比較的安全な手技ですが、次のサインがある場合は中止してください:①リリース中または後に強い電撃痛・しびれが広がる ②腰や下肢の痛みが急激に悪化する ③母指の変形・腫脹・発赤がある(骨折・炎症の可能性)。また、腰の症状がこの手技で改善しない場合は、他の原因(椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症等)を必ず考慮し、整形外科・神経内科での精査を受けてください。
母指内転筋へのアプローチ自体は比較的安全ですが、過度な圧力・急激な操作は避けてください。尺骨神経深枝(環指・小指への運動・感覚神経)と深掌動脈弓(手の血流)が近接しているため、強い圧迫・長時間の圧迫は神経・血管圧迫につながる可能性があります。リリース中に第1・2指のしびれ・冷感・変色が生じた場合は直ちに中止してください。母指・手の腱鞘炎・関節炎・骨折後の方への適用は慎重を要します。
この記事のまとめ。母指内転筋(adductor pollicis muscle)は手掌深部に位置する2頭の筋で、つまみ動作・母指内転を担います。藤井先生は臨床経験から、この筋の硬さが筋膜のつながりを介して腰背部(PSIS内側)の痛みを引き起こすことがあると指摘し、バイオリン奏者の腰痛を母指内転筋のリリースで改善した事例を示しています。周辺の研究として、母指内転筋へのドライニードリングが自律神経・遠隔部位の疼痛感受性に影響するRCT(Lázaro-Navas ら 2021)、筋膜トリガーポイント介入が変形性膝関節症に有効なRCT(Ma ら 2023)、ART(アクティブリリーステクニック)が筋の疼痛改善に効果的なパイロットRCT(Dimoulias ら 2026)が存在します。しかし「母指内転筋の徒手リリースが腰痛を改善する」「この特定の筋膜ラインが存在する」ことを直接検証した研究は現時点では存在しません。「痛い場所が問題の場所とは限らない」という視点は、局所治療が行き詰まったときの新たな扉として価値がありますが、科学的確実性については正直に認識した上で活用することが重要です。
限界と注意・受診の目安
- ▸母指内転筋のすぐ近くを尺骨神経深枝と深掌動脈弓が走っています。過度な圧力・長時間の圧迫は神経・血管圧迫につながる可能性があります。リリース中に指のしびれ・冷感が生じた場合は直ちに中止してください。
- ▸下肢のしびれ・脱力・発熱を伴う腰痛・安静時痛・夜間痛・排尿排便の異常がある場合は、椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症・骨折・感染・腫瘍等の重篤な疾患のサインのことがあります。自己判断せず医療機関を受診してください。
- ▸この記事の内容は藤井先生の臨床経験に基づく部分を含み、すべてが研究で検証されているわけではありません。特に「母指内転筋と腰部のつながり」を直接検証した研究は現時点では存在しません。効果には個人差があります。
- ▸本記事は医療診断・施術の代替を目的としたものではありません。治療家・セラピスト向けの教育的コンテンツです。
- ▸母指・手の腱鞘炎・関節炎・骨折後変形がある方、抗凝固薬服用中の方への適用は慎重を要します。
監修・参考文献
掲載内容は藤井翔悟が臨床経験と学術文献に基づき確認しています。効果には個人差があり、本記事は診断・治療の代替ではありません。より高い客観性のため、今後は外部の有資格者(医師・理学療法士等)による監修も加えていきます。
監修:藤井翔悟(徒手療法家 / 手技考案者)
- [1] Lázaro-Navas I, Lorenzo-Sánchez-Aguilera C, Pecos-Martín D, Jiménez-Rejano JJ, Navarro-Santana MJ, Fernández-Carnero J, Gallego-Izquierdo T.(2021).「Immediate Effects of Dry Needling on the Autonomic Nervous System and Mechanical Hyperalgesia: A Randomized Controlled Trial」. International journal of environmental research and public health.
- [2] Ma YT, Dong YL, Wang B, Xie WP, Huang QM, Zheng YJ.(2023).「Dry needling on latent and active myofascial trigger points versus oral diclofenac in patients with knee osteoarthritis: a randomized controlled trial」. BMC musculoskeletal disorders.
- [3] Dimoulias T, Krekoukias G, Moutzouri M, Plakoutsis G, Paraskevopoulos E, Papandreou M.(2026).「Effects of a Single Session of Active Release Technique on Gastrocnemius Delayed-Onset Muscle Soreness in Male Amateur Football Athletes: A Randomized Split-Body Pilot Study」. Healthcare (Basel, Switzerland).