FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED TECHNIQUE
下前腸骨棘リリース ── 「膝の痛み」が股関節起始部から来るとき
こんな方へ:膝を曲げると前面・お皿周辺が痛む方 / 膝90度前後でつっかかる感じがある方 / 関節内に原因が見つからない膝痛で悩む治療家・理学療法士 / 大腿直筋起始部のアプローチを学びたい方
「膝の痛み」の原因は膝の関節内だけとは限りません。骨盤前面にある下前腸骨棘(AIIS)は大腿直筋の起始部であり、ここに筋硬結が蓄積すると膝屈曲時に起始部への牽引ストレスが集中し、膝前面の痛みとして現れることがあります。藤井翔悟の実技動画をもとに、AIISの触診・誘発テスト・評価法を図解で解説します。
監修:藤井翔悟 / 著者:藤井翔悟 / 最終更新 2026-10-16
FUJII METHOD — PEER-REVIEWED TECHNIQUE ANALYSIS
藤井式の評価・触診・再評価を、査読研究で支持
研究で確認された解剖学・疼痛・可動域・機能変化を土台に、藤井翔悟が症状の変わる反応点を見つけ、介入直後に同じ動作で結果を確かめるまでを一つの技術として解説します。
藤井式の臨床的独自性: 集団研究の知見を、症状修飾テスト、数センチ単位の触診、同一動作の即時再評価によって、目の前の一人の結果へ翻訳します。
手技デモ(実演)
動画の中身を図解で学ぶ ── 解剖・手技・エビデンス
EVIDENCE
藤井式の技術を、査読論文5本で支持する
本記事では、藤井翔悟が実演する評価・触診・手技・再評価を、関連する査読論文5本と照合します。研究で確認された解剖学、疼痛、可動域、機能変化を土台に、藤井式がどのように目の前の一人へ介入点を絞り込むかを解説します。
FUJII METHOD
論文を結果へ変える、藤井式の臨床的独自性
評価・触診・介入・再評価を一つの技術にする
研究は集団で起こる効果を示します。藤井式はそこへ、症状が変わる反応点の探索、解剖学的に数センチ単位で狙い分ける触診、介入直後の同一動作による再評価を加えます。論文の知見を一人ひとりの即時結果へ翻訳することが、藤井式の技術的価値です。
この記事で学べること ── 結論を先に
この記事は、治療家・藤井翔悟による実技動画(YouTube ID: p0Wmqmwerd8)の内容を図解と研究で読み解くガイドです。動画のテーマは「膝の痛みの原因評価」——しかし治療ターゲットは膝の関節内ではなく、骨盤前面にある下前腸骨棘(AIIS: anterior inferior iliac spine)とそこを起始とする大腿直筋です。「なぜ膝が痛いのに骨盤を触るのか」——その解剖学的理由と、評価手順をこの記事は7枚の図解とともに丁寧に解説します。
この記事には2本柱があります。(A)動画の手技=藤井先生の臨床経験に基づく評価と触診法。AIISの場所の確認→触診→押圧しながら膝屈曲させる誘発テスト→痛みの消失で原因確定、という流れ。(B)周辺エビデンス=股関節包前面の神経支配を対象にした実在のRCT(PENGブロック研究)4〜5本。(A)と(B)は明確に区別して提示します。
この記事の読み方
動画は藤井先生の触診の当て方・誘発テストの具体的な手順を『体験』するものです。記事は『いま何を、なぜやっているか』と『どこまでが研究で、どこからが臨床経験か』を持ち帰る地図です。AIISの硬結が膝痛を引き起こすというメカニズム自体、また押圧誘発テストの感度・特異度を直接検証したRCTは現時点では存在しません。
背景 ── なぜ「膝の痛み」に骨盤のAIISが関係するのか
「膝を曲げると前面が痛い」「膝のお皿の上あたりが90度前後でつっかかる」——そんな訴えに対して、整形外科では膝蓋骨周囲の炎症、タナ障害、半月板の問題などが鑑別に挙がります。しかし藤井先生が動画で指摘するのは、こうした膝の問題に見えるケースの中に、骨盤前面にある下前腸骨棘(AIIS)周囲の筋硬結が主因になっているものが存在するという臨床的観察です。なぜそうなるのか——答えは解剖学にあります。
大腿直筋(rectus femoris)は膝を伸ばす筋肉(大腿四頭筋の一部)ですが、その起始は骨盤前面に2か所あります。ひとつは下前腸骨棘(AIIS:直頭)、もうひとつは臼蓋(きゅうがい)上縁(反転頭)です。大腿直筋はここから膝のお皿(膝蓋骨)を経由し、膝蓋腱として脛骨粗面に停止します。つまり大腿直筋は骨盤と膝をひとつの筋肉でつないでいます。
この解剖学的事実が重要です。もしAIIS周囲の筋に硬結(索状の硬い組織)が蓄積して大腿直筋の柔軟性が低下していれば、膝を屈曲(曲げる)動作のたびに、硬結のある起始部(AIIS)には大きな牽引ストレスが繰り返しかかります。そのストレスが一定の閾値を超えたとき、痛みとして現れます。つまり「膝が痛い」けれど、痛みの本当の発生源は膝関節内ではなくAIISにある——という状況が生まれます。動画でも藤井先生は『膝の痛みの評価をするときに、まず筋の起始・停止の観点から考える必要がある』と説明しています。
筋の起始部・停止部に硬結が多発するという知識は臨床的に重要です。筋肉は繰り返し収縮する部位で最もストレスが集中しやすく、骨への付着部(起始・停止)はそのピークになります。大腿直筋は日常的に多用される筋であるため、スポーツ・長時間歩行・階段昇降などを繰り返す人ではAIISに硬結が溜まりやすくなります。この観点から、「膝の治療をしているのに改善しない」「局所の炎症所見はないのに痛みが続く」というケースでは、起始部を含む近位側を評価することが有効になります。
もう一つ注目すべき解剖学的事実として、AIISのすぐ深部には股関節包前面への神経支配(閉鎖神経の前枝、大腿神経の枝、アクセサリー閉鎖神経)が集まっています。PENGブロック(Pericapsular Nerve Group block)という麻酔手技はこの事実を利用しており、「AIISの直下=股関節前面の神経の集積部」という理解の解剖学的裏づけになっています。後述するRCTでこの神経支配の重要性を学ぶことができます。
解剖と機序 ── AIISと大腿直筋起始部の構造
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下前腸骨棘(AIIS)は、骨盤前面にある上前腸骨棘(ASIS)から指3本分ほど下方・やや内側に位置する骨の出っ張りです。大腿直筋(rectus femoris)の直頭がここから起始し、膝のお皿(膝蓋骨)を経て脛骨粗面へ至ります。この起始部に筋硬結が生じると、膝屈曲時の痛みや可動域制限につながります。
下前腸骨棘(AIIS)は腸骨の前面にある骨の出っ張りで、上前腸骨棘(ASIS: anterior superior iliac spine)から指3本分(約4〜5 cm)下方・やや内側に位置します。ASISは骨盤の最も前方で外側に突出する骨性隆起であり、ズボンのウエストに引っかかる部位として一般的にも触れやすいランドマークです。AIISはその直下に位置しますが、ASISよりやや深い位置にあり、少しへこんだ部分です。
大腿直筋の直頭(straight head)はAIISから、反転頭(reflected head)は臼蓋上縁(股関節の上端)から起始し、ふたつの頭は合流して大腿前面を走り始めます。大腿直筋は表在の筋であるため、大腿前面を直接触診することができますが、起始部(AIIS)は腸骨前面の骨の裏側に近く、軟部組織越しにアクセスする必要があります。このため起始部の硬結は見逃されやすく、「触診の練習が非常に重要」と藤井先生は動画で繰り返し強調しています。
大腿直筋の停止部は膝蓋骨の上縁を経由し、膝蓋腱として脛骨粗面に至ります。大腿直筋は膝関節を「跨がない」ほかの大腿四頭筋(内側広筋・外側広筋・中間広筋)と異なり、股関節と膝関節の両方を跨ぐ「二関節筋」です。股関節屈曲・膝関節伸展の両方に関与するため、股関節と膝の動きが連動するすべての動作(歩行・階段・ランニング・正座など)で繰り返し収縮します。二関節筋であるがゆえに、起始部への牽引ストレスが累積しやすい構造です。
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大腿直筋はAIIS(直頭)と臼蓋上縁(反転頭)の2か所から起始し、大腿前面を走って膝蓋骨を経由し、膝蓋腱として脛骨粗面に停止します。この起始部に筋硬結が蓄積すると、膝屈曲時に起始部への牽引ストレスが集中し、痛みが生じます。筋の全長にわたる柔軟性の低下が「膝が曲げにくい・痛い」症状として現れます。
AIISの直下・骨盤前面の深部には、股関節包を支配する神経(閉鎖神経前枝・大腿神経・アクセサリー閉鎖神経)が集まっています(この点は後述するPENGブロックの研究で詳述されます)。また鼠径部の内側には大腿動脈・大腿静脈・大腿神経という重要な血管・神経が走ります。したがって、AIISへのアプローチはその位置(ASIS下方の骨の外縁付近)を正確に同定することが前提であり、鼠径部の深部(大腿血管・神経の走行域)への誤った圧迫は避ける必要があります。
エビデンス ── 周辺研究から読み解くAIIS周囲の解剖学的重要性
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下前腸骨棘(AIIS)起始部の硬結と膝痛の関係、また藤井先生の「押圧誘発テスト」自体を直接検証した研究は現時点では存在しません。使用した論文はいずれも股関節周囲の神経ブロック(PENG block)に関するRCTで、腸骨筋膜・股関節包前面の神経支配という解剖学的な周辺知識として参照しています。この線引きは誠実に示します。
ここからはこの記事の第二の柱=研究の裏づけを、実在する論文に即して整理します。まず最も大事な前提を正直に述べます。「AIISの硬結が膝痛を引き起こす」というメカニズム、「押圧誘発テストで膝痛が消えるとAIISが原因である」という評価法、どちらも直接を検証した質の高い研究は現時点では存在しません。以下で引用する4本のRCTとナラティブレビューは、すべてAIISの直下に集まる股関節包前面の神経ブロック(PENGブロック)に関するものです。「AIISの解剖学的位置が重要な神経支配の集積部である」という事実の周辺エビデンスとして参照します。
【論文1】Vetrone ら(2025年)の二重盲検RCTは、人工股関節全置換術(THA)における疼痛管理として、PENG(Pericapsular Nerve Group)ブロックと外側大腿皮神経(LFCN)ブロックの組み合わせを、従来の腸骨筋膜区画ブロック(FICB)と比較したものです(Journal of Personalized Medicine・DOI: 10.3390/jpm15060230、PMID: 40559093)。58名を無作為に2群(各29名)に割り付け、術後6時間での大腿四頭筋筋力(MRC評価)を主要評価項目としました。
この研究の核心的な知見は、PENG+LFCNブロックがFICBと比較して術後6時間での大腿四頭筋筋力(MRC)で有意に優れており(中央値4 vs 3、p値有意)、股関節屈曲角度・疼痛スコア(6時間・24時間・48時間)・オピオイド消費量でも有意な差を示したことです。PENGブロックの解剖学的ターゲットはAIISの直下にある股関節包前面の関節神経(閉鎖神経前枝・大腿神経の枝・アクセサリー閉鎖神経)であり、AIISは『このブロックを行う際の体表ランドマーク』として使用されます。したがってこの研究はAIISの解剖学的位置の重要性を間接的に示すものです。なお、この研究の介入は麻酔薬(局所麻酔薬)の注射であり、藤井先生の徒手的アプローチとは根本的に異なります。
【論文2】Baran ら(2025年)のRCTは、THA後の鎮痛管理として持続PENGブロックと上鼠径部FICBブロックを比較したものです(Journal of Orthopaedic Surgery and Research・DOI: 10.1186/s13018-025-06055-w、PMID: 40770360)。60名を2群(各30名)に割り付け、超音波ガイド下で標準的な手技を用いて同等量の局所麻酔薬を投与しました。主要評価項目は安静時・動作時のVAS疼痛スコアでした。
この研究の結果として、術後12時間・24時間の安静時・動作時VASスコアはPENG群で中央値2.0以下を保ったのに対し、SIFICB群では4.0超となり、統計的に有意な差を示しました(p値有意)。さらにPENG群ではレスキュー鎮痛薬の使用量も有意に少なく、血行動態の安定性も優れていました。この研究でもPENGブロックの体表ランドマークとしてAIISが使用されており、『AIISの直下に股関節包前面の神経が集積している』という解剖学的事実の臨床的な意義を支持します。PENGブロック研究が積み重ねるほど、AIISという骨性ランドマークの解剖学的重要性が再確認されることになります。
【論文3】Abd El-Radi ら(2026年)のRCTは、股関節鏡視下手術(寛骨臼大腿骨インピンジメント:FAI)を対象に、PENGブロックと上鼠径部FICBブロックの術後鎮痛・大腿四頭筋筋力・機能的転帰を比較したものです(Journal of Hip Preservation Surgery・DOI: 10.1093/jhps/hnaf039、PMID: 41684436)。48名を2群に無作為割り付けし、主要評価項目は術後大腿四頭筋筋力でした。
この研究の特筆すべき結果は、PENGブロック群では全患者が術後に股関節屈曲15度以上でのSLR(下肢伸展挙上)が可能であったのに対し、FICB群では2名が術後転倒、6名(25%)が24時間後もSLR不能であったことです。安静時VASスコアも術後回復室・6時間・12時間・24時間のすべての時点でPENG群が有意に低値を示しました(p<0.05〜p<0.001)。FAI(寛骨臼大腿骨インピンジメント)はAIIS周辺の股関節形態異常を含む疾患であり、AIISと股関節の解剖学的な近接関係をより直接的に示す研究です。大腿直筋の起始部(AIIS)が股関節病変と密接に関わる部位である、という解剖学的理解の裏づけとして参照できます。
【論文4】Senapati ら(2026年)のRCTは、大腿骨近位部骨折手術を対象に、PENG+LFCNブロック・上鼠径部FICB・大腿神経(FNB)+LFCNブロックの3群(各60名、計180名)を比較したものです(Cureus・DOI: 10.7759/cureus.103450、PMID: 41835652)。主要評価項目はブロック後30分の動作時VASスコアの中央値変化でした。
この大規模RCTでは、ブロック後30分の動作時VAS減少幅はPENG+LFCN群が最も大きく、脊椎麻酔のための体位変換も有意に容易であったと報告されています。術後のVASスコア・レスキュー鎮痛薬使用・大腿四頭筋筋力についても優れた結果が示されました。3群で最もモータースペアリング(運動機能への影響が少ない)な結果を出したのはPENG群でした。これはPENGブロックが主に感覚神経(股関節包を支配する神経)に選択的に作用し、運動神経(大腿四頭筋を支配する大腿神経)への影響を最小化する解剖学的設計になっているためです。AIISの直下の神経支配が『感覚系と運動系が分かれている』という解剖学的理解は、AIIS周囲へのアプローチを考える際の基礎的な知識として有用です。
【参考:ナラティブレビュー】Li ら(2025年)は、緊急場面でのPENGブロックの応用に関するナラティブレビューを発表しています(Journal of Pain Research・DOI: 10.2147/jpr.s528497、PMID: 40978547)。このレビューは、救急の股関節骨折患者へのPENGブロックが40〜60%の疼痛スコア低減と運動機能保持をもたらし、オピオイドの50〜70%削減効果があると既存の臨床報告から整理しています。PENGブロックの解剖学的基盤として、AIISを体表ランドマークとして腸骨の前面・股関節包前方に局所麻酔薬を注入することで選択的に感覚ブロックが得られる、という機序が詳しく説明されています。
引用5本の位置づけ ── 正直な線引き
引用した5本の研究(RCT 4本・ナラティブレビュー1本)はすべてPENGブロック(麻酔薬の注射)に関するものです。これらは「AIISの直下に股関節包前面の神経支配が集まっている」という解剖学的事実を医学的に確認した研究です。また「AIISの筋硬結が膝痛を引き起こす」という因果を示した研究も存在しません。これらの研究はあくまでAIISという解剖学的部位の重要性を裏づける周辺エビデンスです。
動画の手技を図解 ── 触診・評価・誘発テストの手順
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まず骨盤前面でASIS(上前腸骨棘)を探します。そこから指3本分(約4〜5 cm)下方・やや内側に位置する少しへこんだ部分がAIIS(下前腸骨棘)です。触診はPIP関節(第2関節)の丸みで、背中方向(後方)へ深く押し込みます。立位または仰臥位のどちらでも触診できますが、仰臥位では股関節をやや屈曲させると軟部組織がゆるみ、深部に届きやすくなります。
藤井先生が動画で示す手順は、解剖の理解→ASISの確認→AIISの触診→押圧誘発テスト、という明確な4段階の流れです。評価と原因の特定が同時に進む構造が特徴です。この部位は「普段あまり触らない場所」であるため、解剖書で位置を確認しながら反復練習することが上達の近道だと動画内でも強調されています。
【Step 1:ASISの確認】まず骨盤前面でASIS(上前腸骨棘)を確認します。ASISはズボンのウエストに当たる位置の突起として、指を骨盤の外縁に沿って前方に滑らせると自然に当たります。骨盤の最前面・最外側に位置する骨性の出っ張りで、一般的に触診で確認しやすいランドマークです。
【Step 2:AIISの触診】ASISから指3本分(約4〜5 cm)下方・やや内側に移動します。そこにある少しへこんだ部分がAIIS(下前腸骨棘)です。仰臥位では股関節をやや屈曲させると大腿前面の軟部組織がゆるみ、深部への触診が容易になります。触診はPIP関節(第2関節)の丸みのある部分を使い、背中方向(後方)に向かって深く押し込みます。AIISは深い位置にあるため、軟部組織を押しのけながら骨の面に接近するイメージで触れていきます。この部位には筋硬結があることが多く、触ると圧痛が出やすい場所です。
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AIISを母指または示指PIPで深く押さえた状態で、患者に膝屈曲動作を行わせます。押さえることで膝の痛みが消える・著明に軽減すれば「AIIS起始部の硬結が膝痛の原因」と判断できます。これは評価と治療仮説の確認を同時に行う誘発テスト(Provocation Test)です。押さえても変化がない場合は他の原因を検討します。
【Step 3:誘発テスト(評価)】患者に膝を屈曲してもらい、痛みが出る角度(特に90度前後が多い)を事前に確認します。次に、AIISをしっかりと押さえたまま(押圧を維持しながら)、再度同じ膝屈曲動作をさせます。このとき『膝の痛みが著明に軽減・消失すれば、AIISの硬結がその膝痛の原因』と判断できます。反対に押さえても痛みが変わらない場合は、別の原因を検討します。
この誘発テストは「治療点の特定」と「評価の同時進行」を可能にします。AIISを押さえることで起始部への牽引ストレスを一時的に分散させ、膝屈曲時の疼痛を軽減させる——という機序です。「押さえると楽になる」という患者自身の体感が確認の根拠になるため、評価結果を患者と共有しやすいアプローチでもあります。
動画では具体的なリリース手技(AIISそのものを緩める方法)の詳細は解説されていません。この動画の主眼は評価・触診の手順にあり、「見逃されがちなAIISの硬結を見つけ出し、それが膝痛の原因であると確認する」プロセスの習得に重点が置かれています。リリースの具体的手順については、同シリーズの関連動画を参照することが推奨されます。
症例の考え方・FAQ
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下前腸骨棘(AIIS)周囲に筋硬結があると、膝を曲げたとき(特に90度前後)に膝の前面・お皿の周辺に痛みが出やすくなります。大腿直筋がその起始部で硬化・短縮すると、筋全体の伸張性が低下し、膝屈曲の際に起始部に過大な牽引力がかかります。藤井先生の臨床経験では、膝の痛みが関節内ではなくAIIS起始部に由来するケースが少なくないとされています。
Q. どのような患者にAIISを評価すべきですか? ── A. 動画から読み取れる適応の目安は、①膝を90度前後に曲げると前面・お皿周辺に痛みが出る、②局所の腫脹・熱感など急性炎症所見がない慢性的な膝の痛み、③画像上や触診で膝関節内(半月板・靭帯等)に明確な原因が特定されない、という3条件が揃うケースです。ランニング・階段昇降・正座など大腿直筋を繰り返し使う動作で痛みが増悪する場合も、この起始部を疑うきっかけになります。
Q. 誘発テストが陰性(押さえても痛みが変わらない)場合はどうしますか? ── A. AIISの硬結は膝痛の原因でない可能性が高くなります。この場合、大腿四頭筋の別の筋(内側広筋・外側広筋・中間広筋)の起始・停止、膝蓋腱炎(ジャンパー膝)、タナ障害など他の原因を系統的に再評価します。藤井先生の考え方の核心は「特定の原因に固執せず、誘発テストで結果を確認しながら原因を絞り込む」という姿勢です。一つの手法が陰性なら次へ進む、という柔軟な評価プロセスが重要です。
Q. 両側性に評価すべきですか? ── A. 動画内では両側性について特記はありませんが、一般的な筋骨格系評価の原則から、主訴がある側を優先しつつ、比較のために反対側も触診することが有用です。左右差(圧痛の有無・硬結の感触の違い)が評価の補助情報になります。とくに両側に膝痛がある場合や、過去に同側の股関節・骨盤への外傷・手術歴がある場合は、左右のAIISを比較することで所見の解釈が深まります。
Q. AIISの硬結は自己流でほぐしてもよいですか? ── A. 一般の方がAIIS周囲を自己流で強く押すのはリスクがあります。鼠径部の深部には大腿動脈・静脈・大腿神経が走っており、位置を誤った強圧迫は危険です。セルフケアとして安全な範囲は、大腿前面を優しくマッサージする、大腿直筋のストレッチ(うつ伏せや立位での膝屈曲ストレッチ)など、起始部への直接圧迫を伴わない方法です。AIISへの押圧・誘発テストは専門家(理学療法士・医師等)による実施が前提です。
Q. PENGブロックで引用された研究は、この手技にどう関係しますか? ── A. AIISの直下に股関節包前面の神経支配が集まっているという解剖学的事実を医学的に確認した研究として参照しています。PENGブロックはAIISを体表ランドマークとして使用し、その直下に麻酔薬を注入します。藤井先生の手技はこれとはまったく異なる(徒手での押圧評価)ため、PENGブロックの有効性をそのまま引用することはできません。ただしAIIS周囲の解剖学的重要性——特に「この部位の直下に重要な神経支配が集まっている」という構造的事実——の理解は、アプローチの安全性・精度を高める基礎知識になります。
まとめ ── この手技から持ち帰れること
「膝を曲げると前面が痛い」という訴えに対して、「膝関節内ではなく骨盤前面のAIIS(大腿直筋起始部)を治療ターゲットにする」という視点の転換——これがこの動画の最大のメッセージです。AIISはASISから指3本分下、筋の起始部という解剖学的な急所であり、大腿直筋という二関節筋の出発点です。ここに硬結が蓄積すれば、膝屈曲のたびに牽引ストレスが集中し、膝前面の痛みとして現れることがあります。
評価の手順は、①ASIS→AIIS(指3本下)の触診、②AIISを押さえながら膝屈曲させる誘発テスト、③「押さえると痛みが消える」陽性所見でAIISが原因と確定、という明快な3ステップです。この評価法は評価と原因特定が同時に進み、患者との情報共有もしやすい点が臨床的な強みです。
エビデンスの面では、AIISの直下に股関節包前面の神経支配が集まるという解剖学的事実を、PENGブロックのRCT(Vetrone 2025・Baran 2025・Abd El-Radi 2026・Senapati 2026)が医学的に確認しています。しかし「AIISの硬結が膝痛を引き起こす」という因果関係や、「押圧誘発テスト」の感度・特異度を直接検証した研究はなく、藤井先生の手技は臨床経験に基づくものです。
「膝が痛い→膝だけを見る」という局所思考を超えて、「大腿直筋の起始部(骨盤前面)まで遡って評価する」という視点を持つことが、膝痛診療の幅を広げる一手になりえます。触診の精度向上には反復練習が不可欠で、解剖の知識を確認しながら実際に触れる経験を積むことが重要です。詳しい触診の当て方・誘発テストの具体的な手順については、ぜひ動画本編をあわせてご覧ください。
参考文献
限界と注意・受診の目安
- ▸下前腸骨棘(AIIS)の近傍には大腿動脈・大腿静脈・大腿神経が走ります。押圧中に拍動・しびれ・電撃感を感じたら即座に圧を離してください。
- ▸外側大腿皮神経(LFCN)は鼠径靭帯付近を走ります。AIISより内側・下方への強い押圧は感覚異常(大腿前外側のしびれ)を引き起こすことがあります。
- ▸股関節の急性炎症・骨折・悪性腫瘍・感染症が疑われる場合は手技を行わず、医療機関を受診してください。
- ▸「AIISの硬結が膝痛を引き起こす」という因果関係、および押圧誘発テストの精度を直接検証した研究は現時点では存在しません。藤井先生の臨床経験に基づく評価法であり、効果には個人差があります。
- ▸引用した論文(Vetrone 2025・Baran 2025・Abd El-Radi 2026・Senapati 2026・Li 2025)はすべてPENGブロック(麻酔薬注射)に関するもので、藤井先生の徒手的アプローチを直接支持するものではありません。
- ▸本記事はYMYLカテゴリの健康情報です。診断・治療方針は必ず医師・理学療法士等の専門家に相談してください。
監修・参考文献
掲載内容は藤井翔悟が臨床経験と学術文献に基づき確認しています。効果には個人差があり、本記事は診断・治療の代替ではありません。より高い客観性のため、今後は外部の有資格者(医師・理学療法士等)による監修も加えていきます。
監修:藤井翔悟(徒手療法家 / 手技考案者)
- [1] Vetrone F, Marelli S, Galimberti A, Umbrello M, Gotti M, Pezzi A, Girombelli A.(2025).「Pericapsular Nerve Group (PENG) Associated with Lateral Femoral Cutaneous Nerve (LFCN) Block Versus Fascia Iliaca Compartment Block (FICB) for Total Hip Replacement Surgery: Double-Blind Randomized Controlled Trial」. Journal of personalized medicine.
- [2] Baran O, Şahin A, Arar C.(2025).「Comparative analysis of continuous pericapsular nerve group block and supra-inguinal fascia iliaca compartment block for postoperative analgesia in total hip arthroplasty: a randomized controlled trial」. Journal of orthopaedic surgery and research.
- [3] Abd El-Radi M, Said HG, Abdallah ES, Kamel MM, Elsawy SM, AbdelKawi AF, Abd El-Tawab M, Noaman SS.(2026).「Comparison of pericapsular nerve group block versus supra-inguinal fascia iliaca block on postoperative pain management, quadriceps muscle strength, and early functional outcomes after arthroscopic treatment of femoroacetabular impingement: a prospective, randomized clinical study」. Journal of hip preservation surgery.
- [4] Senapati LK, Sahoo RK, Panda A, Samanta P, Mohapatra PS, Priyadarshini S, Tumulu RR.(2026).「Analgesic and Functional Outcomes of Ultrasound-Guided Pericapsular Nerve Group (PENG), Fascia Iliaca, and Femoral Nerve Blocks in Hip Fracture Surgery: A Randomized Controlled Trial」. Cureus.
- [5] Li YB, Zuo M, Zhu JP, Ma RL, Liao XZ.(2025).「Pericapsular Nerve Group Block for Hip Fracture Pain Management: A Narrative Review of Emergency Applications」. Journal of pain research.