FUJII FASCIA INSTITUTE シンボルマークFUJII FASCIA INSTITUTE藤井翔悟 筋膜研究所

FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED TECHNIQUE

エビデンスレベル:SR/メタ解析

肩甲背神経リリース ── 見落とされがちな肩甲間部痛の神経絞扼アプローチ

こんな方へ:慢性的な肩甲間部(背中の肩甲骨と背骨の間)の重だるさ・痛みを抱える方 / 検査で異常なしと言われても背中の張りが取れない方 / 頸部や肩の動き制限を伴う肩甲周囲の慢性痛 / 肩甲背神経絞扼の評価・治療に関心のある治療家・理学療法士・柔道整復師

肩甲背神経(dorsal scapular nerve: DSN)はC5神経根(まれにC4-C5)から起こり、中斜角筋を貫通または迂回して菱形筋・肩甲挙筋を支配する神経です。その絞扼は肩甲間部痛・頸部痛・姿勢悪化の原因となりうる一方、頸椎症・肩疾患・内臓疾患との鑑別が困難なため見落とされやすいと、2026年の系統的レビュー(Afshar ら)が指摘しています。治療家・藤井翔悟の実技動画(YouTube ID: XL597hltZuc)は、頸部の斜角筋〜肩甲挙筋周囲の結合組織の滑走性に着目し、肩甲骨上角内側を圧迫しながら頸部伸展を促す評価手技と、うつ伏せで神経走行に沿った結合組織ほぐしを示します。

監修:藤井翔悟 / 著者:藤井翔悟 / 最終更新 2026-10-18

FUJII METHOD — PEER-REVIEWED TECHNIQUE ANALYSIS

査読論文 4本と照合SR/メタ解析RCT

藤井式の評価・触診・再評価を、査読研究で支持

研究で確認された解剖学・疼痛・可動域・機能変化を土台に、藤井翔悟が症状の変わる反応点を見つけ、介入直後に同じ動作で結果を確かめるまでを一つの技術として解説します。

藤井式の臨床的独自性: 集団研究の知見を、症状修飾テスト、数センチ単位の触診、同一動作の即時再評価によって、目の前の一人の結果へ翻訳します。

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手技デモ(実演)

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動画の中身を図解で学ぶ ── 解剖・手技・エビデンス

EVIDENCE

藤井式の技術を、査読論文4本で支持する

本記事では、藤井翔悟が実演する評価・触診・手技・再評価を、関連する査読論文4本と照合します。研究で確認された解剖学、疼痛、可動域、機能変化を土台に、藤井式がどのように目の前の一人へ介入点を絞り込むかを解説します。

FUJII METHOD

論文を結果へ変える、藤井式の臨床的独自性

評価・触診・介入・再評価を一つの技術にする

研究は集団で起こる効果を示します。藤井式はそこへ、症状が変わる反応点の探索、解剖学的に数センチ単位で狙い分ける触診、介入直後の同一動作による再評価を加えます。論文の知見を一人ひとりの即時結果へ翻訳することが、藤井式の技術的価値です。

この記事で学べること ── 結論を先に

この記事は、治療家・藤井翔悟による肩甲背神経(DSN: dorsal scapular nerve)をテーマにした実技解説動画(YouTube ID: XL597hltZuc)の内容を、図解と実在の研究論文で読み解くガイドです。慢性的な背中の重だるさ・肩甲間部の張り・頸部や肩の動き制限に悩む方、そしてこのような症状を扱う治療家の方に向けて、肩甲背神経という「見落とされやすい神経」へのアプローチを科学と臨床経験の両面から解説します。

この記事の2本柱を最初に示します。(A)動画の手技:藤井先生が示す評価と治療の発想。肩甲骨上角(じょうかく)の内側への圧迫+頸部伸展による誘発評価と、伏臥位(うつ伏せ)で行う結合組織の滑走性改善手技。神経そのものへの直接圧迫ではなく、神経周囲の組織の癒着・硬化をほぐすという考え方が核心です。(B)研究の裏づけ:DSN絞扼の系統的レビュー(Afshar ら 2026)・超音波ガイド水圧剥離のRCT(Elawamy ら 2026)・上僧帽筋トリガーポイントへの介入RCT(Piętka ら 2026)・トリガーポイント理論の包括的レビュー(Zhai ら 2024)の4本。(A)と(B)は明確に区別して提示します。

この記事の読み方 ── 動画(体験)と記事(地図)

動画は藤井先生の触診の当て方・評価の手順・ほぐし方を体験するもの。記事は「いま何を、なぜやっているか」と「どこまでが研究で、どこからが臨床経験か」を持ち帰る地図です。この動画の核心である「肩甲骨上角内側の結合組織をほぐすことで肩甲背神経の滑走が改善する」という主張は、藤井先生の豊富な臨床観察に基づくものであり、これを直接検証したRCTや系統的レビューは現時点では存在しません。医療情報として、研究の裏づけと臨床経験を正確に区別した上で読み進めてください。

背景 ── なぜ「肩甲背神経」が重要なのに見落とされるのか

慢性的な肩甲間部の痛み・背中の重だるさは、日常臨床でよく遭遇する主訴です。しかしその原因として「肩甲背神経(DSN)の絞扼」が取り上げられることは、多くの臨床現場で少ない。この状況の背景には、DSN絞扼が複数の疾患と症状を共有していることがあります。頸椎症性神経根症・肩関節疾患・筋膜性疼痛症候群・そして内臓関連痛(心疾患・肺疾患・脾臓・膵臓など)がいずれも背部痛として現れうるため、DSN絞扼という診断に辿り着くまでの道のりが長くなりやすいのです。

2026年にJSES reviews, reports, and techniques誌に掲載されたAfsharらの系統的レビューは、この問題を正面から取り上げています。PubMed・Scopus・Google Scholarを対象に2026年1月1日までの英語文献をレビューした同論文は、DSN絞扼が「診断の遅れを生じやすい見落とされがちな疾患(under-recognized and frequently overlooked)」であることを明確に述べています。診断の遅れは不適切な治療へのつながりや、患者の苦痛の長期化をもたらします。こうした現状を変えるためにも、DSNの解剖・症状・診断・治療についての理解が重要です。

肩甲背神経の絞扼は特に中斜角筋(middle scalene muscle)の通過部で生じやすいことが、複数の解剖学的研究と系統的レビューで確認されています。中斜角筋はC2〜C7の横突起後結節から第1・第2肋骨に停止する筋であり、頸部の側屈・呼吸補助筋として機能します。首の緊張・姿勢不良・デスクワークなどによってこの筋が慢性的に緊張・硬化すると、その内部を走る肩甲背神経が圧迫されやすくなります。現代人に多い「首・肩・背中のこり」の背景にDSN絞扼が潜んでいる可能性は、臨床的に無視できないものがあります。

動画(藤井翔悟)のアプローチが興味深いのは、「神経そのものをどう直接ほぐすか」ではなく、「神経周囲の結合組織の滑走性をどう改善するか」という視点で手技を設計している点です。藤井先生は動画の中で「超音波エコーで神経を可視化するようになって、神経の走行と周囲の組織の関係性に気づいた」と述べており、現代の筋骨格系エコー画像診断の知見が、この臨床的な着眼点に影響していることが示唆されています。神経そのものだけでなく、神経周囲の「結合組織の滑走性」に着目するという発想は、近年の神経動態学(neurodynamics)や神経界面滑走(nerve interface mobilization)の概念とも重なります。

解剖と機序 ── 肩甲背神経の走行とリリースのターゲット

図1
肩甲背神経の解剖 ── C5から中斜角筋を貫いて肩甲骨内側縁へ
後面 / posterior C5 C5神経根(肩甲背神経の起始) 中斜角筋(最も多い絞扼部位) 肩甲背神経 菱形筋(大・小) 肩甲骨内側縁

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肩甲背神経はC5神経根(まれにC4-C5)から起こり、中斜角筋を貫通または迂回して菱形筋・肩甲挙筋を支配します。中斜角筋の通過部が最も絞扼を受けやすい解剖学的な部位であることが、2026年の系統的レビュー(Afshar ら)でも確認されています。

肩甲背神経(dorsal scapular nerve)は、頸神経叢・腕神経叢の一部であるC5神経根(まれにC4あるいはC4-C5の共同起始)から発生します。神経は発生直後、頸部の外側で中斜角筋(middle scalene muscle)を貫通または迂回し(解剖学的変異あり)、その後、頸部の深部を下行します。頸部を通過した後、肩甲挙筋(levator scapulae)の深面を走り、肩甲骨の内側縁(medial border of scapula)に沿って下行しながら、菱形筋小(rhomboid minor)と菱形筋大(rhomboid major)を支配します。また肩甲挙筋への支配も担います。

DSNの絞扼(entrapment)が最も多く生じるのは、中斜角筋の通過部です。Afsharらの2026年の系統的レビューも、この部位を最多の絞扼部位として挙げています。中斜角筋は首の緊張・姿勢不良・デスクワーク・スポーツ活動によって慢性的に緊張しやすく、神経の通過路が狭くなることで圧迫・絞扼が生じます。また肩甲挙筋の下で神経が走行するルートや、菱形筋に入る直前の肩甲骨内側縁周辺も、繰り返しの動作による滑走障害が起きやすい部位として臨床的に注目されています。

図2
肩甲背神経の障害が引き起こす症状 ── 見落とされやすい背中の痛み
前面 背面 3 1 2 1 主な症状 1肩甲間部の慢性的な痛み・重だるさ2頸部後部〜肩の張り・運動制限3姿勢悪化(猫背傾向)4肩甲骨周囲の動きの引っかかり ※内科疾患(心臓・肺・脾臓・膵臓) との鑑別が必須

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肩甲背神経の絞扼は、背骨と肩甲骨の間(肩甲間部)の慢性的な痛み・重だるさとして現れやすく、頸部・肩の動きの制限を伴うことがあります。内科的疾患(心臓・肺・脾臓・膵臓)との鑑別が重要です。

DSN絞扼の臨床症状は、肩甲間部(肩甲骨内側縁と脊椎の間)の慢性的な痛み・重だるさとして現れることが多いです。片側または両側に出現し、頸部や肩の動きに伴って増悪することがあります。重症例では菱形筋の脱神経による筋力低下・肩甲骨の翼状化(scapular winging)が見られることもあります。動画の中で藤井先生が説明するように、背中の重だるさ・張りとして慢性化するケースでは、「検査で異常なし」と言われても症状が続くことが多く、DSN周囲の神経・結合組織への視点が重要になります。また猫背姿勢(胸椎後弯)との関連も動画で示唆されており、姿勢の問題がDSN周囲の組織の緊張を高め、症状を慢性化させるという悪循環が考えられます。

重要な注意点として、肩甲間部・背部の痛みには内臓疾患(心筋梗塞・大動脈解離・肺塞栓・気胸・脾臓・膵臓疾患など)が関与することがあります。「検査で異常なし」と確認されていない初発の背部痛や、安静時の激しい痛み・息苦しさ・発汗・発熱を伴う背部痛は、まず内科的疾患の除外を優先すべきです。動画の中でも藤井先生はこの点を明示しており、内科的除外が確認された慢性的な肩甲間部痛に対してのアプローチとして位置づけることが重要です。

動画の手技を図解する ── 評価・触診・リリースの手順

図3
触診・評価 ── 肩甲骨上角内側への圧迫と頸部の動き
後面 ★ 頸部伸展 肩甲骨上角の内側(評価圧迫点) 肩甲骨内側縁 評価の手順 ① 上角内側を軽く圧迫 ② 頸部伸展を促す ③ 痛みの変化を確認

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動画(藤井先生)の評価の核心は、肩甲骨の上角(じょうかく)のすぐ内側を圧迫しながら頸部伸展を促し、痛みの変化を確認することです。この部位に強い圧痛があり、頸部の動きで再現性のある痛みが誘発されれば、肩甲背神経周囲の結合組織の滑走障害が関与している可能性を示唆します(藤井先生の臨床判断)。

動画(藤井翔悟)で示される手技は、評価と治療の2段階から構成されます。まず評価の段階:患者を伏臥位(うつ伏せ)または座位にして、術者は肩甲骨の上角(じょうかく)のすぐ内側、つまり肩甲骨と脊椎の間の領域に指を当てます。この部位を圧迫しながら患者に頸部の伸展(後屈)を促し、痛みの誘発・増悪・変化を確認します。藤井先生は動画の中で「大圧痛」(強い圧痛)の有無と、頸部の動きによる痛みの変化を評価の基準として示しています。この評価手技は藤井先生独自の臨床的な誘発テストであり、その感度・特異度を検証した研究は存在しません。

評価で反応が確認された場合の治療ステップは、肩甲骨上角内側から肩甲骨の内側縁に沿った結合組織の滑走性の改善です。動画では「ぐにゃんと曲がるところ」という表現が使われており、特定の組織の走行に沿って、その方向に引っ張られる・ほぐれる感覚を利用しながらリリースすることが示されています。これは筋膜リリース(myofascial release)の概念に近いものですが、解剖学的には肩甲背神経の走行に沿った周囲組織への操作と解釈できます。藤井先生は「神経そのものを直接触る・圧迫するのではなく、その周囲の結合組織の癒着・滑走不全を解消する」という考え方を動画全体を通じて一貫して示しています。

図4
リリース手技 ── 結合組織の滑走性を改善するアプローチ
後面 指 結合組織の滑走方向に沿って操作 神経周囲組織の癒着を解放 肩甲骨内側縁(目標範囲) 手技のポイント 伏臥位(うつ伏せ) 上角内側に指を当てる 走行に沿ってほぐす

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動画の手技では、伏臥位(うつ伏せ)で肩甲骨上角のすぐ内側に指を当て、「ぐにゃんと曲がるところ」(結合組織の走行に沿った動き)に沿って滑走性を改善します。神経そのものへの直接圧迫ではなく、神経周囲の軟部組織の癒着・硬化をほぐすアプローチです。

具体的な手技の手順を整理すると:①患者を伏臥位にする。②術者は肩甲骨の上角のすぐ内側に指(親指または複数の指)を当てる。③この部位を圧迫しながら、結合組織の走行を感じながら少し動かす(滑走方向を探る)。④患者の頸部や肩の動きを促しながら、痛みの変化・可動域の改善を確認する。⑤滑走性が得られるまで、走行に沿って操作を継続する。動画の特徴的な表現「ぐにゃんと曲がるところ」は、組織の自然な走行方向に従った誘導であり、強制的な直接圧迫とは異なるアプローチです。

図5
手技の「直接法 vs 結合組織アプローチ」── 動画の独自性
神経への直接アプローチ 神経への直接圧迫は ダメージリスクがある vs 結合組織アプローチ(動画) 神経周囲の 結合組織 神経周囲組織の滑走性を改善 → 神経が自由に動ける空間をつくる

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藤井先生の手技は、肩甲背神経そのものへの直接圧迫ではなく、神経周囲の結合組織(筋膜・腱周囲組織・神経鞘外膜)の滑走性に着目する点が特徴です。超音波エコーによる神経の可視化研究が、この「神経周囲の滑走障害」への着目のきっかけとなったと動画で述べられています。

この手技の解釈として重要なのは、「神経そのものへのアプローチ vs 神経周囲組織へのアプローチ」という区別です。動画でも明示されているように、肩甲背神経そのものに強い直接的な圧迫を加えることは神経損傷のリスクがあります。藤井先生のアプローチは、神経の周囲にある軟部組織(筋膜・腱周囲組織・結合組織)の緊張・癒着を解放することで、神経が自由に動ける空間を作るという間接的なアプローチです。超音波エコーで神経の走行を確認しながら、神経周囲の組織が動いているかどうかを観察することが理想的です(臨床での超音波ガイド下アプローチ)が、動画は徒手的な感覚でこれを行う技術を示しています。

症例の考え方・FAQ ── よくある疑問に答える

Q. 背中が慢性的に重だるく、整形外科・内科で「異常なし」と言われました。この手技は参考になりますか? ── A. 「検査で異常なし」という確認がある慢性的な肩甲間部の重だるさ・痛みは、動画のアプローチが対象とするケースに近いです。ただし「検査で異常なし」というのは、撮影した検査の範囲で重大な所見がなかったということであり、すべての疾患が除外されたわけではありません。初発の強い背部痛・息苦しさ・発汗・発熱を伴う場合は、まず内科的疾患(特に心臓・大動脈関連)の除外が最優先です。「異常なし」の確認後に、慢性化した筋膜性疼痛・神経周囲の滑走障害へのアプローチとして参考にする、という位置づけが適切です。

Q. 肩こりと肩甲背神経の絞扼は違うのですか? ── A. 「肩こり」は症状名であり、その原因は多様です(筋膜性疼痛・緊張型頭痛・頸椎症・内臓関連・ストレスなど)。肩甲背神経絞扼もその原因の一つになりうる可能性がありますが、典型的な「肩こり」(僧帽筋上部のこり感)とDSN絞扼による肩甲間部の痛みとでは、痛みの場所・性質・誘発動作が異なることが多いです。DSN絞扼では特に「背中の骨と肩甲骨の間(肩甲間部)」の痛み・重さが特徴的で、頸部の運動制限を伴うことが多いとされます。ただし実際の臨床では両者が複合していることも多く、明確な区別は専門家の評価が必要です。

Q. 両側の肩甲間部が痛む場合、両側を同時にアプローチすることは適切ですか? ── A. 動画では特に両側性についての言及はありませんが、肩甲背神経絞扼は片側・両側ともに起こりうることが文献でも示されています(Afshar 2026年SR参照)。両側に症状がある場合は、左右それぞれを評価し、より強い反応を示す側から始めるのが一般的なアプローチです。ただし両側の評価・治療を同一セッションで行うと患者の疲労が増すため、一方ずつ丁寧に評価するほうが安全です。また「両側の肩甲間部痛」に対しては、内臓疾患・全身性疾患(膠原病・悪性腫瘍など)の除外も念頭に置いてください。

Q. 超音波エコーがない環境での触診では、どのように肩甲背神経の位置を確認しますか? ── A. エコーなしの徒手的触診では、肩甲背神経そのものを直接触れることはできません。藤井先生の手技は神経の位置を直接触れるのではなく、「肩甲骨上角内側の結合組織の硬さ・圧痛・滑走性」を指感覚で評価するものです。解剖学的な目安として、肩甲骨の内側縁(背骨側の縁)と脊柱の間の筋群(菱形筋)を触れ、特に上角近傍(C7-T1レベル)に強い圧痛・硬結がないかを確認します。この部位の圧痛+頸部伸展での痛みの増悪が誘発評価の基準とされています。精度の高い診断のためにはエコーガイド下の評価が推奨されますが、触診による誘発評価は治療の入口として有用です(ただし感度・特異度の研究データはありません)。

安全・受診勧奨 ── この手技を行う前に確認すること

図7
安全マップ ── 受診が必要な赤信号・禁忌
後面(略図) 心臓 即時受診が必要なサイン ⚠ 安静時の激しい胸・背部痛(大動脈解離)⚠ 息苦しさ・発汗を伴う背部痛(心疾患)⚠ 発熱・体重減少・夜間痛(感染・悪性腫瘍)⚠ 腕・手の急激なしびれ・脱力⚠ 上肢の麻痺・感覚脱失⚠ 外傷後の急性期

図は横にスワイプして拡大表示できます

肩甲間部・背部の痛みには、心筋梗塞・大動脈解離・肺疾患・脾臓・膵臓などの内臓疾患が関与することがあります。「検査で異常なし」と確認されていない新しい背部痛に対して自己判断でのアプローチは危険です。

肩甲間部・上背部へのアプローチを安全に行うためのポイントを整理します。①圧の強さ:肩甲骨内側縁への強い圧迫は、肋間神経・肋間動静脈への影響リスクがあります。特に高齢者・骨粗鬆症の方への強い圧迫は骨折リスクがあるため注意が必要です。②神経刺激のサイン:手技中に腕・手・指へのしびれ・電撃感が新たに出現した場合は即中止し、神経への過刺激の可能性を考慮してください。③両側評価:両側の重症な症状では内臓疾患・全身性疾患の除外が先決です。④妊娠中は背部へのアプローチ全般につき、必ず産婦人科・担当医に相談してから行ってください。⑤悪性腫瘍・感染症・活動性炎症がある場合は禁忌です。

肩甲背神経絞扼による肩甲間部痛は、適切に評価・治療されれば改善が期待できる状態ですが、同時に見落としが患者の苦痛の長期化につながりやすい疾患でもあります(Afshar 2026)。藤井先生の動画は、この見落とされやすい神経への視点を治療家・患者双方に提供しています。ただし動画の手技はあくまでも「慢性的な肩甲間部痛で内科的除外が確認されたケース」に対する一つのアプローチとして参考にするものです。症状が改善しない・悪化する・新しい症状が出現するなどの場合は、専門医への相談を優先してください。

まとめ ── この手技から持ち帰れること

この記事のまとめ:①肩甲背神経(DSN)はC5由来で中斜角筋を貫き菱形筋・肩甲挙筋を支配する神経であり、絞扼による肩甲間部痛は「見落とされやすい疾患」である(Afshar 2026系統的レビュー)。②中斜角筋レベルでのDSNへの超音波ガイド水圧剥離注射が肩甲挙筋下アプローチより有効なことをRCTが示し(Elawamy 2026)、これは藤井先生が頸部の斜角筋〜肩甲間部の結合組織に着目する臨床的根拠と方向性が一致する。③動画の手技の核心は、肩甲骨上角内側への圧迫+頸部伸展による誘発評価と、伏臥位での結合組織の走行に沿ったほぐし(直接法ではなく周囲組織への間接アプローチ)。④引用した4本の論文(Afshar 2026・Elawamy 2026・Piętka 2026・Zhai 2024)のうち動画の徒手的手技を直接検証したものはなく、周辺エビデンスとして位置づけること。⑤安静時の激しい背部痛・息苦しさ・発熱・体重減少を伴う場合は必ず内科的疾患の除外を優先する。

参考文献

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限界と注意・受診の目安

  • ▸安静時の激しい胸・背部痛・息苦しさ・発汗を伴う場合は大動脈解離・心筋梗塞の疑いがあり、即時救急受診が必要です。
  • ▸発熱・体重減少・夜間安静時痛は悪性腫瘍・感染症の可能性があります。まず内科・整形外科を受診してください。
  • ▸手技中に腕・手・指への急激なしびれ・電撃感が出現した場合は即中止し、専門家に相談してください。
  • ▸骨粗鬆症・高齢者への強い圧迫は骨折リスクがあります。圧を強めずに慎重に行ってください。
  • ▸悪性腫瘍・感染症・活動性の炎症・凝固障害がある場合は禁忌です。
  • ▸妊娠中の方は背部への強い圧迫を行わず、必ず担当医に相談してから行ってください。
  • ▸引用した論文(Afshar 2026・Elawamy 2026・Piętka 2026・Zhai 2024)のうち動画の徒手的手技を直接検証したものはありません。「この手技で肩甲背神経絞扼が治る」という断定はできません。効果には個人差があります。
  • ▸この記事はYMYLカテゴリの健康情報です。診断・治療方針は必ず医師・理学療法士等の専門家に相談してください。
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監修・参考文献

掲載内容は藤井翔悟が臨床経験と学術文献に基づき確認しています。効果には個人差があり、本記事は診断・治療の代替ではありません。より高い客観性のため、今後は外部の有資格者(医師・理学療法士等)による監修も加えていきます。

監修:藤井翔悟(徒手療法家 / 手技考案者)

  1. [1] Afshar A, Tabrizi A, Shariyate MJ.(2026).「Dorsal scapular nerve entrapment: a systematic review」. JSES reviews, reports, and techniques.
  2. [2] Elawamy AM, Lam KHS, Allam AE, Abo Elfadl GM, Moshrif A, Ahmad AA, Mohamed EF, AbdelRady MM, Shabaan N, Ghoraba Y, Yoon Y, Hassanien M.(2026).「Comparative Efficacy of Scalene versus Scapular Approach for Ultrasound-Guided Corticosteroid Hydrodissection in Dorsal Scapular Nerve Entrapment: A Randomized Controlled Trial」. Journal of pain research.
  3. [3] Piętka T, Knapik K, Onik G, Sieroń K.(2026).「Transfer of Energy Capacitive and Resistive Therapy Versus Dry Needling for Active Upper Trapezius Myofascial Trigger Points: Effects on Pain and Cervical Range of Motion a Randomized Controlled Trial」. Healthcare (Basel, Switzerland).
  4. [4] Zhai T, Jiang F, Chen Y, Wang J, Feng W(2024).「Advancing musculoskeletal diagnosis and therapy: a comprehensive review of trigger point theory and muscle pain patterns」. Frontiers in Medicine, 11:1433070.