FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED TECHNIQUE
尺側手根屈筋リリース ── 手首の尺側痛・腱鞘炎を「小指外転筋」の筋膜連鎖から読み解く
こんな方へ:手首の小指側(尺側)が痛む・腱鞘炎と診断されたが改善しない / 手首を手のひら側に曲げる(掌屈)と痛みが出る / 尺側偏位(小指側に傾ける)で手首が痛い / 前腕の内側がこわばる・重だるい / 筋膜のつながりを活かした手首のリリースを学びたい / 手首を扱う治療家・セラピスト
尺側手根屈筋(flexor carpi ulnaris: FCU)は上腕骨の内側上顆から起こり、前腕の尺骨側を縦走して手首の豆状骨・有鈎骨鈎・第5中手骨底に停止する屈筋である。手首の掌屈と尺側偏位を担い、遠位では尺骨神経と尺骨動脈が深層を並走するため、硬結(きんこうけつ)が生じると神経・血管への影響も起きうる。治療家・藤井翔悟の実技動画(YouTube ID: T_3fReY_JK0)は、腱鞘炎の症状で手首の尺側に痛みが出るケースにおいて、FCU自体を直接ほぐすのではなく、筋膜でつながる小指外転筋(abductor digiti minimi: ADM)を治療することで間接的にFCUを緩める、という独自のアプローチを解説している。
監修:藤井翔悟 / 著者:藤井翔悟 / 最終更新 2026-08-02
FUJII METHOD — PEER-REVIEWED TECHNIQUE ANALYSIS
藤井式の評価・触診・再評価を、査読研究で支持
研究で確認された解剖学・疼痛・可動域・機能変化を土台に、藤井翔悟が症状の変わる反応点を見つけ、介入直後に同じ動作で結果を確かめるまでを一つの技術として解説します。
藤井式の臨床的独自性: 集団研究の知見を、症状修飾テスト、数センチ単位の触診、同一動作の即時再評価によって、目の前の一人の結果へ翻訳します。
手技デモ(実演)
動画の中身を図解で学ぶ ── 解剖・手技・エビデンス
EVIDENCE
藤井式の技術を、査読論文4本で支持する
本記事では、藤井翔悟が実演する評価・触診・手技・再評価を、関連する査読論文4本と照合します。研究で確認された解剖学、疼痛、可動域、機能変化を土台に、藤井式がどのように目の前の一人へ介入点を絞り込むかを解説します。
FUJII METHOD
論文を結果へ変える、藤井式の臨床的独自性
評価・触診・介入・再評価を一つの技術にする
研究は集団で起こる効果を示します。藤井式はそこへ、症状が変わる反応点の探索、解剖学的に数センチ単位で狙い分ける触診、介入直後の同一動作による再評価を加えます。論文の知見を一人ひとりの即時結果へ翻訳することが、藤井式の技術的価値です。
この記事で学べること/結論を先に
この記事は、治療家・藤井翔悟による尺側手根屈筋(FCU)と手首の痛みをテーマにした実技動画(YouTube ID: T_3fReY_JK0)の内容を、7枚の図解と実在の研究論文で読み解くガイドです。最初に正直な前置きを述べます。この動画は「FCUをほぐす方法」というシンプルなハウツーではありません。動画の核心にあるのは「硬いFCUを直接マッサージしても緩まない・すぐ戻る。だから筋膜でつながる小指外転筋(ADM)を治療する」という考え方です。この間接法のアプローチが動画全体を貫くテーマです。
学べること4つを先に示します。①尺側手根屈筋とはどんな筋か(解剖・機能・走行)。②なぜこの筋が手首の尺側の痛みや腱鞘炎と関係するのか。③藤井先生が示す触診・評価の考え方。④なぜFCUではなく小指外転筋(ADM)を治療するのか、どう行うか。以下2つの柱を明確に区別して進めます。(A)動画の手技=藤井先生の臨床経験に基づくアプローチ。(B)周辺のエビデンス=実在4本の論文が照らすもの。「治る」という断定はしません。
この記事の読み方 ── 動画(体験)と記事(地図)
動画は藤井先生の触診・評価・リリースの発想を体験するもの。記事は「いま何を、なぜやっているか」と「どこまでが研究で、どこからが臨床経験か」を持ち帰る地図です。動画の核心である「FCU硬結→腱鞘炎」「ADM治療でFCUが緩む」という主張は藤井先生の豊富な臨床観察に基づくものであり、直接検証したRCT・系統的レビューは現時点では存在しません。医療情報として、研究の裏づけと臨床経験を正確に区別した上で読み進めてください。
背景 ── なぜ尺側手根屈筋が手首の痛みに関係するのか
「腱鞘炎(けんしょうえん)」は、腱や腱鞘(腱を包む鞘状の膜)に炎症が生じる状態の総称です。手首の尺側(小指側)の痛みとして現れるケースでは、TFCC(三角繊維軟骨複合体)損傷、尺骨突き上げ症候群、de Quervain(ドゥケルバン)病(これは橈側ですが)、そして尺側手根屈筋(FCU)周辺の問題など、複数の原因が考えられます。動画で藤井先生が着目するのは、これらのうち筋肉・筋膜のレベルで対処できる可能性があるもの ── 特にFCUの硬化と、それに連動する筋膜的な問題です。
手首の尺側(小指側)は解剖学的に複雑な部位です。TFCC・尺側手根屈筋腱・尺骨神経・尺骨動脈・豆状骨関節など、多くの構造が密集しています。このうちFCUは最も強力な手首屈曲筋のひとつであり、その腱は豆状骨に確固として停止します。スポーツ・デスクワーク・手先を多用する職業(調理師・美容師・楽器奏者など)では、FCUへの慢性的な負荷が大きく、硬結(筋内の硬い索状の病変部)が生じやすい。硬結そのものが直接痛みを起こすというよりも、硬結を持つFCUが手首の滑走性・可動域・負荷分散に影響し、それが腱鞘炎様の症状として現れる、というのが藤井先生の臨床観察の背景にある考え方です。
さらに重要なのは、FCUのすぐ深層を尺骨神経と尺骨動脈が走行するという解剖学的な事実です。Guyon管(手関節部の豆状骨と豆鈎靭帯で形成されるトンネル)に向かう尺骨神経はFCU腱の外側を通り、小指・薬指の感覚と手内在筋の運動を担います。FCU周辺の硬さが強くなると、この神経・血管への機械的な影響も考えられます。手首の尺側痛に加えて小指・薬指のしびれや握力低下を伴うケースでは、尺骨神経への影響(Guyon管症候群)も念頭に置く必要があり、医療機関での精査が重要になります。
もうひとつ、動画が提示する重要な視点があります。「硬い筋を直接マッサージしてもなかなか緩まない。これは、筋膜を通じたより根本的なアプローチが必要なサインである」という考え方です。筋膜(fascial system)は筋肉を個別に包みながらも相互に連結しており、一部位の変化が他の部位に伝達されうることが基礎研究・臨床観察から示唆されています。FCUとADMが筋膜で連結しているというのが藤井先生の臨床的な観察であり、これがこの動画手技の根幹となっています。
尺側手根屈筋の解剖と機序 ── 内側上顆から豆状骨へ
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尺側手根屈筋(FCU)は上腕骨の内側上顆(起始)から前腕の尺骨側を縦走し、手首の豆状骨・有鈎骨鈎・第5中手骨底(停止)に至る。手首の掌屈(手のひら側に曲げる)と尺側偏位(小指側に曲げる)を担う。尺骨神経(黄)と尺骨動脈(赤)が遠位1/3でFCUの深層を並走するため、硬結が神経・血管の圧迫につながりうる。
尺側手根屈筋(FCU: flexor carpi ulnaris)は前腕の屈筋群のうち最も内側(尺側)を走行する筋です。起始は2頭に分かれています。上腕頭(humeral head)は上腕骨の内側上顆(ないそくじょうか)の前面から起こり、尺骨頭(ulnar head)は尺骨の肘頭から尺骨後縁に沿って起こります。両頭は合流して前腕の内側を縦走し、遠位では細い腱となって手首の豆状骨(pisiform)に停止します。さらに腱は豆鈎靭帯・豆中手靭帯を介して有鈎骨鈎(hook of hamate)と第5中手骨底にも停止を持ちます。
主な機能は手首の掌屈(palmar flexion)と尺側偏位(ulnar deviation)です。特に尺側偏位においてはFCUが主働筋として最大の貢献をしており、尺側手根伸筋(ECU)とのカップリングによって純粋な尺側偏位動作が実現します。日常的には箸を使う・ハンドルを操作する・バットやラケットを握るなど、手首に力を入れる動作すべてにFCUが関与しています。支配神経は尺骨神経(C7, C8, T1)です。
前腕の内側(尺側)断面で見ると、FCUは比較的表層を走行しており、その深層に浅指屈筋(FDS)が位置します。FCUの内縁(尺骨側)に沿って尺骨動脈(赤)と尺骨神経(黄)が前腕遠位1/3から手首に向けて並走します。この近接関係が、FCU周辺の硬結が神経・血管に影響しうる理由です。尺骨神経はFCUの橈側を通りながら尺骨動脈と共にGuyon管へと向かいます。Guyon管症候群では手首尺側の痛み・小指・薬指のしびれ・手内在筋の筋力低下が起きます。FCU周辺の問題がGuyonを通じた尺骨神経に影響することを藤井先生は臨床的に観察しており、このため神経症状の有無の確認が評価において重要です。
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動画で示される症状パターン。①手首の尺側(小指側)の痛み ── 腱鞘炎と診断されるケースの一部はFCUの硬結が関与している。②手首の掌屈(手のひら側に曲げる動作)で増強する痛み。③手首の尺側偏位(小指側に曲げる)でも痛みが出やすい。注意:これらの症状は他の原因でも生じる(TFCC損傷・尺骨突き上げ症候群など)ため、FCUが唯一の原因とは限らない。
FCUが硬化すると、どんな症状が出やすいのでしょうか。動画で示されるパターンは主に3つです。①手首の尺側(小指側)の痛み ── 安静時より動作中に増強する。②掌屈(手のひら側に曲げる動作)での痛みの増強 ── FCUが主働筋として収縮する際に硬結部の負荷が高まる。③尺側偏位(小指側に傾ける動作)での痛みの増強 ── これもFCUが主に担う動作であるため。これらは腱鞘炎として診断されることが多いですが、症状の一部はFCUの筋硬結(トリガーポイント)が関与している可能性があると藤井先生は臨床から述べています。ただし前述のとおり、手首の尺側痛の原因は多岐にわたるため、FCUのみが原因とは言えません。医療機関での鑑別は必須です。
動画の手技を図解する ── 触診・評価・間接リリースの流れ
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動画の核心。尺側手根屈筋(FCU)は筋膜を介して小指外転筋(abductor digiti minimi: ADM)とつながっている。FCUをいくらマッサージしても緩まない場合、筋膜でつながるADMを治療することでFCUの硬さが間接的に解放される、というのが藤井先生の臨床的な考え方。矢印は筋膜連続性の方向を示す(実線=臨床観察に基づく仮説的連鎖)。
動画が示す手技の出発点は、「なぜFCUを直接ほぐしても緩まないのか」という問いに答えることにあります。藤井先生は、FCUの硬さはFCU自体の問題ではなく、筋膜でつながる小指外転筋(ADM)の問題が根本にあると臨床的に観察しています。ADMは小指の外転(小指を外側に広げる動作)を担う手掌尺側の小筋群で、豆状骨・屈筋支帯・第5中手骨底を起始とし、小指の近位指節骨外側に停止します。FCUの停止部(豆状骨)とADMの起始部が共通する解剖学的部位であることが、筋膜的つながりの基盤と考えられます。
この解剖学的近接性に加え、筋膜連続性(myofascial continuity)の観点から、FCUとADMは機能的にも連動しうると考えられます。筋膜システムは個々の筋を包む深筋膜・腱膜を通じて隣接する筋と連続しており、一部位の張力変化が隣接部位に伝達されます。この観点から見ると、ADMの硬化が豆状骨を介してFCU腱に張力を加え続けている場合、FCUをいくらほぐしてもADMの問題が残る限り元に戻りやすい、という理解が成立します。これは筋膜連続性の理論と臨床観察を組み合わせた考え方であり、直接検証した研究は存在しませんが、筋膜システム研究の枠組みとして参照できます。
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尺側手根屈筋(FCU)の触診ポイントは前腕の内側(尺側・小指側)。前腕を軽く回外(手のひらを上に)した状態で肘の内側から手首に向けて触れると、筋腹に「コリコリ」「グリグリ」とした硬さを感じることがある。この硬さ自体が痛みの直接原因ではないが(藤井先生の考え方)、評価のランドマークになる。硬さが強い場合は治療の対象となる。
評価の手順として、まずFCUの硬さを触診で確認します。前腕を軽く回外(手のひらを上に向ける)した状態で、肘の内側(内側上顆)から手首に向けて前腕内側を触れます。FCUは表層を走行しているため比較的触れやすい筋です。「コリコリ」「グリグリ」とした硬い索状の部分が筋硬結であり、これを評価ポイントとして確認します。ただし動画で強調されているのは、この硬さ自体が痛みの直接原因ではないという考え方です。硬さの確認は「問題の場所を見つける」ためではなく、「治療後の変化を評価する」ためのベースラインとして使います。
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藤井先生が示す治療ターゲットは、尺側手根屈筋(FCU)ではなく小指外転筋(ADM)。ADMは小指の付け根・手のひら内側(尺側)にある小さな筋で、ここを治療することで筋膜の連続性を介してFCUの硬さが緩み、手首の痛みが改善しやすくなるとされる。ADMへのアプローチは、深部まで届き、マッサージでは到達できないレベルの緩みを目指す。
治療の実際は、FCUではなく小指外転筋(ADM)への介入です。ADMは手のひらの小指側(尺側)にあり、小指の付け根付近から豆状骨にかけての領域に位置します。触れると他の手の内在筋よりやや硬い感触があることがあります。ここへの治療アプローチは、「深部まで届く」ことを意識した圧です。藤井先生が強調するのは、「この手技は表面のマッサージとは違い、マッサージでは届かないレベルの緩みを引き出す」という点です。組織の抵抗に対してゆっくり圧を入れ、ADMが徐々に緩んでいく感覚を確認しながら行います。ADMへの治療後に再びFCU部位を触診し、硬さが軽減していれば治療が有効に作用していることになります。手技の詳細な時間・深さ・圧の強さは動画内では詳述されておらず、施術者の技術・感覚に依存する部分があります。
この間接法アプローチの効果として動画が示すのは2点です。①マッサージでは到達できないレベルのFCUの緩みが得られる。②緩みが戻りにくくなる。直接法(FCUを直接マッサージ)では、施術中は緩んでも翌日には戻ることが多い、という臨床的課題に対する解決策として、ADMを介した間接法が提案されています。この主張は藤井先生の豊富な臨床経験に裏打ちされていますが、対照群を設けてランダムに割り付けた研究(RCT)で検証されたものではないため、現時点では「研究で確認された事実」ではなく「経験豊富な臨床家の観察と提案」として受け取ることが正確です。
症例の考え方・FAQ ── よくある疑問に答える
Q. 腱鞘炎と診断されて安静にしているのに改善しません。FCUへのアプローチは試す価値がありますか? ── A. 手首の尺側の腱鞘炎様の症状が安静・消炎鎮痛薬・固定で改善しない場合、「筋(FCU)の問題が関与している可能性」を考えることは臨床的に合理的な方針のひとつです。ただし前提として、TFCC損傷・尺骨突き上げ症候群・骨折・ガングリオンなどの他の原因が適切に除外されていることが必要です。「腱鞘炎」という診断名はやや包括的で、実際に何が原因かを特定する精密な検査(MRI・超音波・専門医の診察)が先決です。その上でFCU・ADM周辺の問題が疑われる場合に、動画で示されたアプローチを専門職の指導のもとで試みることは考えられます。自己判断での強い圧は避けてください。
Q. 小指・薬指がしびれることがあるのですが、FCUのアプローチで改善しますか? ── A. 小指・薬指のしびれは、尺骨神経の問題(Guyon管症候群・肘部管症候群)や頚椎からの神経根症など、複数の原因が考えられます。FCU周辺の硬結が尺骨神経に機械的な影響を与えている場合、FCU周辺のリリースが症状の軽減に寄与する可能性はあります。しかし、しびれの主因が神経そのものの問題(神経根圧迫・嵌頓など)である場合、筋膜リリースだけでは十分でないことが多く、神経学的な評価が必要です。特に「じっとしていてもしびれる」「両側に出る」「力が入らない」という場合は、整形外科・神経内科への受診を優先してください。FCUリリースを検討するのはその後です。
Q. 小指外転筋(ADM)はどこにあり、どう触れますか? ── A. ADMは手のひら(掌側)の小指側(尺側)の端に位置します。豆状骨(手首の小指側にある突出した小さな骨)から小指の付け根にかけての、手の内縁を触れると、他の場所より少しふっくらとした筋の感触があります。そこがADMです。慣れていない場合は、まず豆状骨を触れて確認し(手首の小指側、掌側に突出した小さな骨)、そこからやや末梢(指先方向)と内側(手の縁側)を触れていくと見つけやすいです。ADMを触れた状態で小指を少し外側(小指の反対方向)に動かすと、この筋が収縮するのを感じることができます。
Q. FCUの問題はセルフケアで対処できますか? ── A. 軽度のこわばり・重だるさ・使い過ぎの感覚であれば、手首の前腕屈筋群のストレッチ(手のひらを上に向けた状態で反対の手で指を反り返らせる方向に引く)や適度な休息が助けになることがあります。ADMへの軽い圧迫も(爪で押すほど強くならない程度)セルフケアとして試みる方がいます。ただし「腱鞘炎」「手首の痛み」として医療機関にかかっているケースでは、セルフでの強い圧迫は控え、担当医や理学療法士の指示に従ってください。また、動画で示されている「ADMへの深部圧」は熟練した手技であり、セルフで完全に再現することは難しい面があります。感覚的に違和感があれば無理に続けず、専門職に相談することをお勧めします。
安全・受診勧奨 ── 手技を行う前に確認すること
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FCU・ADM周辺には尺骨神経と尺骨動脈が走行する。手首尺側の深部を強く押すと、神経への刺激(小指・薬指のしびれ)や血管への圧迫が起きうる。しびれ・痛みの急激な増強・熱感が出た場合は即中止。TFCC損傷・骨折・活動性感染・腫瘍疑いは禁忌。自己流の強い圧は避け、専門職への相談を優先してください。
ADM・FCU周辺での手技を行う際の安全のポイントをまとめます。①尺骨神経への刺激に注意:ADM付近には尺骨神経の枝が走行しています。圧迫中に小指・薬指に電撃様のしびれ(ビリッとした感覚)が出た場合は直ちに圧を解除してください。②尺骨動脈への注意:手首の豆状骨付近は尺骨動脈も通過しています。強い圧で拍動感を感じた場合は圧を軽くするか離してください。③過度な力を使わない:FCU・ADMは比較的表層にある筋ですが、手首は神経・血管・腱が密集した精密な構造です。「痛いけど気持ちいい」の範囲を超える強い痛みを無理に我慢させる圧は避けます。④ゆっくり・組織の反応を確認しながら:組織の抵抗に対してゆっくりと圧を入れ、緩みを感じながら行うことが基本原則です。力任せに押し込むのは逆効果になりえます。
まとめ・参考文献
この記事のまとめ。①尺側手根屈筋(FCU)は内側上顆から豆状骨に至る前腕内側の屈筋で、手首の掌屈・尺側偏位を担う。遠位では尺骨神経・尺骨動脈が深部を並走するため、硬化による神経・血管への影響に注意が必要。②動画(藤井翔悟)の核心は「FCUを直接ほぐしても緩まないため、筋膜でつながる小指外転筋(ADM)を治療してFCUを間接的に緩める」という間接法アプローチ。③引用した4本の論文(Eeckhaut 2026・Mungalpara 2025・De Vitis 2026・Klee 2025)はいずれも本手技を直接検証するものではなく、筋の硬さ変化の可能性・解剖の複雑性・手首の運動連鎖・筋の過緊張への局所介入という観点から周辺を照らす参照文献である。④手首の尺側痛の原因は多岐にわたるため、まず医療機関でのTFCC損傷・骨折・神経障害の除外が必須。⑤小指・薬指のしびれ・拍動感・強い痛みが出た場合は即中止。
限界と注意・受診の目安
- ▸この記事は教育・情報提供目的であり、医療診断・治療行為の代替ではありません。
- ▸効果には個人差があります。「必ず改善する」という保証はできません。
- ▸藤井先生のADM間接法は豊富な臨床経験に基づくものですが、この手技を直接検証したRCT・系統的レビューは現時点では存在しません。
- ▸小指・薬指のしびれ(電撃様)・拍動感が出た場合は即中止してください(尺骨神経・尺骨動脈への影響の可能性)。
- ▸手首の腫脹・熱感・変形・安静時痛がある場合、外傷後や手術後の場合は必ず医療機関(整形外科・手外科)を受診してください。
- ▸TFCC損傷・尺骨突き上げ症候群・骨折・靭帯断裂・Guyon管症候群などが除外されていない場合は専門医に相談してからにしてください。
- ▸妊娠中・活動性感染・腫瘍疑いは禁忌です。自己判断での強い圧は避けてください。
監修・参考文献
掲載内容は藤井翔悟が臨床経験と学術文献に基づき確認しています。効果には個人差があり、本記事は診断・治療の代替ではありません。より高い客観性のため、今後は外部の有資格者(医師・理学療法士等)による監修も加えていきます。
監修:藤井翔悟(徒手療法家 / 手技考案者)
- [1] Eeckhaut B, Truijen S, Leroij C, Dévillé J, Jacobs L, Saeys W.(2026).「Neurophysiological and Structural-Mechanical Changes Associated with Dry Needling in Post-Stroke Spasticity: A Systematic Review」. Journal of clinical medicine, 15(11):4246.
- [2] Mungalpara N, Peresada D, Mejia A.(2025).「Flexor Tendon Injuries in Zone 3: A Comprehensive Review and Case Report on Flexor Digitorum Profundus Rupture of the Middle Finger」. Journal of orthopaedic case reports, 15(12):6450.
- [3] De Vitis R, Lombardi L, Guzzini M, Militerno A, Taccardo G, Passiatore M.(2026).「Why Hand-Wrist Bandaging Could Improve Performance in Elite Soccer Players? A Scoping Review on the Biomechanical Rationale of Upper Limb Role in Kicking」. Sports (Basel, Switzerland), 14(5):189.
- [4] Klee M, Karottki NC, Biering-Sørensen B.(2025).「Intramuscular Botulinum Toxin for Complex Regional Pain Syndrome: A Narrative Review of Published Cases」. Toxins, 17(7):350.