FUJII FASCIA INSTITUTE シンボルマークFUJII FASCIA INSTITUTE藤井翔悟 筋膜研究所

FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED TECHNIQUE

エビデンスレベル:SR/メタ解析

腰部多裂筋リリース ── 腰痛・殿部のだるさ・足の冷えまで届く深部筋への間接アプローチ

こんな方へ:腰の正中部が痛む / お尻〜太ももがだるい / 足が冷えてふくらはぎが張りやすい / 股関節の前面が痛む方

腰椎L1〜L5の棘突起に沿って走る深層の安定筋・腰部多裂筋は、腰痛だけでなくお尻のだるさや足の冷え・ふくらはぎの張りにも関与しうる。藤井翔悟の実技(胸椎多裂筋・小殿筋・腸骨筋・足底筋膜/内転筋を介した間接アプローチ)を図解し、実在の研究と臨床経験の両面から誠実に解説する。

監修:藤井翔悟 / 著者:藤井翔悟 / 最終更新 2026-10-05

FUJII METHOD — PEER-REVIEWED TECHNIQUE ANALYSIS

査読論文 4本と照合SR/メタ解析

藤井式の評価・触診・再評価を、査読研究で支持

研究で確認された解剖学・疼痛・可動域・機能変化を土台に、藤井翔悟が症状の変わる反応点を見つけ、介入直後に同じ動作で結果を確かめるまでを一つの技術として解説します。

藤井式の臨床的独自性: 集団研究の知見を、症状修飾テスト、数センチ単位の触診、同一動作の即時再評価によって、目の前の一人の結果へ翻訳します。

2

手技デモ(実演)

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動画の中身を図解で学ぶ ── 解剖・手技・エビデンス

EVIDENCE

藤井式の技術を、査読論文4本で支持する

本記事では、藤井翔悟が実演する評価・触診・手技・再評価を、関連する査読論文4本と照合します。研究で確認された解剖学、疼痛、可動域、機能変化を土台に、藤井式がどのように目の前の一人へ介入点を絞り込むかを解説します。

FUJII METHOD

論文を結果へ変える、藤井式の臨床的独自性

評価・触診・介入・再評価を一つの技術にする

研究は集団で起こる効果を示します。藤井式はそこへ、症状が変わる反応点の探索、解剖学的に数センチ単位で狙い分ける触診、介入直後の同一動作による再評価を加えます。論文の知見を一人ひとりの即時結果へ翻訳することが、藤井式の技術的価値です。

この記事で学べること

この記事は、治療家・藤井翔悟による腰部多裂筋の実技解説動画の中身を、図解と研究で読み解くガイドです。動画のテーマは、①腰部多裂筋とはどんな筋か ②硬くなるとどんな症状が出るか ③どう評価・触診するか ④どうやって緩めるか、という4点です。特徴的なのは、深部にある腰部多裂筋を直接強く押すのではなく、4つの連動部位を介して間接的に緩める、というアプローチです。

この記事の役割は2つあります。ひとつは、動画の手順を図解して『いま何を、なぜやっているか』を分かるようにすること。もうひとつは、その内容の【どこまでが研究で裏づけられ、どこからが臨床経験なのか】を正直に線引きすることです。動画の中の発見をそのまま事実として受け取るのではなく、研究の視点と組み合わせて理解することで、再現性のある一手として臨床に活かすことを目指します。

結論を先に述べます。腰部多裂筋は腰椎後方の深部安定筋であり、ここが硬くなると腰の正中部の痛みだけでなく、お尻のだるさ・足の冷え・ふくらはぎの張り・股関節前面の違和感まで広範な症状に関与しうる、というのが動画の主張です。直接アプローチが難しい深部筋であるため、胸椎多裂筋・小殿筋・腸骨筋・足底筋膜(内転筋)を経由した間接リリースを行う。この考え方は筋膜連続性と臨床経験に基づくものです。

研究と臨床経験の区別について

この記事では『研究で示唆されていること』と『藤井先生の臨床経験に基づくこと』を明確に区別して記述します。

背景 ── なぜ腰部多裂筋は腰痛臨床の要になるのか

慢性腰痛は世界的に最も一般的な筋骨格系の問題のひとつです。日本整形外科学会・腰痛診療ガイドラインでも、腰痛の約85%は非特異的腰痛(明確な器質的原因が特定できない腰痛)と報告されており、その管理には徒手療法・運動療法・心理社会的アプローチなどが組み合わせて用いられます。その中でも、脊柱の安定を担う深層の筋群への介入は、腰痛臨床における重要なアプローチとして注目されています。

腰部多裂筋(multifidus muscle)は、腰椎の安定に最も寄与する深層筋のひとつとして知られています。腰椎L1〜L5の棘突起の外側に沿って両側対称に走り、脊柱の微細な安定制御、伸展動作、左右への回旋に深く関わります。特に腰椎に特有の前弯カーブを維持する上でも重要で、この筋が弱化・短縮・硬化すると腰椎全体の動的安定性が低下すると考えられています。

なぜ多裂筋が見落とされやすいかというと、その位置にあります。表面の脊柱起立筋(腸肋筋・最長筋)に覆われ、さらに胸腰筋膜(TLF)に包まれた最深層に位置するため、触診だけで確実に捉えることは容易ではありません。その深さゆえに、局所的なマッサージや表層ストレッチだけでは十分にアプローチできず、症状が繰り返しやすくなる一因でもあります。動画で藤井先生が間接アプローチを採用している理由のひとつがここにあります。

また、腰部多裂筋の硬さや機能不全は、腰痛だけにとどまらない広範な症状に関与しうると藤井先生は臨床経験から解説します。お尻から太ももにかけてのだるさ、足の冷え、ふくらはぎの張りや足のつり、さらには股関節前面の痛みまで。これらを一見バラバラな症状として局所だけを診るのではなく、腰部多裂筋という共通のハブから考える視点は、局所療法が行き詰まったときの『別の扉』として機能します。

解剖と機序 ── 図で理解する腰部多裂筋の位置と働き

図1
腰部多裂筋の解剖 ── 腰椎L1〜L5の棘突起を守る最深部の安定筋
後面 / posterior 腰部多裂筋(右) 腰部多裂筋(左) 胸腰筋膜(TLF) L3〜L5棘突起 L1棘突起 仙骨(sacrum) 腸骨稜(右)

図は横にスワイプして拡大表示できます

後面から見た腰椎L1〜L5と多裂筋(サーモン色)。棘突起の直ぐ外側・両側を縦走し、腰椎の安定・伸展・回旋を担います。表層を胸腰筋膜(TLF)が覆うため、表面からは触れにくい深部の筋です。腸骨稜(両側)や仙骨との位置関係も確認できます。

腰部多裂筋は、腰椎(L1〜L5)の棘突起の直ぐ外側に位置する細長い筋束の集合体です。棘突起から2〜3椎体分下の横突起・乳様突起・後仙骨面にかけて短い筋束が重なり合い、縦走しながら全体として腰椎を後方から支えるコルセット状の構造を形成します。深さでは脊柱起立筋のさらに奥、最深層に位置し、表面から触れるには高い技術が必要です。腰部多裂筋は、起始・停止の短い筋束が多重に重なることでモノラル(単一)の筋ではなく、L1〜L5それぞれのレベルで独立した筋束を持つ複合体として機能します。この構造上の特性から、特定の椎体間だけに問題が生じた場合でも、その椎体レベルの多裂筋だけが選択的に萎縮・短縮することがあると報告されています。

機能の面では、腰部多裂筋は腰椎の『局所安定筋(local stabilizer)』として分類されます。大きな運動を生み出す原動力筋(グローバル筋)ではなく、椎骨間の微細な動きを制御し、腰椎を安定した中立位に保つセンサー的な役割を果たします。特に前屈・後屈の切り替え、体幹回旋時の椎骨のずれを防ぐ役割が大きいとされ、腰椎安定化エクササイズの分野では長年注目されてきた筋です。体幹の深部安定システムにおいては、横隔膜・腹横筋・骨盤底筋とともに腰部多裂筋が協調して腹腔内圧を高め、腰椎を保護するという考え方が広く知られています。

胸腰筋膜(TLF:Thoracolumbar Fascia)との関係も重要です。TLFは腰背部を広く覆う多層構造の強靭な膜で、深層の筋を包みながら腹腔内圧の伝達や脊柱の安定に寄与します。腰部多裂筋はこのTLFの深層に包まれており、TLFの緊張が多裂筋の動きに影響し、逆に多裂筋の硬さがTLFの滑走性を低下させる相互関係があると考えられています。後述のエビデンス章で紹介する超音波エラストグラフィ研究は、TLFの厚さや硬さを非侵襲的に計測できることを示しており、このTLF-多裂筋の関係を客観的に評価するための手段として注目されています。

腰部多裂筋が硬化・短縮した状態が続くと、椎間関節への不均等な荷重、脊柱起立筋との協調不全、腰椎の分節的な不安定性といった問題が連鎖的に生じやすくなります。これが慢性腰痛の一因となるだけでなく、神経根を包む硬膜外組織への持続的な機械的刺激にもつながる可能性があります。藤井先生が臨床で観察する『腰以外への症状(殿部のだるさ・足の冷え・股関節前面の痛み)』は、こうした神経・筋膜の連続した緊張パターンとして解釈できます。ただし繰り返しますが、これらの放散パターンの詳細な因果関係は藤井先生の臨床経験に基づくものであり、強いエビデンスで裏づけられた知見ではありません。

動画で示された症状の放散メカニズムは、筋膜の連続性と神経支配の視点から説明できます。腰部多裂筋は腰神経後枝(L1〜L5)に支配されており、硬化・過緊張によって神経の血行が妨げられると、その神経が支配する領域(殿部・太もも・下腿など)にだるさや不快感として現れることがあります。股関節前面の痛みについては、腰椎の機能変化が腸腰筋など股関節屈筋に連動して緊張を波及させる、という解釈が成り立ちます。ただしこれらの放散パターンは藤井先生の臨床経験に基づくものであり、強い研究の裏づけがあるわけではない点は正直に申し添えます。

図2
腰部多裂筋が硬いと出やすい4つの症状
前面 背面 1 2 4 3 症状が出やすい場所 1腰の正中部の痛み(背面)2お尻〜太もものだるさ3足の冷え・ふくらはぎの張り4股関節の前面(ASIS付近) ※動画・藤井先生の臨床経験に基づく分類

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動画で解説された症状の分布。①腰の正中部の痛み ②お尻〜太もものだるさ ③足の冷え・ふくらはぎの張り・足がつる ④股関節の前面(ASIS付近)の痛み。腰以外の離れた部位にも症状が出うる、という視点が動画の核心です(藤井先生の臨床経験に基づく分類)。

STEP 1

評価・触診 ── 皮膚を引き上げて腰部多裂筋の関与を確かめる

図3
触診・評価 ── 棘突起外側の皮膚を引き上げて症状変化を確認する
後面 / posterior 下から上に引き上げる L1〜L5棘突起 仙骨 評価のポイント 棘突起の外側を 皮膚ごと引き上げる → 殿部のだるさや  腰痛が軽減すれば  多裂筋の関与あり

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評価の手順:腰椎棘突起の外側(多裂筋の走行部)を下から上に皮膚ごと引き上げるように圧をかけ、お尻のだるさや腰の張りの変化を患者に確認してもらう。症状が軽減するようなら腰部多裂筋が関与している可能性が高い(藤井先生の評価法)。圧は「押す」でなく「引き上げる」方向。

動画で藤井先生が最初に行うのは評価(誘発テスト)です。腰椎の棘突起の外側(多裂筋が走行する部分)を、下から上に向けて皮膚をグッと引っ張るように圧をかけます。この際に患者に『何か変化がありますか?』『お尻のだるさや腰の張りが変わりましたか?』と確認します。症状が軽減するようであれば、腰部多裂筋が現在の症状に関与している可能性が高い、というのが藤井先生の評価の考え方です。評価の目的は『今日の症状に多裂筋がどれだけ関係しているか』を確かめることです。

この評価法のポイントは、『押す』のではなく『引き上げる』方向にあることです。棘突起外側の皮膚・筋膜を上方に引き上げることで、多裂筋の走行方向に沿ったテンションの変化を生じさせ、筋の機能的な状態を推察します。患者の反応(痛みの増減・だるさの変化・可動域の変化)を観察しながら慎重に進めることが重要です。強い圧や急激な操作は避け、微細な変化を感じ取ることを重視します。L1からL5まで順に確認し、特にどのレベルで症状が変化するかを確かめることで、関与が最も強い椎体レベルを特定できます。

評価で腰部多裂筋の関与が確認できた場合、次に施術前の基準値(ベースライン)を記録しておくことが重要です。具体的には、①棘突起外側の圧痛の強さ(NRS 0〜10で評価)②前屈・後屈・側屈の可動域 ③患者が訴える殿部のだるさや腰の張りの主観的強さ ④特定の動作(立ち上がり・歩行開始時など)での症状の有無、などを施術前後で比較します。この再評価こそが、手技が有効かどうかを個別に判断するために不可欠なステップです。

この触診・誘発テスト法は藤井先生の評価法であり、この特定の手法を信頼性・妥当性で検証したエビデンスは現時点では見当たりません。ただし、触診による筋の評価自体は腰部多裂筋の臨床評価において広く用いられる技術であり、経験のある術者が行う手技的評価の一形態として理解するのが適切です。評価結果が明確でない場合や症状の変化が見られない場合は、腰部多裂筋以外の原因を考慮してください。

STEP 2

間接リリース ── 4つの連動部位から腰部多裂筋を緩める

図4
連動する4部位 ── 間接リリースで腰部多裂筋を緩める
後面〜側面 腰部多裂筋(深部) 1 2 3 4 連動する4部位(ここを緩める) 1胸椎レベルの多裂筋・脊柱起立筋2小殿筋(深部殿筋・骨盤外側)3腸骨筋(骨盤腔の最深部)4足底筋膜の内側・内転筋群 ※直接法でなく間接法(運動連鎖・筋膜) ※連動は臨床経験に基づく考え方

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動画で紹介された間接リリースの4部位。腰部多裂筋を直接強く押すのでなく、筋膜・運動連鎖でつながる部位を緩めることで間接的にアプローチする。①胸椎レベルの多裂筋(脊柱起立筋) ②小殿筋(深部殿筋) ③腸骨筋(骨盤腔最深部) ④足底筋膜・内側/内転筋群(藤井先生の手法)。

評価で腰部多裂筋の関与が確認できたら、間接リリースに移ります。動画で紹介されるのは、腰部多裂筋を直接押すのではなく、連動する4つの部位を経由するアプローチです。①胸椎レベルの多裂筋(脊柱起立筋) ②小殿筋(骨盤外側の深部殿筋) ③腸骨筋(骨盤腔の最深部) ④足底筋膜の内側・内転筋群の4部位です。

①胸椎レベルの多裂筋・脊柱起立筋:腰部多裂筋の上位に当たる胸椎レベルの脊柱起立筋を押し込むように緩めます。腰椎と胸椎は筋膜・筋連続性でつながっており、胸椎レベルを緩めることで腰椎多裂筋のテンションが変化します。②小殿筋:大殿筋・中殿筋のさらに深部にある小殿筋を緩めます。小殿筋は腸骨の外側面から大腿骨大転子に走り、股関節外転・内旋に働く深部殿筋です。骨盤・腰椎の動的安定に関わる筋群の一部として、腰部多裂筋と機能的に連動すると考えられます。

③腸骨筋:骨盤腔の内側面を扇状に覆う腸骨筋は、腸腰筋の一部として股関節屈曲と腰椎前弯の制御に関わります。骨盤腔の奥深くに位置する腸骨筋を緩めることで、骨盤内の筋バランスが整い、腰部多裂筋のテンションが変化する、と藤井先生は解説します。腸骨筋へのアプローチは深部を狙うため、技術と注意が必要です。④足底筋膜・内転筋群:足底筋膜の内側部または内転筋群(特に内側の内転筋)を緩めることで、下肢から骨盤・腰部への筋膜張力が変化し、腰部多裂筋の硬さが軽減されることがある、と。

図5
なぜ【遠く】を緩めると腰部多裂筋がゆるむのか(考え方と限界)
直接法 椎間板・椎間関節に注意 vs 連動法(間接アプローチ) 1胸椎多裂筋を緩める2小殿筋を緩める3腸骨筋を緩める4足底筋膜/内転筋を緩める 腰部多裂筋がゆるむ

図は横にスワイプして拡大表示できます

腰部多裂筋は脊柱後方の深部にあり、直接強く押すと椎間板・椎間関節・靭帯への負荷が懸念される。筋膜連続性・運動連鎖でつながる部位を介した間接アプローチは理論的に筋が通るが、この『遠隔リリース』の効果を定量的に検証した質の高い研究はまだ乏しい。

これら4部位の選択理由について、藤井先生は筋膜連続性と運動連鎖の観点から説明します。腰部多裂筋は単独で働くのではなく、脊柱後方から骨盤・下肢へと連続する筋膜のライン上に存在します。この連続性の各所を緩めることで、深部の腰部多裂筋に直接触れずとも、全体の張力バランスを変化させることができる、というのが間接アプローチの発想です。キネティックチェーンの観点からも、腰部の深部筋は骨盤帯・下肢と協調して機能することが知られており、この考え方と整合します。

実施の際のコツとして、藤井先生は患者の反応を見ながら進めることを強調します。各部位をリリースした後に、最初に評価した棘突起外側の感覚や症状の変化を再確認します。『これをやったら腰が変わった』という患者の反応を大切にしながら、4部位の中でどれが最も効果的かを個人ごとに探っていく姿勢が、この手技の本質です。

症例の考え方と よくある疑問

腰部多裂筋が関与している可能性が高いのはどんな患者さんでしょうか。藤井先生の臨床では、腰の正中部・やや下の鈍痛、長時間の座位後に強まる腰の重さ・張り、お尻〜太もも裏のだるさ(特に夕方に悪化するもの)、走ったり歩いたりした翌日にふくらはぎがつりやすい、といったパターンで腰部多裂筋の関与が疑われる場面が多いとされています。また股関節の前面に痛みがあるのに、大腰筋・腸腰筋を評価しても改善しない場合に、腰部多裂筋を見直すと解決することがある、というのも動画の重要な視点です。

Q. 直接多裂筋を押すのではダメなのですか? ── A. 腰部多裂筋への直接アプローチが完全に禁忌というわけではありません。ただし、腰椎の棘突起外側への直接圧は、適切な力加減なしに行うと椎間関節・横突起・棘間靭帯への不必要な刺激につながる可能性があります。藤井先生が間接法を採用する主な理由は①直接触れにくい深さにあること ②連動部位を経由したほうが効率よく持続的に緩められる臨床経験があること、の2点です。間接法と直接法は排他的ではなく、術者のスキルと患者の状態に応じて組み合わせるのが実践的な判断です。

Q. このリリースはどのくらいの頻度・回数で行うべきですか? ── A. 動画の中に明確な頻度設定はありませんが、一般的な筋膜リリースの臨床原則として、急性期は週2〜3回・慢性期は週1〜2回が一つの目安として言われます。効果が出た場合は間隔を空けて、患者自身のセルフケア(後述)へ移行することが望ましいです。重要なのは、施術の後に症状変化を評価し、改善が見られる間のみ継続する『評価→介入→再評価』のサイクルを維持することです。

Q. セルフケアはできますか? ── A. 動画はドクター・理学療法士・治療家向けの解説ですが、患者自身のセルフケアとしては、フォームローラーを使った胸椎部の脊柱起立筋リリース(胸椎レベルの多裂筋①に対応)、テニスボールを使った殿部の小殿筋エリアへのセルフ圧迫(②に対応)などが比較的安全に実施できます。腸骨筋(③)の深部への自己圧迫は難しく推奨しにくい部分です。足底筋膜(④)については、タオルギャザーやボール踏みなどのセルフケアが比較的安全です。いずれも、痛みや症状が悪化する場合は直ちに中止し、専門家に相談することを勧めます。

Q. 仙骨多裂筋(L5以下)との違いは何ですか? ── A. 腰部多裂筋(L1〜L5)と仙骨多裂筋(仙骨レベル)は連続した筋体であり、厳密に分けるのは難しい側面もあります。ただし機能的には、腰部多裂筋は腰椎の分節安定に主に寄与し、仙骨多裂筋は仙腸関節の安定・骨盤後傾のコントロールにより深く関与すると考えられています。臨床的には、腰の正中部の痛みや股関節前面の症状は腰部多裂筋の関与が強い傾向があり、仙腸関節周辺の症状や骨盤帯の安定性の問題は仙骨多裂筋も合わせて評価する必要があります。また触診の位置も、仙骨多裂筋がPSIS(上後腸骨棘)の内側・仙骨上であるのに対し、腰部多裂筋はL1〜L5棘突起の外側という違いがあります。どちらが主要な問題かは、誘発評価の結果と症状のパターンで判断します。

安全に行うために ── Red Flagsと受診のサイン

図7
安全マップ ── 注意が必要なサインと受診の目安
横断面 / transverse 椎間板 脊柱管 多裂筋(後方) 棘突起 脊柱管(脊髄あり) 椎間板 多裂筋(後方) 受診が必要なサイン ・下肢のしびれ・脱力 ・発熱を伴う腰痛 ・安静時痛・夜間痛 ・排尿排便の異常 ・急激な悪化 (椎間板ヘルニア・脊柱管  狭窄症等の鑑別が必要)

図は横にスワイプして拡大表示できます

腰部多裂筋は脊柱後方の比較的アクセスしやすい部位だが、過度な直接圧は椎間板・椎間関節に負担をかける。下肢のしびれ・脱力・発熱を伴う腰痛・安静時痛・夜間痛・排尿排便の異常(Red Flags)がある場合は手技より先に整形外科・神経内科などを受診すること。

腰部多裂筋へのアプローチ自体は比較的安全ですが、過度な圧力・急激な操作は椎間関節・靭帯・椎間板に負担をかけます。患者が『電気が走るような痛み』や『下肢への急激なしびれ・脱力』を訴えた場合は直ちに手技を中止してください。また、骨粗鬆症・腰椎圧迫骨折の既往がある方、強い炎症・腫脹のある部位、コントロール不良の高血圧・抗凝固薬服用中の方への適用は慎重を要します。

この記事のまとめ。腰部多裂筋は腰椎L1〜L5の最深部にある安定筋で、硬化すると腰痛だけでなく殿部・下肢・股関節前面まで広範な症状に関与しうる。藤井先生が臨床で行う間接アプローチ(胸椎多裂筋・小殿筋・腸骨筋・足底筋膜/内転筋の4部位を経由)は、筋膜連続性の理論と豊富な臨床経験に基づく手法です。筋膜リリース全般が慢性腰痛の痛み・可動域・機能に改善をもたらしうることはSR/メタ解析で支持されていますが、この特定の間接法を直接検証した質の高い研究はまだ限定的です。動画=臨床の地図、記事=研究の羅針盤として、両者を組み合わせて意味の分かった一手としてください。

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限界と注意・受診の目安

  • ▸腰部多裂筋は脊柱後方の深部にあります。直接的な過度な圧迫は椎間関節・靭帯・椎間板に負担をかける可能性があります。
  • ▸下肢のしびれ・脱力・発熱を伴う腰痛・安静時痛・夜間痛・排尿排便の異常がある場合は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症等の重篤な疾患のサインのことがあります。自己判断せず医療機関を受診してください。
  • ▸この記事に記載されている評価法・手技は藤井先生の臨床経験に基づくものを含み、すべてが研究で検証されているわけではありません。効果には個人差があります。
  • ▸本記事は施術の代替や診断を目的としたものではありません。治療家・セラピスト向けの教育的コンテンツです。
  • ▸骨粗鬆症・圧迫骨折の既往がある方、強い炎症・腫脹のある部位への適用は慎重を要します。
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監修・参考文献

掲載内容は藤井翔悟が臨床経験と学術文献に基づき確認しています。効果には個人差があり、本記事は診断・治療の代替ではありません。より高い客観性のため、今後は外部の有資格者(医師・理学療法士等)による監修も加えていきます。

監修:藤井翔悟(徒手療法家 / 手技考案者)

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