FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED TECHNIQUE
鎖骨下筋リリース ── 手指のオーバーワークが引き起こす首の伸展時痛を解消する
こんな方へ:首を後ろへ反らすと痛みが出る / 原因不明の首の痛み・肩こりがある / 手指を多く使う仕事(治療家・パン職人・手芸)で首が痛い / 鎖骨の下を押すと違和感がある / 鎖骨下筋という筋肉を初めて知った方 / 首の痛みを扱う治療家・セラピスト
鎖骨下筋(さこつかきん)は第1肋骨の肋軟骨から起こり、鎖骨の下面中央部に停止する小さな筋肉で、解剖学の教科書でも素通りされがちな筋の一つです。しかし治療家・藤井翔悟の実技動画(YouTube ID: 8PPP0Yralmg)は、この筋の胸鎖関節付近に生じた硬結(筋膜の局所的な硬化・しこり)が、首を後ろに反らす動作(頸椎伸展)での痛みの原因になっていることがあると指摘します。特に手指を長時間・高負荷で使う治療家・パン職人・編み物教室の先生など「手指のオーバーワーク」がある人に起きやすいと述べています。
監修:藤井翔悟 / 著者:藤井翔悟 / 最終更新 2026-08-22
FUJII METHOD — PEER-REVIEWED TECHNIQUE ANALYSIS
藤井式の評価・触診・再評価を、査読研究で支持
研究で確認された解剖学・疼痛・可動域・機能変化を土台に、藤井翔悟が症状の変わる反応点を見つけ、介入直後に同じ動作で結果を確かめるまでを一つの技術として解説します。
藤井式の臨床的独自性: 集団研究の知見を、症状修飾テスト、数センチ単位の触診、同一動作の即時再評価によって、目の前の一人の結果へ翻訳します。
手技デモ(実演)
動画の中身を図解で学ぶ ── 解剖・手技・エビデンス
EVIDENCE
藤井式の技術を、査読論文4本で支持する
本記事では、藤井翔悟が実演する評価・触診・手技・再評価を、関連する査読論文4本と照合します。研究で確認された解剖学、疼痛、可動域、機能変化を土台に、藤井式がどのように目の前の一人へ介入点を絞り込むかを解説します。
FUJII METHOD
論文を結果へ変える、藤井式の臨床的独自性
評価・触診・介入・再評価を一つの技術にする
研究は集団で起こる効果を示します。藤井式はそこへ、症状が変わる反応点の探索、解剖学的に数センチ単位で狙い分ける触診、介入直後の同一動作による再評価を加えます。論文の知見を一人ひとりの即時結果へ翻訳することが、藤井式の技術的価値です。
この記事で学べること ── 結論を先に
この記事は、治療家・藤井翔悟による鎖骨下筋(さこつかきん)のリリース手技解説動画(YouTube ID: 8PPP0Yralmg)の内容を、図解と実在の研究論文で読み解くガイドです。鎖骨下筋とは、その名の通り「鎖骨の直下」に位置する小さな筋肉です。解剖学の授業でも素通りされがちな筋ですが、藤井先生の臨床では、この筋の硬結が首を後ろへ反らす動作(頸椎伸展)での痛みの原因になっていることがあると指摘されています。この記事を読むことで、①鎖骨下筋の解剖学的位置と機能、②なぜ手指を多く使う人に硬くなりやすいのか、③触診・評価の具体的な手順、④横圧刺激によるリリースの考え方、⑤周辺エビデンスの正直な評価、という5つを整理して持ち帰ることができます。
この記事には2本の柱があります。(A)動画の手技=藤井先生の臨床経験に基づく評価法と手技。胸鎖関節付近に硬結ができやすいこと、横圧刺激でリリースすること、リリース後に首の伸展時痛の改善・手の長さの変化・肩の動きの向上という連動効果があること、手指のオーバーワークがある人に特に多いことを解説します。(B)周辺のエビデンス=実在する4本の論文を引用し、首・肩のトリガーポイント有病率・頸部手技療法の効果・鎖骨下筋ブロックの解剖学的知見を紹介します。ただし、最初に正直に伝えます:鎖骨下筋単独の筋膜リリースが首の伸展時痛を改善することを直接証明した研究は現時点では存在しません。(A)と(B)は明確に区別して提示します。
読み方 ── 動画(体験)と記事(地図)
動画は藤井先生の触診の当て方・硬結の見つけ方・横圧リリースの感覚を「体験」するもの。記事は「いま何を、なぜやっているか」と「どこまでが研究で、どこからが臨床経験か」を持ち帰る地図です。
背景 ── なぜ鎖骨下筋が見落とされ、なぜ重要なのか
首の痛み、特に「後ろに反らすと痛い(頸椎伸展時痛)」という訴えは、臨床でよく遭遇する主訴の一つです。頸椎の椎間板・椎間関節・頸部の深層筋(頸部多裂筋・半棘筋など)や頸部の浅層筋(胸鎖乳突筋・斜角筋・僧帽筋など)が評価の対象となることが多い。しかし藤井先生が動画で指摘するのは、もっと前方・下方に位置する「鎖骨の直下」という場所です。ここに位置する鎖骨下筋は、首の可動域に直接的な影響を与えるとは考えにくいと思われるかもしれません。しかし実際には、鎖骨の前方動作・降下運動を制御するこの筋が硬くなると、鎖骨の動きが制限され、肩甲帯全体の運動連鎖が変化します。その連鎖が頸椎の伸展動作にまで影響を与えうるというのが、藤井先生の臨床的な観察です。
鎖骨下筋が特に注目されるのは、手指を多く使う人との関連です。治療家(マッサージ・柔整・理学療法士など徒手的施術を行う方)・パン職人・編み物をする方など、手指を長時間・反復的に使う仕事や趣味を持つ人が首の痛みを訴える場合、見落とされがちな部位として鎖骨下筋を挙げています。手指の酷使が鎖骨下筋に影響を与える詳細なメカニズムは動画では明示されていませんが、前腕から上肢・肩甲帯にかけての筋膜の緊張連鎖が、最終的に鎖骨の安定化筋である鎖骨下筋に波及しうるという解釈は、臨床経験として示唆されています。これはあくまで藤井先生の臨床的仮説であり、直接的な研究での裏づけはまだありません。
また、胸鎖関節(sternoclavicular joint: SC joint)付近に硬結が生じやすいという指摘も重要です。SC関節は鎖骨の内側端が胸骨の鎖骨切痕に接する関節で、上肢の動きにおける力の伝達の起点となります。日常的に上肢を使う動作で繰り返しストレスがかかりやすく、筋膜の局所的な肥厚・硬化(いわゆるコリのしこり=筋硬結)が形成されやすい部位と言えます。SC関節周辺は表面から触れやすく、治療家にとってもアプローチしやすい部位です。この触診のしやすさが、「難易度は高くない」という藤井先生のコメントにもつながっています。
鎖骨下筋の解剖と機序 ── 小さくて深い意味を持つ筋
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鎖骨下筋は第1肋骨の肋軟骨(costal cartilage)から起こり、鎖骨の下面(中央〜内側部)に停止する小さな筋です。胸鎖関節(SC joint)のすぐ近く、鎖骨の直下に位置します。その下方を鎖骨下動脈(赤)・鎖骨下静脈(青)と腕神経叢(黄)が通り、胸郭出口の重要な解剖学的ランドマークでもあります。
鎖骨下筋(subclavius muscle)は、上肢帯の筋の中でも最も小さな部類に入る筋肉です。起始(きし)は第1肋骨と第1肋軟骨の境界部(肋骨・肋軟骨接合部)にあります。停止(ていし)は鎖骨の下面の中央〜内側部の溝(鎖骨下筋溝)です。筋の走行方向はほぼ水平に近く、やや内側上方から外側下方へ向かいます。機能としては、鎖骨を前方・下方に引き、胸鎖関節を安定させる働きがあります。上肢を挙上する際に肩甲帯が挙上するのを制御する補助的な働きも担っています。
この筋の解剖学的な特徴として、鎖骨のすぐ下にある「胸郭出口」の一部を構成している点が重要です。胸郭出口(thoracic outlet)とは、鎖骨・第1肋骨・鎖骨下筋・斜角筋に囲まれた空間で、鎖骨下動脈・鎖骨下静脈・腕神経叢がここを通って腕へと向かいます。鎖骨下筋が硬くなると、この空間が狭小化し、神経・血管への物理的な圧迫が生じる可能性があります。これが「鎖骨下筋の硬結が上肢の血流・神経伝達に影響を与えうる」という理論的背景となります。なお、胸郭出口症候群(TOS)という疾患がありますが、本動画の内容はTOSの治療ではなく、首の伸展時痛の文脈での鎖骨下筋へのアプローチです。
筋膜の観点からも鎖骨下筋は注目されます。この筋は鎖骨胸筋筋膜(clavipectoral fascia)に包まれており、小胸筋・大胸筋とともに前胸壁の筋膜システムの一部を形成します。筋膜の連続性(fascial continuity)という観点では、手指・前腕・上腕・肩・鎖骨胸筋筋膜という経路で張力が伝達される可能性があり、これが「手指の酷使→鎖骨下筋の硬化」という臨床観察の解剖学的な背景となりえます。ただしこの筋膜連鎖が鎖骨下筋に具体的にどの程度の影響を与えるかは、現時点では研究で証明されておらず、理論的な考え方です。
神経支配は鎖骨下筋神経(nerve to subclavius)で、腕神経叢の上幹(C5・C6)から分岐します。この神経は鎖骨下筋のすぐ近傍を走行するため、鎖骨下筋の硬結や張力の変化がこの神経の走行に影響を与える可能性がある点も、臨床的な関心の対象となります。ただしこの点もまた、現時点では解剖学的な論理の域を出ていません。首の伸展という動作では、頸椎の後方要素だけでなく、前方にある軟部組織の伸張が運動の最終域に影響することは解剖学的に自然な発想であり、鎖骨下筋がその影響要素の一つとなりうるという藤井先生の着眼は、解剖学的に理に適った視点です。
エビデンス ── 実在の論文4本が示すこと・示せないこと
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鎖骨下筋単独のトリガーポイント・筋膜リリースを直接検証した質の高い研究は、現時点では存在しません。引用する論文はいずれも「鎖骨下筋の筋膜リリースが首の痛みを治す」ことを証明するものではなく、MTrP有病率・頸部手技療法・鎖骨下筋ブロックの解剖学的知見など、周辺的エビデンスとして紹介します。
ここからは、引用する4本の実在論文を具体的に紹介します。最初に大前提を確認します:「鎖骨下筋の筋膜リリースが首の伸展時痛を改善する」という命題を直接検証した研究は、現時点では存在しません。ですので以下の文献は、この命題を証明するためではなく、周辺の科学的文脈を理解するために引用します。研究の知見と藤井先生の臨床観察を誠実に区別した上で読み進めてください。
まず、首・肩の疾患におけるトリガーポイント(MTrP: myofascial trigger points)の有病率を体系的に整理したのが、Ribeiroらによる2018年の系統的レビュー(BMC Musculoskeletal Disorders誌)です。この研究は5つのデータベースを検索し、首・肩の疾患を持つ患者における活性型・潜在型トリガーポイントの有病率を調べた観察研究7本を対象に分析しました。結論として、首・肩の様々な疾患において活性型・潜在型MTrPが広く認められることが示されましたが、すべての研究はサンプルサイズが小さく、対照群のないものや盲検化されていないものが多く、方法論的品質は低いと評価されています。この系統的レビューは「首・肩周辺の筋にトリガーポイントが存在しうる」という前提の文献的裏づけとなりますが、鎖骨下筋を直接の対象としたものではありません。鎖骨下筋単独の研究ではないため、あくまで「MTrP自体は首・肩疾患に広く存在する」という文脈での参照にとどまります。
次に頸椎の手技療法と呼吸に関する研究として、Tatsiosらによる2025年のランダム化比較試験(RCT)(Healthcare誌)があります。この研究は非特異的慢性頸部痛(NSCNP)の患者90名を対象に、①頸椎手技療法(Mulliganコンセプト)+横隔膜手技療法+呼吸再教育(EG1)、②頸椎手技療法+偽横隔膜手技(EG2)、③通常の理学療法(対照群)の3群で比較しました。主要評価項目は頸椎可動域(CS-ROM)と頭頸角(craniovertebral angle: CVA)です。結果として、EG1(頸椎+横隔膜+呼吸)は治療後のCS-ROMとCVAで有意な改善を示し、その効果は3ヵ月後のフォローアップまで維持されました。この研究の重要な示唆は、頸椎の可動域改善には頸椎だけでなく「周辺の筋膜・呼吸器系への介入」が寄与しうるという点です。鎖骨下筋を直接ターゲットにしたものではありませんが、頸椎伸展を含む可動域改善に胸郭周辺へのアプローチが関わりうることを間接的に支持します。
鎖骨下筋を解剖学的に直接取り上げた臨床研究として注目されるのが、Liらによる2026年の非劣性試験プロトコル(Trials誌)です。この研究は「鎖骨下筋平面ブロック(subclavius muscle plane block: SMPB)」という新しい神経ブロック手技が、鎖骨骨折手術において従来の斜角筋間上腕神経叢ブロックと同等の麻酔効果を持つかを検証する前向きRCTの試験計画です。重要なのは、この研究が鎖骨下筋平面ブロックを設計した背景として「鎖骨周囲の感覚神経は鎖骨下筋の周辺を通る感覚枝が支配している」という解剖学的根拠が詳述されている点です。鎖骨下筋がその周辺の感覚神経に対して解剖学的に重要な関係を持つという知見は、「鎖骨下筋の硬結が鎖骨・胸骨周辺の感覚に影響する可能性」という藤井先生の臨床観察の解剖学的背景と整合しています。ただしこれは麻酔手技の研究であり、筋膜リリースへの直接的な適用ではありません。
同様の麻酔学的視点から、鎖骨胸筋筋膜(clavipectoral fascia)の臨床的重要性を示す研究として、Zhangらによる2026年の前向きRCT(Medical Science Monitor誌)があります。この研究は、鎖骨中央部骨折手術において「修正鎖骨胸筋筋膜面ブロック(mCPB)」が従来の斜角筋間ブロックよりも優れた術後鎮痛効果(12時間・24時間後の痛みスコア)と横隔膜麻痺の低減(0% vs 71.4%)を達成したことを示しています(56名・2群RCT)。この研究が鎖骨下筋周辺の筋膜面が神経・血管の走行において臨床的に非常に重要であることを示す点は、鎖骨下筋とその筋膜環境への介入が身体に広い影響を持ちうることを示す間接的なエビデンスとなります。
動画の手技を図解する ── 評価・触診・リリースの手順
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鎖骨に手を当て、その直下(鎖骨下面)を沿って内側(胸鎖関節方向)へ触診します。特に胸鎖関節付近に硬結(コリのしこり)ができやすいため、その辺りを重点的に探します。触診で硬結を確認したら、患者に首を後ろへ反らしてもらい(頸椎伸展)、痛みの有無・程度を評価します。藤井先生によれば、触診の難易度は高くないため、まず解剖学的な位置を確認してから練習することが重要とのことです。
藤井先生が動画で示す評価・手技の手順を、図解とともに詳しく解説します。まず評価(触診)のポイントです。患者を仰臥位または座位にし、施術者は患者の前胸部に向かいます。まず鎖骨に手を当て、指の腹でその直下(鎖骨下面)を内側に向けて触診します。触診の始点は鎖骨の外側ではなく、胸鎖関節(鎖骨の内側端が胸骨と接する関節)に近い内側部です。藤井先生は「特に胸鎖関節付近に硬結ができやすい」と述べており、その辺りを重点的に探します。硬結はコリのしこりのように感じられる局所的な硬化部位です。触診で硬結を見つけたら、その部位に指を当てたまま患者に首を後ろへ反らしてもらいます(頸椎伸展)。このとき「痛みが出るかどうか」「どの程度の痛みか」を確認します。これが評価の核心です。
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鎖骨下筋の硬結に対して、横方向(鎖骨の走行に対して直交する方向)への圧迫刺激(横圧刺激)を加えます。鎖骨の下面に指を当て、縦(深部方向)ではなく横にわずかに動かすことで筋膜の癒着をほぐします。圧は「痛いけれど気持ちいい」程度に留め、強く押し込みすぎないようにします。
リリースの手技は「横圧刺激」です。鎖骨の走行に対して直交する方向(つまり上下に向かう縦方向ではなく、横方向)に指で圧を加えます。これが「横圧刺激」という名称の由来です。縦方向(深部方向)への強い圧迫は、鎖骨下動脈・鎖骨下静脈・腕神経叢への危険が伴うため行いません。横圧は「痛いけれど気持ちいい」と感じられる程度の圧に留め、10〜30秒程度キープしながら、硬結が緩んでくる感覚を待ちます。普段から使っている手技で調整すると藤井先生は述べており、特定の手技を厳密に指定しているわけではありません。重要なのは方向(横圧)と部位(SC関節付近の硬結)です。
リリース後に確認するのは、主に3点です。①首の伸展時の痛みが変化したか(軽減・消失)。②手を水平に出したとき、リリースした側の腕が長くなったように見えるか(腕の長さの変化)。③肩関節の動きが良くなったか(可動域の改善)。特に「手の長さが長くなる」という現象は、筋膜リリース後によく報告される感覚的な指標です。筋膜の緊張が解放されると、上肢の「張り」が緩んで見かけ上の長さが変化することがあります。これは実際の骨格の変化ではなく、筋膜の緊張解除による体性感覚的な変化と考えられます。
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藤井先生によれば、鎖骨下筋の硬結は手指をよく使う職業・趣味の方に見られやすいとのことです。治療家(施術者)・パン職人・編み物をする方など、手指を長時間・高負荷で使う人の首の痛みに対して、鎖骨下筋へのアプローチが有効なケースがあると述べています。これは臨床経験に基づく観察です。
動画で強調されているのが、対象患者の特徴です。藤井先生は「手指のオーバーワーク(使いすぎ)が多い人」として、治療家・パン職人・編み物教室の先生を具体的に挙げています。これらに共通するのは、手指を長時間・反復的・高負荷で使うという点です。手技施術を行う治療家は特にこの問題を自身が抱えやすく、「首が痛い治療家」の原因として鎖骨下筋を見落とさないよう注意を喚起しています。手指をよく使う患者の首の痛みを診る際には、頸椎や肩だけでなく鎖骨下筋(特にSC関節付近)を触診の対象に加える、という視点が動画の主要なメッセージです。
症例の考え方・よくある質問
Q. 手指を使う職業の人はなぜ鎖骨下筋が硬くなりやすいのですか? ── A. この点についての確立したメカニズムは研究では示されていませんが、臨床的には以下のように考えられています。手指の反復・高負荷使用は、前腕の屈筋群・伸筋群を慢性的に緊張させます。この緊張が上腕・肩甲帯・肩関節周辺筋へと連鎖し、最終的に鎖骨の安定化を担う鎖骨下筋にも筋膜を介した張力が伝わると考えられます。特に手技施術を行う治療家は施術中に肩甲帯を安定させた状態で長時間上肢を使うため、鎖骨を固定・安定化する鎖骨下筋への持続的な負荷がかかりやすいと推定されます。ただし、これは仮説的な説明であり、直接の研究による証明はありません。ご自身が手指を多く使う仕事をしており首の伸展時痛がある場合は、本記事の評価法を参考に、まず触診でSC関節付近の硬結の有無を確認してみてください。
Q. 鎖骨下筋のリリースは自分でできますか(セルフケア)? ── A. 動画の対象は主に治療家(施術者)であり、セルフケアとしての指導は動画では明示されていません。ただし解剖学的に、鎖骨の直下は自分の指でも触れやすい部位です。SC関節付近(鎖骨の内側端)に指を当て、縦ではなく横方向に軽くゆるめる動きを試みることは可能です。注意点は、縦方向に強く押し込まないこと、拍動を感じたり電気が走る感覚があれば即中止すること、強い痛みが出る場合はセルフケアを避けて専門家に相談することです。鎖骨下には重要な血管・神経(鎖骨下動脈・静脈・腕神経叢)が密集しており、深く押し込むことは危険を伴います。セルフケアとして行う場合は、「浅く・横に・優しく」を徹底してください。
Q. リリースで首の伸展時痛は必ず治りますか? ── A. 「必ず治る」という保証はできません。首の伸展時痛には多くの原因があり得ます。頸椎の椎間板・椎間関節・靭帯の問題、頸部の深層筋の問題、神経由来の問題など、鎖骨下筋以外に原因がある場合も多くあります。藤井先生の動画が伝えたいのは「鎖骨下筋が原因のひとつになっているケースがある」という視点の提供であり、すべての首の伸展時痛に鎖骨下筋のリリースが有効とは言っていません。触診で硬結があり、指を当てたまま首を伸展させると痛みが増減する、という評価上の反応があった場合には鎖骨下筋が一因となっている可能性が高まりますが、確定診断とは異なります。改善しない場合や症状が悪化する場合は、医療機関を受診してください。
安全・注意・受診勧奨
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鎖骨の直下には鎖骨下動脈(赤)・鎖骨下静脈(青)・腕神経叢(黄)が密集しています。深く強く押し込むのは危険です。横圧刺激は鎖骨の直下・浅い位置で行い、深く押さないのが原則です。拍動を感じたら即座に離す、腕・指のしびれや電気が走る感覚があれば即中止してください。
この記事では、藤井先生が動画で解説する鎖骨下筋リリースの手技を、7枚の図解と周辺エビデンスを交えて読み解きました。改めて誠実に線引きを確認します:「鎖骨下筋の横圧リリースが首の伸展時痛を改善する」という命題を直接証明したRCTや系統的レビューは現時点では存在しません。一方、MTrPが首・肩の疾患に広く存在するという系統的レビュー(Ribeiro 2018)・頸部周辺の筋膜への手技療法が頸椎可動域を改善しうるというRCT(Tatsios 2025)・鎖骨下筋周辺が解剖学的に神経・血管と密接に関係するという臨床研究(Li 2026・Zhang 2026)は、「鎖骨下筋へのアプローチが首の問題と無関係ではない」という周辺的な根拠となります。動画に示された藤井先生の臨床経験は、解剖学的には整合性がある考え方であり、手指のオーバーワークがある患者の首の伸展時痛を診る際の一つの視点として有用です。
【参考文献】1. Ribeiro DC ほか(2018)The prevalence of myofascial trigger points in neck and shoulder-related disorders: a systematic review of the literature. BMC musculoskeletal disorders. DOI: 10.1186/s12891-018-2157-9. PMID: 30045708. 2. Tatsios PI ほか(2025)The Effectiveness of Manual Therapy in the Cervical Spine and Diaphragm, in Combination with Breathing Re-Education Exercises, on the Range of Motion and Forward Head Posture in Patients with Non-Specific Chronic Neck Pain: A Randomized Controlled Trial. Healthcare. DOI: 10.3390/healthcare13141765. PMID: 40724787. 3. Li CG ほか(2026)Comparison of anesthesia efficacy between subclavius muscle plane block and interscalene brachial plexus block for open reduction and internal fixation of clavicle fractures. Trials. DOI: 10.1186/s13063-026-09751-y. PMID: 42050621. 4. Zhang Z ほか(2026)Ultrasound-Guided Modified Clavipectoral Fascial Plane Block With Superficial Cervical Plexus Block for Midshaft Clavicular Surgery. Medical Science Monitor. DOI: 10.12659/msm.951405. PMID: 41945503.
限界と注意・受診の目安
- ▸「鎖骨下筋の硬結が首の伸展時痛を引き起こす」という主張は藤井先生の臨床経験に基づくものであり、科学的に証明された因果関係ではありません。効果には大きな個人差があります。
- ▸腕・指のしびれ・脱力・冷感・腫脹・発赤・安静時痛・外傷後の痛みがある場合は、セルフケアを行わず医療機関(整形外科・神経内科)を受診してください。
- ▸鎖骨の直下には鎖骨下動脈・鎖骨下静脈・腕神経叢が密集しています。縦方向への強い押し込みは危険です。横圧・浅い位置での施術に限定してください。
- ▸拍動を感じた場合・腕への放電感(電気が走る感覚)・強い痛み・不快感が生じた場合は即中止してください。
- ▸鎖骨骨折・手術後・鎖骨部位の炎症・腫脹・悪性疾患の疑いがある場合は禁忌です。
- ▸この記事は医療行為の代替ではありません。症状が続く・悪化する場合は整形外科・脳神経外科・神経内科などを受診してください。
監修・参考文献
掲載内容は藤井翔悟が臨床経験と学術文献に基づき確認しています。効果には個人差があり、本記事は診断・治療の代替ではありません。より高い客観性のため、今後は外部の有資格者(医師・理学療法士等)による監修も加えていきます。
監修:藤井翔悟(徒手療法家 / 手技考案者)
- [1] Ribeiro DC, Belgrave A, Naden A, Fang H, Matthews P, Parshottam S.(2018).「The prevalence of myofascial trigger points in neck and shoulder-related disorders: a systematic review of the literature」. BMC musculoskeletal disorders.
- [2] Tatsios PI, Grammatopoulou E, Dimitriadis Z, Koumantakis GA.(2025).「The Effectiveness of Manual Therapy in the Cervical Spine and Diaphragm, in Combination with Breathing Re-Education Exercises, on the Range of Motion and Forward Head Posture in Patients with Non-Specific Chronic Neck Pain: A Randomized Controlled Trial」. Healthcare (Basel, Switzerland).
- [3] Li CG, Yuan W, Wei J, Mou CY, Guo J, Zhong F, Fan K, Gong WY.(2026).「Comparison of anesthesia efficacy between subclavius muscle plane block and interscalene brachial plexus block for open reduction and internal fixation of clavicle fractures: study protocol for a randomized non-inferiority clinical trial」. Trials.
- [4] Zhang Z, Xu J, Huang Z, Sun G.(2026).「Ultrasound-Guided Modified Clavipectoral Fascial Plane Block With Superficial Cervical Plexus Block for Midshaft Clavicular Surgery: A Prospective Randomized Controlled Trial」. Medical science monitor : international medical journal of experimental and clinical research.