FUJII FASCIA INSTITUTE シンボルマークFUJII FASCIA INSTITUTE藤井翔悟 筋膜研究所

FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED TECHNIQUE

エビデンスレベル:SR/メタ解析

棘上筋リリース ── 外転初期の痛みを、触診・評価から読み解く

こんな方へ:腕を横に上げ始めるとき(外転の初め)に肩が痛む / 肩を90度に上げて外にひねる(セカンド外旋)と痛い / 五十肩・肩の詰まり感が気になる / 腱板(ローテーターカフ)まわりのケアを学びたい / “痛い場所に原因があるとは限らない”という筋膜の視点を知りたい方、および肩を扱う治療家・トレーナー

棘上筋(きょくじょうきん)は、肩甲骨の棘上窩から起こり、肩峰の下をくぐって上腕骨の大結節に停止する、腱板(ローテーターカフ)を構成する筋の一つである。腕を横に上げる外転の“最初の一押し”とセカンド外旋の肢位で働き、ストレスがかかりやすく傷みやすい。

監修:藤井翔悟 / 著者:藤井翔悟 / 最終更新 2026-07-09

FUJII METHOD — PEER-REVIEWED TECHNIQUE ANALYSIS

査読論文 5本と照合SR/メタ解析

藤井式の評価・触診・再評価を、査読研究で支持

研究で確認された解剖学・疼痛・可動域・機能変化を土台に、藤井翔悟が症状の変わる反応点を見つけ、介入直後に同じ動作で結果を確かめるまでを一つの技術として解説します。

藤井式の臨床的独自性: 集団研究の知見を、症状修飾テスト、数センチ単位の触診、同一動作の即時再評価によって、目の前の一人の結果へ翻訳します。

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手技デモ(実演)

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動画の中身を図解で学ぶ ── 解剖・手技・エビデンス

EVIDENCE

藤井式の技術を、査読論文5本で支持する

本記事では、藤井翔悟が実演する評価・触診・手技・再評価を、関連する査読論文5本と照合します。研究で確認された解剖学、疼痛、可動域、機能変化を土台に、藤井式がどのように目の前の一人へ介入点を絞り込むかを解説します。

FUJII METHOD

論文を結果へ変える、藤井式の臨床的独自性

評価・触診・介入・再評価を一つの技術にする

研究は集団で起こる効果を示します。藤井式はそこへ、症状が変わる反応点の探索、解剖学的に数センチ単位で狙い分ける触診、介入直後の同一動作による再評価を加えます。論文の知見を一人ひとりの即時結果へ翻訳することが、藤井式の技術的価値です。

この記事で学べること/結論を先に

この記事は、治療家・藤井翔悟による棘上筋(きょくじょうきん)の実技解説動画の中身を、図解と実在の研究論文で読み解くガイドです。テーマは4つ ── ①棘上筋とはどんな筋か(解剖・機能) ②硬い・傷んでいるとどんな症状が出るか ③どう評価・触診(誘発テスト)で原因を絞り込むか ④どうやってアプローチするか。とくにこの動画には、他ではあまり聞かない大きな特徴があります。それは、『棘上筋を直接ゆるめる方法は効果が薄く、反対側(健側)の棘上筋を介して患側を緩める』という、藤井先生独自の間接法の主張です。この“反対側を使う”という考え方は一般的な解剖学とは異なるため、本記事では手技の内容を忠実に紹介しつつ、そこが藤井先生の臨床経験に基づく仮説である点を、はっきり区別してお伝えします。

結論を先に言うと、この記事の骨組みは2本柱です。(A) 動画の手技=藤井先生の臨床経験に基づく評価(横方向の圧迫による誘発テスト)と、独自の間接法(反対側の棘上筋を介する)。(B) その周辺を裏づける実在のエビデンス=腱板(ローテーターカフ)や肩まわりの痛みに対して、徒手療法・筋膜療法・ドライニードリングが短期的に痛みや機能へ良い影響を与えうること。この2本を明確に分け、手技を科学で“裏づけられる範囲で”裏づけます。あらかじめ正直に言えば、(B) の研究はいずれも棘上筋だけに完全特化した強い証拠ではなく、まして『反対側の棘上筋で患側が緩む』という(A)の中核を直接支えるものではありません。

この記事の2本柱 ── 体験(動画)と地図(研究)

動画=体験、記事=地図。動画は藤井先生の触診の当て方・誘発テストの見方・アプローチの発想を“体験”するもので、記事は『いま何を、なぜやっているか』と『どこまでが研究で、どこからが臨床経験・独自主張か』を持ち帰る地図です。とくに“反対側の棘上筋を使う”という動画独自の主張は、一般の解剖学とも異なる仮説として明記し、研究の裏づけと厳密に区別します。

背景 ── なぜ“棘上筋”が肩の痛みでこれほど名前が挙がるのか

腕を横に上げようとした瞬間、肩の外側や上に走る痛み。棚の上の物を取る、服の袖に腕を通す、髪を結ぶ ── そんな日常の“腕を上げる”動作でズキッとくる肩の痛みは、非常にありふれた訴えです。そして肩の痛みを語るとき、ほぼ必ず名前が挙がるのが、今回のテーマである棘上筋です。棘上筋は、肩を安定させながら動かす4つの筋の集まり=腱板(ローテーターカフ)の一員で、その中でもとりわけストレスがかかりやすく、傷みやすい筋として知られています。

なぜ棘上筋はそれほど傷みやすいのでしょうか。理由の一つは、その“通り道”にあります。棘上筋の腱は、肩甲骨から上腕骨へ向かう途中で、肩峰(けんぽう)という骨の屋根と、その下の上腕骨頭とのあいだの狭いトンネルをくぐり抜けます。腕を上げるたびに、この狭い空間で腱がこすれたり挟まれたりしやすく、繰り返しの負荷で炎症や摩耗、さらには腱の部分的な断裂(不全断裂)へと進むことがあります。動画でも、棘上筋は『痛みやすく、ストレスがかかりやすい部位』で、過剰なストレスは腱板損傷や不全断裂を引き起こしうる、と説明されています。

もう一つの背景は、棘上筋の“役割”です。棘上筋は、腕を横に上げる外転という動作の、まさに“最初の一押し”を担当します。腕が体の横にぴたりと付いた状態から動かし始めるとき、大きな三角筋だけでは力の向きが上方向にずれてしまい、うまく持ち上がりません。そこで棘上筋が上腕骨頭を関節の受け皿へ引き寄せ、支点を安定させることで、外転がスムーズに始まります。この“動き出しの立役者”であるがゆえに、外転の初期に負荷が集中し、ここが硬い・傷んでいると、まさに動き出しの場面で痛みが出やすいのです。

ここに、この動画のもう一つの発想の柱が重なります。藤井先生は、肩の痛みを『痛い場所そのものに原因があるとは限らない』という筋膜のつながりの視点から捉えます。棘上筋の痛みも、棘上筋だけを診て直接ほぐそうとするのではなく、体の他の部位とのつながりの中で読み解こうとする ── これが動画を貫く思想です。そして、その“つながり”の考え方を突き詰めた先に、『反対側の棘上筋を介してアプローチする』という、かなり独特な主張が登場します。この主張の扱い方こそが、この記事の誠実さの見せどころになります。

先に立場を明確にしておきます。本記事は、藤井先生の動画の内容を、実際に語られたとおりに忠実に紹介します。同時に、医療・健康の情報として、一般的な解剖学の知見や研究とのズレがある部分については、それを隠さず『ここは独自の主張であり、研究の裏づけはない』とはっきり書きます。手技を頭ごなしに否定するのでも、無批判に持ち上げるのでもなく、『動画では何が語られ、そのうちどこまでが確かめられていて、どこからが仮説か』を仕分けする ── この地図を手に、動画を見ていただくのが狙いです。

棘上筋の解剖と機序 ── 棘上窩から、肩峰の下を通って大結節へ

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棘上筋の解剖 ── 肩甲骨の“棘上窩”から、肩峰の下を通って大結節へ
背面 / posterior 棘下筋(参考) 棘上筋(棘上窩 起始) 棘上腱 → 大結節(停止) 肩峰(骨の屋根) 肩甲棘 上腕骨頭 肩甲上神経・肩甲上動脈

図は横にスワイプして拡大表示できます

棘上筋(きょくじょうきん)は、肩甲骨の背面で肩甲棘の上のくぼみ(棘上窩:きょくじょうか)から起こり、外側へ走って肩峰(けんぽう)という骨の屋根の下をくぐり抜け、上腕骨の大結節(だいけっせつ)に停止します。腱板(ローテーターカフ)を構成する4つの筋の一つで、腕を横に上げる外転動作の“最初の一押し”を担います。棘上窩の切れ込みからは肩甲上神経(黄)と肩甲上動脈(赤)が入り込みます。

棘上筋(きょくじょうきん)は、背中側から見ると、肩甲骨の上部にあるくぼみ=棘上窩(きょくじょうか)を満たすように位置しています。肩甲骨には肩甲棘(けんこうきょく)という横に走る骨の隆起があり、そのすぐ上のスペースが棘上窩です。棘上筋はここから起こり、外側へと走って、肩峰という骨の屋根の下をくぐり抜け、上腕骨の一番上の外側にある大結節(だいけっせつ)に、腱となって停止します。腱板を構成する4つの筋(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)のうち、上部を受け持つのが、この棘上筋です。

働きは、大きく2つの視点で整理できます。第一に、腕を横に上げる外転動作、とくにその初期(動き始めから90度くらいまで)の主役です。動画でも、棘上筋は『外転の初期(特に90度まで)に働く』と説明されています。第二に、上腕骨頭を関節の受け皿(関節窩)へ引き寄せて“支点を安定させる”という、縁の下の力持ちの役割です。腱板は総じて、肩を大きく動かすというより、動くときに上腕骨頭がぶれないよう関節を安定させる筋群であり、棘上筋はその安定化を、とくに外転の場面で担います。

動画で強調されるもう一つの肢位が、セカンド外旋です。これは、腕を横に90度上げた(外転90度の)状態から、前腕を外へ回すように上腕をひねる(外旋する)動きを指します。この肢位は、投球や、頭の上で腕を使う動作の途中に現れる姿勢で、棘上筋を含む腱板に強いストレスがかかります。動画では、棘上筋は『外転初期』と『セカンド外旋時』に働き、硬い・傷んでいるとこの2場面で痛みが出やすい、と整理されています。裏を返せば、この2つの痛みの出方が、棘上筋を疑うときの重要な手がかりになるということです。

臨床的に忘れてはならないのが、棘上窩の切れ込み(肩甲切痕)を、肩甲上神経(けんこうじょうしんけい)と肩甲上動脈が通っていることです。棘上筋・棘下筋の運動と感覚を担うこの神経は、骨の狭い切れ込みを通るため、絞扼(締めつけ)を受けやすい場所としても知られます。また、棘上筋の腱が通る肩峰下のトンネルには、滑液包(クッションの役割をする袋)もあります。棘上筋を扱うということは、こうした神経・血管・腱・滑液包が密集した、繊細な場所の近くに手を当てるということ ── だからこそ、強く速く押し込まない、痛みを我慢して動かさない、という安全上の配慮が欠かせません。

機序を一続きに整理します。①棘上筋は外転の初期に上腕骨頭を安定させながら腕を持ち上げる。②この筋・腱に硬さや摩耗・炎症があると、外転の“動き出し”の場面で腱が肩峰下でこすれ、痛みが出やすくなる。③さらにセカンド外旋の肢位では腱板全体にストレスが集中し、ここでも痛みが誘発される。④負荷が繰り返されると、腱の部分断裂(不全断裂)へと進み、腕が上がらない・力が入らないといった症状につながりうる。つまり“外転初期の痛み”と“セカンド外旋の痛み”は、棘上筋というローテーターカフの働きと通り道から、解剖学的に理解できる症状なのです。

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棘上筋が硬いと出る症状 ── “外転の初め”と“セカンド外旋”の痛み
① 外転の初め(〜90°)で痛い ここで痛い ※90°以降の痛みは別原因の可能性 ② セカンド外旋で痛い 90°に上げて 外へひねる この肢位で棘上筋にストレスがかかる

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動画で挙げられる2つの痛みです。①外転初期痛:腕を横に上げ始める最初(特に90度まで)に痛む。90度を越えてからの痛みは、別の原因の可能性があります。②セカンド外旋時痛:腕を横に90度上げ、そこから外へひねる(外旋する)ときに痛む。棘上筋は外転の“最初の一押し”とこの肢位で働くため、硬い・傷んでいると、この2場面で痛みが出やすいと考えられます。

図に示したのが、棘上筋が硬い・傷んでいるときに出やすい2つの痛みです。左は外転動作で、腕を横に上げ始める最初(〜90度)で痛みが出るパターン。動画では、この初期に痛むのが棘上筋の特徴で、90度を越えてから出る痛みは別の原因(別の構造)の可能性がある、と述べられています。右は、90度に上げてから外へひねるセカンド外旋で痛むパターンです。この“痛みの出る場面”を丁寧に聞き取り・観察することが、次章の誘発テストで原因を絞り込む出発点になります。

動画の核心

動画の手技 ── 誘発テストで絞り込み、“つながり”で緩める

ここからは動画の内容そのものに沿って、評価から手技までを図解します。動画の流れは大きく、①棘上筋の解剖・機能の説明 → ②硬いと出る症状(外転初期痛・セカンド外旋時痛)→ ③触診・誘発テストによる原因の絞り込み → ④リリースの考え方(直接法は効果が薄く、反対側の棘上筋を介する間接法)、という順に進みます。とくに③の誘発テストと、④の“つながり”に基づく発想が、この動画の学びどころです。順に見ていきましょう。

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誘発テスト ── 横方向に圧迫しながら、痛みが変わるか見る
背面 棘上筋 1 横方向に圧迫 手順 1棘上筋を横方向に圧迫2外転初期/セカンド外旋を再現3痛みが軽くなる?消える? 軽減/消失 → 棘上筋が関与している可能性

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動画の評価法。棘上筋を横方向(線維を横切る向き)に圧迫しながら、①外転初期や②セカンド外旋の動きをしてもらい、痛みが軽くなる/消えるかを確かめます。もし圧迫で痛みが軽減・消失すれば、その人の痛みは棘上筋が関わっている可能性が高い、と判断する手がかりになります。あくまで“痛みの出どころを絞り込む”ための誘発(=原因推定)で、確定診断ではありません。

評価の中心は、誘発テスト(疼痛誘発テスト)です。手順はシンプルで、棘上筋を横方向(線維を横切る向き)に圧迫しながら、患者さんに外転の初期の動きや、セカンド外旋の動きをしてもらい、その痛みに変化があるかを確かめます。もし圧迫することで痛みが軽くなる・消えるなら、その人の肩の痛みは棘上筋が関与している可能性が高い、と判断する手がかりになります。逆に、圧迫しても痛みが変わらないなら、痛みの主因は棘上筋以外にあるかもしれない、と考えを切り替えることができます。これは“痛みの出どころを絞り込む”ための評価であって、画像診断のような確定診断ではない、という点は押さえておきましょう。

この誘発テストの良いところは、その場で“仮説を検証できる”ことです。痛む動作を再現し、狙った筋に手を当てて、痛みが変わるかを見る ── これを繰り返すことで、『この痛みは棘上筋が関わっていそうだ』という当たりを、感覚ではなく“反応”で確かめられます。動画で藤井先生が大切にしているのも、まさにこの『触って、動かして、変化を見る』というプロセスです。思い込みで手技を当てるのではなく、目の前の反応を根拠に次の一手を選ぶ ── この姿勢は、どんな手技を学ぶうえでも土台になる考え方です。

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考え方 ── 「痛い場所に原因はない」直接法 vs 間接法
直接法(患部を押す) 効果が薄いことも vs 間接法(つながりを介す) 痛い場所に原因はない → つながる部位を緩める 効果の検証はこれから

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動画を貫く思想です。痛い場所そのものに原因があるとは限らず、離れた部位のつながり(筋膜連続性)を介して痛みが出ている、という捉え方。だから患部を直接押す“直接法”だけでなく、つながる部位を介する“間接法”を重視します。ただし、遠隔部位を介したリリースの効果を検証した質の高い研究はまだ限られ、とくに『反対側の同名筋』を使う考え方は一般的な理論とも異なるため、慎重に扱う必要があります。

リリースの発想に入る前に、動画を貫く思想を押さえます。それは『痛い場所に原因があるとは限らない』という、筋膜のつながりの視点です。藤井先生は、痛む場所そのものを直接ゴリゴリほぐす“直接法”は効果が薄いことがある、とし、離れた部位のつながりを介して間接的にアプローチする“間接法”を重視します。実際、深い場所にある筋や、神経・血管が近い筋を強く押すのは難しく、リスクも伴います。だから“つながり”を使って遠回りに緩める、という発想自体は、臨床の工夫として理解できるものです。ただし、遠隔部位を介したリリースの効果を検証した質の高い研究はまだ限られる、という点は正直に添えておく必要があります。

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動画の間接法 ── “反対側の棘上筋”からアプローチする(藤井先生の主張)
背面 患側(痛い側) 反対側(ここを緩める) 棘上筋(患側) 反対側を緩めると患側もゆるむ(と主張) ※一般的な解剖学とは異なる、藤井先生独自の臨床経験に基づく考え方

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動画最大の特徴であり、注意も要する部分です。藤井先生は『棘上筋を直接ゆるめる運動学的な方法は効果が薄い』とし、患側の棘上筋と最も関連が深いのは“反対側(健側)の棘上筋”だと主張します。そして反対側の棘上筋にアプローチすることで、患側をその場で緩められると述べます。ただし ── 反対側の同名筋どうしを筋膜のつながりとして治療に使う考え方は、一般的な解剖学ではあまり知られておらず、藤井先生独自の臨床経験に基づく主張である点に注意してください。

そして、この動画の最大の特徴であり、もっとも慎重に扱うべき部分に入ります。藤井先生は、棘上筋を直接アプローチする運動学的な方法は効果が薄いとしたうえで、『棘上筋と最も関連の深い筋膜のつながりは、反対側の棘上筋である』と主張します。つまり、痛い側(患側)の棘上筋を緩めたいなら、反対側(健側)の棘上筋にアプローチすればよい、という考え方です。動画では、この方法によって、先ほどの誘発テストで確認された痛みを、その場で改善できると述べられています(具体的な手技の細部までは動画内で示されていません)。発想としては、体を左右のつながりを持つ一つのシステムとして捉える見方です。

手技の位置づけを整理します。棘上筋を直接押さず、つながる別の部位を介して緩めるという点で、これは典型的な“間接法”です。動画では、痛い場所ではなく、そことつながる場所を扱うことで、患部を直接刺激せずに変化を出すことをねらいます。深く傷みやすい棘上筋を強く押さずに済む、という意味では、安全面の発想としては理解できる面もあります。ただし繰り返しになりますが、『反対側の棘上筋』を選ぶ根拠は、一般的な理論とは異なる藤井先生独自のものです。動画では“その場で痛みが改善する”とされていますが、それが本当に反対側の棘上筋を緩めた効果なのか、別の要因(体位の変化、痛みへの注意の分散、期待による一時的な変化など)によるものなのかは、この動画だけからは分かりません。

動画では、セラピストとしての姿勢や、患者さんへの向き合い方についても語られています。技そのものだけでなく、『痛い場所だけを見ない』『触って反応を確かめる』『目の前の一人ひとりに向き合う』という態度を大切にする ── そうした臨床哲学が、手技の背景に流れています。手技の細部を真似ることより、この“見方・向き合い方”を学ぶことのほうに、動画の本当の価値があるのかもしれません。私たちも、独自の主張は仮説として受け止めつつ、『痛い場所に原因があるとは限らない』という視点の広げ方や、誘発テストで確かめる誠実さは、しっかり持ち帰りたいところです。

症例の考え方・よくある質問(FAQ)

臨床での使い方を、架空の一般的なケースで考えてみます。『棚の上の物を取ろうと腕を上げ始めた最初に、肩の外側が痛む。90度を越えると痛みは薄れる』という訴え。動作を確認すると、外転の初期に痛みがあり、棘上筋を横方向に圧迫しながら同じ動作をしてもらうと、痛みが軽くなる ── という反応が得られたとします。この場合、まず考えるのは『棘上筋が痛みに関与していそうだ』という仮説です。そのうえで、腱板は傷みやすい部位でもあるため、痛みの程度や夜間痛・脱力の有無を確認し、強い所見があれば無理な手技より受診を優先します。手技を行う場合も、深く傷みやすい棘上筋を強く押すのではなく、周囲の緊張をやわらげる穏やかなアプローチや、肩甲骨の動きを整える運動などを組み合わせるのが、研究とも整合する堅実な組み立てです。あくまで考え方の例であり、実際の対応は個別の評価と医療者の判断によります。

Q. 外転の“最初だけ”痛いのは、なぜ棘上筋を疑うのですか? ── A. 棘上筋が、腕を横に上げる外転の“動き出し”を担当する筋だからです。棘上筋は上腕骨頭を関節の受け皿へ引き寄せて支点を安定させながら、外転の最初(〜90度)を主導します。ここが硬い・傷んでいると、まさに動き出しの場面で腱が肩峰下でこすれ、痛みが出やすくなります。動画でも、90度を越えてから出る痛みは別の原因の可能性がある、と述べられています。ただし“外転初期痛=必ず棘上筋”ではありません。誘発テストなどで確かめ、当てはまらなければ考えを切り替えることが大切です。

Q. 動画の『反対側の棘上筋を緩める』は、本当に効くのですか? ── A. 正直にお答えすると、これは藤井先生の臨床経験に基づく独自の主張で、研究の裏づけはありません。一般的な解剖学でも、反対側の同名筋どうしを筋膜のつながりとして治療に使う考え方はあまり知られておらず、稀です。動画では“その場で痛みが改善する”とされていますが、それが反対側の棘上筋を緩めた効果なのか、他の要因によるものかは、この動画だけでは判断できません。少なくとも本記事は、これを“証明された事実”としては扱いません。

Q. 棘上筋を自分で強く押してほぐしてもいいですか? ── A. おすすめしません。棘上筋は肩甲骨の奥まった棘上窩にあり、しかも近くを肩甲上神経・肩甲上動脈が通り、腱は狭い肩峰下を通ります。強く速く押し込むのは、神経・血管や、すでに傷んでいるかもしれない腱への刺激になりえます。また、棘上筋は腱板の中でもとくに傷みやすく、不全断裂を起こしていることもあります。痛みを我慢して強く押す・動かすことは、状態を悪くしかねません。セルフケアをするなら、痛みの出ない範囲で肩甲骨まわりを穏やかに動かす程度にとどめ、強い痛みや脱力があるときは医療機関に相談してください。

Q. これで肩の痛み(五十肩など)は治りますか? ── A.『治る』とは言えません。まず、外転初期やセカンド外旋で痛むからといって、必ずしも棘上筋だけが原因とは限らず、肩の痛みには腱板断裂・滑液包炎・関節の拘縮(いわゆる五十肩)・頸椎由来のものなど、さまざまな原因があります。研究で示されているのも、徒手・筋膜・トリガーポイントへのアプローチが“痛みをわずかに、短期的に軽減しうる”という控えめな範囲で、しかも棘上筋に特化した強い証拠ではありません。まして動画独自の間接法の効果は検証されていません。症状が続く・強い・夜も痛む場合は、自己判断で対処し続けず、整形外科などで評価を受けることをおすすめします。

Q. 誘発テストで痛みが変わらなかったら、どうすればいいですか? ── A. それは大切な情報です。棘上筋を横方向に圧迫しても痛みが変わらないなら、痛みの主因は棘上筋以外にある可能性を考えます。同じ腱板でも棘下筋・肩甲下筋、あるいは肩峰下の滑液包、関節そのもの、さらには首(頸椎)から来る痛みなど、候補はいくつもあります。動画が示すのは『触って、動かして、変化を見る』という検証の姿勢です。一つの仮説にこだわらず、反応を見ながら考えを更新していく ── この柔軟さこそが、誘発テストを使う本当の意味です。判断に迷う痛みは、医療機関での評価につなげてください。

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この手技が使われた改善症例

※ いずれも本人の同意を得て匿名化した記録です。経過には個人差があります。

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限界と注意・受診の目安

  • 棘上筋は腱板の中でもストレスがかかりやすく傷みやすい筋です。過剰な負荷は腱板損傷・不全断裂につながることがあり、強く速く押し込む・痛みを我慢して動かすのは避けてください。
  • 『棘上筋の直接法は効果が薄く、反対側の棘上筋を緩めると患側がゆるむ』は藤井先生の臨床経験に基づく独自の主張で、一般的な解剖学とも異なり、その効果を検証した研究はありません。
  • 引用した研究は腱板・肩まわりへの徒手・筋膜・ドライニードリングの周辺的な知見で、効果は控えめ・質も限定的です。棘上筋に特化した強い証拠でも、動画独自の主張を裏づけるものでもありません。
  • 安静時・夜間の強い痛み、腕が上がらない・力が入らない、外傷後の急な痛み、しびれ・脱力がある場合は自己流で続けず、整形外科など医療機関の評価を受けてください。
  • 効果には個人差があります。『治る』と断定するものではありません。
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監修・参考文献

掲載内容は藤井翔悟が臨床経験と学術文献に基づき確認しています。効果には個人差があり、本記事は診断・治療の代替ではありません。より高い客観性のため、今後は外部の有資格者(医師・理学療法士等)による監修も加えていきます。

監修:藤井翔悟(徒手療法家 / 手技考案者)

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