FUJII FASCIA INSTITUTE シンボルマークFUJII FASCIA INSTITUTE藤井翔悟 筋膜研究所

FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED SINGLE CASE STUDY

20年来の腰痛が、内臓の「冷え」を温める施術で変わった ── 肝機能の数値異常と晩酌歴がある一例

慢性腰痛(20年)起立時痛ぎっくり腰(既往)肝機能検査値の異常(本人申告)VISCERAL LINES 内臓筋膜ライン内臓の温度触診治療的診断腹部への温熱的アプローチ

BEFORE

20年前のぎっくり腰をきっかけに、朝の起床時や座位から立ち上がる際の腰の重さ・痛みが慢性的に持続。手術歴や管理中の内科疾患はないが、直近の血液検査で肝機能の数値異常を指摘されており、毎晩の飲酒習慣があった。

AFTER

問診で飲酒歴と肝機能の数値異常を確認したうえで、胸部と仙骨の「温かさの差」を本人に自分の手で確認してもらい、胸骨付近の反射点を圧迫しながら大腰筋・横隔膜のあるエリアを温めるように保持。本人申告の痛みは、施術前を10とすると施術直後には2〜3程度まで下がったと報告された。

経過:視聴者参加型の公開デモ・単回・約7分間(動画で確認できる直後変化のみ。継続的な患者ではなく、追跡調査はない)

施術の動画

はじめに

腰ではなく、内臓の「冷え」から見立てが始まった一例

20年前のぎっくり腰をきっかけに、朝の起床時や、長時間座った姿勢から立ち上がるときに腰が痛む。手術歴や、管理している内科的な疾患は特にない ── ここまでは、腰痛の相談としてよくある内容です。しかしこの動画では、問診の途中で「最近、肝臓の数値があまり良くない」という一言をきっかけに、施術者・藤井翔悟の見立てが大きく方向転換します。

この男性は、藤井の患者ではなく、藤井の動画を見た配偶者の勧めで、視聴者参加型の公開デモ撮影に応募した一般の応募者です。つまりこの記事で扱うのは、継続的な通院関係の中で行われた治療の経過報告ではなく、初対面・単回・約7分間という限られた時間の中で行われた、公開インタビュー形式のデモンストレーションです。この前提を踏まえたうえで、動画の中で実際に何が語られ、何が行われ、何が変化したのかを、事実・本人の主観報告・施術者の解釈・施術者独自の理論という4つの層に分けて、丁寧に読み解いていきます。

この記事で分けて扱う4つの層

①動画で確認できる発言・動作(事実)、②本人が言葉にした感覚の変化(主観報告)、③施術者による触診上の解釈(施術者の解釈)、④「冷えは腰に溜まる」という施術者独自の臨床理論。この4つを混ぜず、それぞれの確からしさを分けて記録します。

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問診で分かったこと
問診で分かったこと ── 20年の経過と、この日確認された背景 ① 20年前のぎっくり腰 以来ずっと、朝の起床時・座位からの立ち上がりで痛み ② 事務職・座位中心 長時間座ってから立つ動作で増悪 ③ 手術歴・内科疾患 特になし(本人申告) ④ 直近の血液検査 肝臓の数値が良くないと指摘(本人申告) ⑤ 毎晩の飲酒習慣(本人申告) 缶ビール3本程度に加え、焼酎なども毎晩。施術者はこの問診の流れから「内臓、特に冷え」を 見立ての切り口として選んだ。この因果づけ自体は、施術者自身の臨床的な見立てである。 → 特定の外傷や病名ではなく、生活習慣(飲酒・座位中心の仕事)と20年前の既往が主な手がかりだった。 血液検査の具体的な数値(AST/ALT等)や診断名は、動画内では示されていない。

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20年前のぎっくり腰以来の慢性腰痛に加え、直近の血液検査での肝機能の数値異常と、毎晩の飲酒習慣が確認された。

STEP 1

20年の経過 ── 姿勢と動作に関連した、よくある腰痛のパターン

「今日は、腰の調子はどんな感じですか」という施術者の問いに、男性は「変わらず。常日頃、あるなと。重さというか痛さというか」と答えました。20年ほど前にぎっくり腰を経験して以来、ずっとこの状態が続いているといいます。痛みが出やすいタイミングを尋ねられると、「朝起きた時」と、事務職で座っていることが多いため「椅子から立つ時」だと説明しました。

この時点での訴えを整理すると、①約20年前の外傷(ぎっくり腰)歴、②朝の起床時の痛み、③長時間座位からの立ち上がり動作での増悪、という3つの特徴が見えてきます。これらは、姿勢や動作といった機械的な要因が関わる、いわゆる非特異的腰痛(原因を一つの構造に特定できない腰痛)に、しばしば見られるパターンです。過去に一度腰を痛めた経験がある人は、その後も再発・慢性化しやすいことが知られており、座位中心の仕事もよく挙げられる関連要因のひとつです。

腰痛の多くは、画像検査をしても椎間板ヘルニアや圧迫骨折のような明確な構造的原因が特定できない「非特異的腰痛」に分類されます。20年という長い経過、朝や起立動作という決まったタイミングでの増悪、そして本人が「特定の痛みの出方はあまりない」と語る漠然とした鈍痛は、いずれもこの非特異的腰痛の典型像とよく合致します。こうした腰痛では、単一の構造や単一の臓器に原因を求めるより、姿勢・筋力・生活習慣・過去の外傷歴・心理社会的要因など、複数の要因が絡み合って痛みを維持しているという見方が一般的です。

手術歴や、現在治療中の内科的疾患について尋ねられると、男性は「特にはない」と答えました。しかし続けて、「最近、あのー肝臓の数値が、あまり良くないのは出ます」と申告します。施術者がお酒を飲むかどうかを尋ねると、「毎晩」、量は「缶ビール3本ぐらい」に「焼酎やらなんやら」が加わるとのことでした。

この所見は、腰痛の説明とは切り離して考える必要があります

毎晩の飲酒(缶ビール3本程度+焼酎など)と、健康診断等での肝機能の数値異常(AST・ALTなどの具体的な数値は動画内で示されていません)は、それ自体が医療機関での評価に値する所見です。脂肪肝やアルコール性肝障害などの可能性を含め、内科・消化器内科での相談が推奨されます。これは、今回の腰の施術結果とは独立した問題です。

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施術者が見立ての対象とした内臓の位置
肝臓 (右の肋骨の下) 横隔膜 大腰筋 仙骨 施術者が「冷えの見立て」の対象としたエリア ── 肝臓・横隔膜・大腰筋・仙骨 いずれも腹部の奥深くにあり、体表からの触診だけで内部の状態を直接測定することはできない。

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肝臓・横隔膜・大腰筋・仙骨。いずれも体表からの触診だけで内部の状態を直接測定できる部位ではない。

ここで一つ、見落とされがちな「もうひとつの経路」にも触れておきます。大腰筋は、腰椎から大腿骨の内側にかけて伸びる筋で、股関節を曲げる動きに関わると同時に、腰椎の側面を安定させる役割も担っています。長時間座った姿勢が続くと大腰筋は短縮位で固まりやすく、そこから急に立ち上がる動作では、腰椎への負荷が一時的に高まりやすいことが知られています。今回、施術者が腹部の大腰筋のあるエリアに手を当てて緩めるように働きかけたことは、「冷えを取る」という説明とは別に、大腰筋の緊張を介した機械的な経路からも、腰の症状に何らかの影響を与えた可能性があります。同じ手技でも、どの機序で説明するかによって、読み方が大きく変わることが分かります。

STEP 2

「冷えは腰に溜まる」── 施術者独自の見立てと、温度の自己触診

飲酒と肝機能の数値異常という情報を受けて、施術者はこう切り出します。「私、あの内臓なんですね、今回、ケース。腰痛。見てて実は思ってまして、あのなんで腰に痛みが出るのかって言ったら、お酒を飲んだ冷たい、いわゆる冷えですよね、冷えっていうものは全部腰に溜まると言われてます」。これは、施術者が臨床経験の中で組み立てた、独自の見立て・理論として理解する必要があります。「言われてます」という表現が使われていますが、これは特定の医学的な出典を示すものではなく、施術者の臨床コミュニティにおける経験則としての言い回しと読むのが妥当です。

この見立てを確かめる方法として、施術者は男性に、自分の手で2箇所に触れてもらいました。ひとつは胸部(心臓のあたり)、もうひとつは仙骨のあたりです。「ちょっと触って欲しいんですよ。例えばここの心臓ですよね、ここちょっとあの温もりをちょっと感じていただいて、それで仙骨らへんちょっと触っていただいた時の、なんかあったかさの差とか」と促され、男性は「全然、冷えてる感じというか。こんだけこっち高いんですけど」と、仙骨側が冷たく感じられることを申告しました。

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温度触診で比較した2点
本人が自分の手で比較した2点 ── 胸部(心臓のあたり)と仙骨 ① 胸部(心臓のあたり) 本人の申告:「高い(温かい)」 ② 仙骨のあたり 本人の申告:「冷えてる感じ」 注:温度計や画像検査ではなく、本人が自分の手で2点に触れて感じた主観的な「温かさの差」の申告。 室温・触れた手の温度・期待効果など、多くの要因が主観的な温度の感じ方に影響しうる。

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本人が自分の手で、胸部(心臓のあたり)と仙骨の「温かさの差」を確認した。温度計等による客観的測定ではない。

ここで確認しておきたいのは、この「温度の差」が、温度計やサーモグラフィーといった客観的な測定機器で確認されたものではなく、本人が自分の手で2点に触れて感じた主観的な申告だという点です。室温、触れる手や触れられる部位の血流状態、緊張、そして「冷えているはずだ」と促された状態で確認するという状況そのものが、体感に影響を与える可能性があります。この一連の流れは、施術者がすでに立てていた仮説を、本人自身の体感というかたちで「確認」させる、治療的診断のひとつの形と見ることができます。

「VISCERAL LINES(内臓筋膜ライン)」は、施術者・藤井翔悟が臨床経験の中で組み立てた独自の概念体系で、胃・腸・肝臓・腎臓・子宮といった内臓の状態が、離れた体表の痛みやこわばりと関連しているという見立てを軸にしています。当研究所の他の症例記事でも、肩甲骨まわりのこわばりを胃腸への治療的診断で扱った例や、月経随伴性の頭痛を子宮・腎臓・腸という「出す」機能を持つ臓器の共通性から読み解いた例を紹介してきました。今回の「飲酒による冷えが腰に溜まる」という説明も、この体系に連なる考え方のひとつと位置づけられます。いずれの回でも共通して言えるのは、これらは解剖学・生理学の教科書的な区分ではなく、施術者が臨床経験を通じて独自に組み立てた概念的な整理だという点です。

STEP 3

施術の内容 ── 胸骨の反射点を圧迫し、腹部を温める

施術そのものは、シンプルなものでした。施術者は「お腹が冷えてるんですね。うん。それ手であっためてあげてるだけなんですよ、実は」と述べたうえで、胸骨のあたりにある「反射する場所」とされる部位を圧迫します。あわせて、「腹部の中にある臓器は大腰筋とか横隔膜がメジャーなんで、ここを緩めながら、さっきやった反射する場所を刺激していきます」と説明し、腹部を保持しながら数分間施術を続けました。

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胸骨の反射点と、深部の横隔膜・肝臓
胸骨のツボ(反射点) 施術者が圧迫した位置 横隔膜 肝臓(深部) 胸骨の反射点を圧迫しながら、腹部の大腰筋・横隔膜を緩める 「反射する場所」という表現は施術者の臨床的な言葉であり、特定の神経反射経路が実証されたものではない。

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施術者が圧迫した胸骨付近の「反射点」と、その深部にある横隔膜・肝臓の位置関係。

ここで使われている「反射する場所」「反射」という言葉は、施術者の臨床的な言い回しであり、特定の神経反射経路や、胸骨への刺激が内臓の緊張を変化させるメカニズムが医学的に実証されているという意味ではありません。実際に行われていたのは、胸骨付近への持続的な圧迫と、腹部(大腰筋・横隔膜のあるエリア)を手で覆うように保持し、温める、という穏やかな接触でした。

解剖学的に整理すると、横隔膜は呼吸の主役となる筋で、そのドーム状の下面には肝臓・胃・脾臓が接し、後方には大腰筋が縦に走っています。呼吸のたびに横隔膜が上下すると、肝臓を含む腹部臓器全体もわずかに動きます。胸骨や腹部に手を当てて「呼吸を感じながら待つ」という接触は、こうした呼吸に伴う体表の動きを手がかりにする方法として理解できますが、これと「腰の冷えが取れる」という結果を直接つなぐ生理学的な経路は、現時点で確立されていません。手のひらで感じられるのは、あくまで体表の動きと温度であり、内臓そのものの機能状態を体表から直接測定しているわけではない、という点は誤解のないようにしておきたいところです。

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施術の流れ(約7分間)
施術の流れ ── 約7分間で行われたこと ①問診 飲酒歴・肝機能の数値異常を確認 ②温度の自己触診 胸部と仙骨の温かさを比較 ③反射点を圧迫 胸骨のツボとされる位置 ④腹部を保持 大腰筋・横隔膜を緩めながら温める ⑤起立・再評価 痛みと温かさの変化を確認 施術者が実際に触れたのは、胸骨付近と腹部(大腰筋・横隔膜のエリア)のみ。 腰・仙骨には直接施術しておらず、「腹部を温める」ことを主眼としている。 この記事では、動画内で確認できる範囲(事実)と、施術者の臨床的な解釈を分けて記録する。

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問診→温度の自己触診→反射点の圧迫→腹部の保持→起立・再評価という5ステップで進んだ。

STEP 4

施術後の変化 ── 本人の言葉と、そこに含まれる複数の要素

数分後、施術者は男性に起き上がってもらい、感覚を確かめてもらいました。「どんな感覚しますか?なんか腰の回りとか」という問いに、男性は「今これでも楽です」「あー、うん。この辺あったかいです」「腰も楽です」と答えます。施術者が「感覚的にはいい感じはありますか」と重ねて尋ねると、「うん。だいぶ。いつもより楽です」「重さが抜けてる」と申告しました。

その後のインタビューでは、施術前の痛みを10とした場合、施術後は「もう本当に3とか2とか、それぐらいまで」と本人は答えています。ただし本人自身、「体が、楽になったっていうより、ま、全体的にあったかくなったっていう、方が、大きいのかな」とも述べており、痛みの減少という報告と、温かさの体感という報告が、はっきりとは切り分けられずに語られている点にも注意が必要です。

男性は施術後のインタビューで、自分では座りっぱなしの仕事が原因だと思っていたが、「まさかあの内臓、まお酒の飲みすぎというか、内臓の方に原因があるっていうのが」分かって参考になった、と話しています。また、体を触られる前、写真と痛みの場所を伝えただけの段階で見立てを示されたことについて、「どういう風にそこ当たりをつけられたのかなっていうのはすごい不思議な感じがしました」とも述べています。この「不思議さ」は、本人にとって印象的な体験だったことを示していますが、見立ての医学的な正しさそのものを証明するものではありません。

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本人申告の痛みの変化と読み方の注意
本人申告の痛みの変化(施術前後・単回) 施術前 10(本人の基準・強い痛み) 施術直後 2〜3(本人申告・約7分後) この結果をどう読むか ・単回・約7分間の施術直後の変化のみで、翌日以降の持続性や再発は動画では確認できない。 ・視聴者参加型の公開デモ・インタビュー形式であり、対照群や盲検化はない。 ・慢性腰痛は、施術をしなくても症状の強さが日によって変動しうる(自然変動)。 ・「先生、ありがとうございました」と述べる場面が想定されるインタビュー環境では、  期待や社会的な配慮が申告に影響する可能性も否定できない。 ・肝臓の数値異常と毎晩の飲酒については、この施術結果とは独立に、  医療機関での評価が必要な所見である。 腰の痛みが軽くなったことは、肝機能の問題が解決したことを意味しない。

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施術直後、本人申告の痛みは10から2〜3へ減少したと報告された。ただし単回・非対照であり、肝機能の所見とは切り離して考える必要がある。

重要なのは、これが視聴者参加型の公開デモにおける、約7分間の施術直後の変化のみだという点です。翌日以降も痛みが軽い状態が続くのか、以前と同じように朝や立ち上がり時に痛みが戻るのかは、この動画では確認できません。対照群や盲検化のないインタビュー形式の単回デモであり、慢性腰痛が施術をしなくても日によって変動する自然な波、そしてインタビューという場での期待・社会的な配慮の影響も、完全には排除できません。

やさしい解説 ── 「あたたかくなった」と「治った」の違い

腰が痛いというと、多くの人はまず腰そのものや、腰を支える筋肉・骨に原因を探そうとします。この動画がおもしろいのは、施術者が最初に注目したのが腰ではなく、問診で出てきた「お酒」と「肝臓の数値」だったという点です。ここから「冷えが腰に溜まる」という独自の考え方を通じて、お腹をあたためるという、意外にもシンプルな施術に至ります。

施術後、男性は「あたたかい」「楽になった」とはっきり話しており、これはうそのない、その場の実感だったのだろうと思います。ただし、体があたたまって心地よく感じることと、20年来の腰痛の原因が解明されて治療されたということは、同じではありません。お腹を手であたためられれば、多くの人は多少なりともリラックスし、体の力が抜けます。それ自体は自然なことですが、そこから「だから内臓の冷えが腰痛の原因だった」と結論づけるのは、飛躍があります。

この記事を通じて伝えたいのは、「この施術は意味がない」ということではありません。触れられて安心する、あたたまってほっとする、という体験そのものには価値があります。ただ、それが「なぜ効いたように感じたのか」を、事実(何が行われたか)・本人の感想(どう感じたか)・施術者の解釈(なぜだと考えているか)・独自の理論(体系としての主張)に分けて考えると、動画をより冷静に、そして自分の体にも生かせる形で受け取ることができるはずです。

考察 ── 研究で言えること・言えないこと

この男性が語った痛みのパターン ── 20年前の外傷歴、朝の起床時の痛み、座位からの立ち上がりでの増悪、座位保持時の痛み ── は、姿勢・動作といった機械的な要因が関わる、いわゆる非特異的腰痛の訴え方として典型的なものです。過去の腰部外傷は再発・慢性化の危険因子として知られており、座位中心の職業も関連要因としてしばしば挙げられます。

施術者が示した「飲酒による内臓の冷えが腰に溜まる」という説明は、あくまで施術者自身の臨床経験に基づく独自の理論であり、解剖学・生理学の教科書に記載された確立した機序ではありません。医学的に知られている肝臓・胆道系の疾患による関連痛は、右上腹部や右肩甲骨下部への放散痛として現れることが多く、これは横隔神経を介した経路であり、本動画で語られた「仙骨への冷えの蓄積」という説明とは、経路も機序も異なります。

腹部への徒手的なアプローチ(内臓マニピュレーション)が痛みに与える影響そのものは、近年いくつかのランダム化比較試験で検証されています。

これらの研究は、腹部や内臓へのアプローチという領域に一定の研究の蓄積があることを示す一方で、いずれも構造化されたプロトコルと評価者の設定を伴っており、本動画で示された「胸部と仙骨の温度差を自己申告してもらい、胸骨の反射点を圧迫しながら保温する」という具体的な手順そのものを検証したものではありません。研究の存在を、目の前の手技の効果の証明であるかのように読むことは避ける必要があります。

単回のインタビュー形式のデモという状況そのものにも、目を向けておく必要があります。徒手療法の効果には、手技そのものの特異的な作用だけでなく、施術者との会話、丁寧に話を聞いてもらう体験、期待感、そして「カメラの前で感想を求められる」という状況そのものが影響する、いわゆる非特異的な効果(文脈効果)が含まれることが知られています。今回の男性は、施術前から配偶者を通じて藤井の動画に触れており、施術者への信頼や期待をある程度持った状態で参加していたと考えられます。こうした背景は、施術直後の主観的な報告をより好意的な方向に傾けうる要因のひとつです。

最後に、もっとも重要な点を改めて強調します。毎晩の飲酒と、自己申告された肝機能の数値異常は、腰痛の原因説明の一部としてではなく、それ自体が独立して医療機関での評価を要する所見です。今回、腹部を温める施術によって腰の痛みが一時的に軽くなったという報告は、肝機能の問題が解決したことも、今の飲酒量を続けてよいことも意味しません。この記事は、動画で語られた内容を丁寧に記録すると同時に、この一点だけは読者に誤解のないよう、はっきりお伝えします。

受診の目安

健康診断や血液検査で肝機能の数値異常(AST・ALTの上昇など)を指摘された場合、症状の有無にかかわらず、内科・消化器内科などの医療機関で原因の精査を受けることが推奨されます。腰や体の痛みが軽くなったとしても、それを理由に精査や飲酒量の見直しを先延ばしにしないでください。

まとめ

この症例からはっきり確認できる事実は、①20年前のぎっくり腰以来、動作関連の慢性腰痛が持続していたこと、②毎晩の飲酒習慣と肝機能の数値異常があったこと、③胸部と仙骨の温度差の自己触診と、胸骨付近の圧迫・腹部の保温という施術が約7分間行われたこと、④施術直後、本人が痛みの軽減と温かさの変化を申告したこと、の4点です。「冷えが腰に溜まる」という説明や、胸骨の「反射点」という概念は、施術者独自の臨床理論であり、この一例の中で医学的に実証されたわけではありません。

そして、この記事で最後まで強調したいのは、飲酒習慣と肝機能の数値異常という所見は、腰痛の物語の一部としてではなく、それ自体として受け止める必要があるということです。単回のデモで腰が楽になったという体験は、それはそれとして本人にとって価値のあるものだったのでしょう。しかし、その体験は肝臓の状態を評価したことにはなりません。もし同じように、飲酒習慣があり、健康診断で肝機能の数値を指摘されたことのある方がこの記事を読んでいるなら、まず医療機関での相談を優先していただきたいと思います。

本記事は、本人の同意を得て匿名化した一人の施術前後を記録するシングルケーススタディです。藤井式の評価と手技で生じた即時変化を、関連するRCT・系統的レビュー・基礎研究と照合して紹介しています。
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