室谷さん、今日は「事業承継・引継ぎ補助金」の専門家活用類型について聞きたいんですけど……そもそも、なんでこの制度が注目されてるんですか?
いい質問ですね!実は治療院や整骨院、鍼灸院みたいな個人向けサービス業でも、後継者がいなくて悩んでる院長先生がすごく多いんですよ。
えっ、そんなに多いんですか?
はい。長年地域で信頼を積み上げてきたのに、子どもは別の仕事に就いていて継ぐ気がない、弟子も独立志向で継承者にならない……というケースがざらにあります。廃業してしまうと、常連さんの通院先がなくなるだけじゃなく、スタッフの雇用も失われますよね。
なるほど……。じゃあ、そこで第三者への引継ぎ、つまりM&Aという選択肢が出てくるわけですね。
そのとおりです!ただM&Aって、仲介手数料やデューデリジェンス費用がそれなりにかかるので、二の足を踏む院長先生が多いんですよ。そこを国が補助してくれるのが、この事業承継・引継ぎ補助金〈専門家活用類型〉なんです。
逆に、M&Aで治療院を引き継いで独立開業したい人にとっても関係ある制度ってことですよね?
まさに!買い手側にも売り手側にも使える制度なので、今日は両方の立場から解説していきますね。
ちなみにこの制度、ちゃんと今も実施されてる制度ですよね……? 前に別の助成金で「調べたら数年前に廃止されてた」ってことがあって、正直ちょっとトラウマなんです(笑)。
その心配、よくわかります(笑)。実際に2026年7月29日時点で事業承継・M&A補助金の公式サイトを確認しましたが、廃止・終了の告知はなく、2026年6月19日から2026年7月24日まで15次公募が実施されたばかりです。むしろ2026年5月22日には新しい類型まで追加されているので、今もしっかり動いている制度と考えて大丈夫です。
よかった、それを聞いて安心しました! じゃあ遠慮なく詳しく聞いていきますね。
専門家活用類型ってどんな制度?
まず制度の全体像から教えてください。この補助金って、いくつかの枠があるんですよね?
はい。正式には「事業承継・M&A補助金」という名前で、中小企業庁の中小企業生産性革命推進事業のひとつです。その中に事業承継促進枠・専門家活用枠・PMI推進枠・廃業・再チャレンジ枠という4つの柱があって、私たちが今日扱うのは専門家活用枠になります。
専門家活用枠、っていうくらいだから、専門家に払うお金を補助してくれるってことですか?
そうです!M&Aによる第三者承継を行う中小企業者が、ファイナンシャルアドバイザー(FA)や仲介業者、デューデリジェンスの専門家に支払う費用の一部を補助してもらえます。
この専門家活用枠、さらに細かく分かれてるんですよね?
はい、3つの類型があります。買い手支援類型(Ⅰ型)と売り手支援類型(Ⅱ型)、それに加えて2026年5月22日に公募要領が公開された15次公募から新設された小規模売り手支援類型です。小規模事業者向けに、仲介手数料をより手厚く補助する新しい枠になります。
治療院の院長先生だと、どの類型に当てはまるんでしょう?
引退して事業を譲る側の院長先生なら「売り手支援類型」か、規模によっては「小規模売り手支援類型」。逆にM&Aで治療院を引き継いで開業したい方は「買い手支援類型」ですね。ちなみに小規模売り手支援類型は、専門家活用枠(売り手支援類型の補助上限額を800万円以内とする公募の枠)との同一公募回での併用申請はできない決まりになっています。
ほんとに? じゃあどっちが自分に合うか、事前にちゃんと見極めないとダメですね。
そうなんです!ここを間違えると申請そのものが受理されないので、次のセクションで補助額と補助率をしっかり見ていきましょう。
補助額・補助率はどのくらい?
ここが一番気になるところです!実際いくら補助してもらえるんですか?
15次公募(2026年5月に公表された公募要領)の内容でいうと、買い手支援類型・売り手支援類型は補助対象経費の3分の2以内、補助上限額600万円が基本ラインです。さらにデューデリジェンス費用として200万円以内、廃業費の併用申請として300万円以内が上乗せできるので、条件がそろえば合計で最大1,100万円まで届く設計になっています。
え、600万円だけじゃなくて、そこからさらに上乗せできるんですか?
できます!ただし売り手支援類型は補助率がちょっと複雑で、営業利益率が悪化している、もしくは直近決算が赤字といった要件のどちらかに当てはまれば3分の2、当てはまらなければ2分の1になります。
ざっくり言うと、経営が厳しい売り手ほど手厚く補助してもらえるってことですね。
その理解でだいたい合ってます(笑)。あと補助下限額は50万円で、これを下回る申請は受け付けてもらえません。
小規模売り手支援類型のほうはどうですか?
そちらは補助率2/3以内、補助上限額450万円以内、廃業費は150万円まで上乗せできるので、合計最大600万円くらいの設計です。補助下限額の定めはありません。小規模な整体院や個人経営の鍼灸院なら、こちらのほうが使いやすいケースが多いですね。
| 類型 | 補助率 | 補助下限額 | 補助上限額(基本) | 上乗せ(DD費用) | 上乗せ(廃業費) |
|---|---|---|---|---|---|
| 買い手支援類型(Ⅰ型) | 補助対象経費の2/3以内 | 50万円 | 600万円以内 | +200万円以内 | +300万円以内 |
| 売り手支援類型(Ⅱ型) | 補助対象経費の1/2または2/3以内(要件による) | 50万円 | 600万円以内 | +200万円以内 | +300万円以内 |
| 小規模売り手支援類型 | 補助対象経費の2/3以内 | 定めなし | 450万円以内 | ― | +150万円以内 |
なるほど、けっこう幅がありますね……。実際の金額感がまだピンとこないので、簡単な例で教えてもらえますか?
いいですね、シミュレーションしてみましょう。例えば、引退を考えている売り手の院長先生が、仲介業者に成功報酬300万円、デューデリジェンス費用100万円、あわせて400万円を支払うケースを考えてみます。
それだと、いくら補助されるんですか?
売り手支援類型で補助率2/3が適用される場合、400万円×2/3でざっくり266万円くらいが補助額になります。600万円の上限にはまだ余裕がある水準ですね。もし赤字決算などの要件に当てはまらず補助率1/2になった場合は、400万円×1/2で200万円になります。
同じ400万円でも、要件次第で60万円以上も差が出るんですね……!
そうなんです。だからこそ「自分が2/3の要件に当てはまるかどうか」を早めに顧問税理士や事務局に確認しておくのが大事なんですよ。買い手側で考えるなら、仲介費用500万円+DD費用150万円という例で考えると、仲介費用分は500万円×2/3で約333万円、DD費用は150万円×2/3で100万円、合計で約433万円が補助額の目安になります。
なるほど、DD費用は別枠で計算されるから、うまく使えばかなり手厚くなりますね。じゃあ、こういうお金はどんな用途に使えるのか、次に聞いてもいいですか?
対象者・対象経費・対象外経費
まず対象になる事業者の条件から教えてください。
業種によって基準が変わります。治療院・整骨院・鍼灸院・整体院は「サービス業」に区分されることが多くて、資本金5,000万円以下または常時使用する従業員100人以下の会社・個人事業主が中小企業者等に該当します。
| 業種区分 | 資本金・出資額 | 常時使用する従業員の数 |
|---|---|---|
| 製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業(治療院・整骨院・鍼灸院・整体院の多くはここ) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
あ、うちみたいな個人経営の院ならほぼ確実にクリアできそうな基準ですね。資本金か従業員数、どちらか一方を満たせばいいんですか?
そうです、どちらか一方に該当すればOKです。ほとんどの個人経営・小規模法人の治療院さんは軽くクリアできるラインだと思います。
個人事業でやってる院長先生も対象なんですか?
対象です!ただし気をつけたいのは、法人の場合は申請時点で設立登記と3期分の決算・申告が完了していること、個人事業主の場合は開業届と青色申告承認申請書を出してから5年経過していることが条件になっている点です。開業して間もない場合は対象外になるので注意してくださいね。
あと、NPO法人とかは対象外なんでしたっけ?
そうですね、NPO法人は対象外です。それから発行済株式の過半数を大企業に握られている「みなし大企業」も対象外になります。
グループ内再編・親族内承継は対象外
この補助金は、あくまで第三者へのM&Aによる経営資源の引継ぎを支援する制度です。グループ内の企業再編や、資本関係のある親族間だけでの株式売買のような、実質的な事業再編・事業統合を伴わない取引は対象外と判断されます。売り手・買い手が実質的に同一グループとみなされないか、事前に事務局へ確認しておきましょう。
対象経費のほうはどうですか?何にお金を使えるんですか?
謝金、旅費、外注費、委託費(FA・仲介費用)、システム利用料、保険料(表明保証保険)、そして廃業費として廃業支援費・在庫廃棄費・解体費・原状回復費・リース解約費・土壌汚染調査費・移転移設費用が対象になります。
逆に対象外の費用ってありますか?
あります。振込手数料や為替差損、補助金の実績報告書作成費用、確定検査を受けるための費用は対象外です。あと商品在庫を売却して対価を得る場合の処分費も対象になりません。
| 対象経費 | 対象外経費 |
|---|---|
| 謝金・旅費・外注費 | 振込手数料・為替差損等 |
| 委託費(FA・M&A仲介費用) | 実績報告書作成費用・確定検査費用 |
| システム利用料(マッチングサイト等) | 商品在庫を売却して対価を得る場合の処分費 |
| 保険料(表明保証保険) | ファイナンスリース解約に伴う違約金 |
| 廃業費(廃業支援費・在庫廃棄費・解体費・原状回復費等) | グループ内再編に伴う専門家費用 |
FA・仲介費用は登録M&A支援機関の利用が必須
委託費のうちFA業務や仲介業務にかかる相談料・着手金・中間報酬・成功報酬は、「M&A支援機関登録制度」に登録されたFA・仲介業者が支援したものに限って補助対象になります。登録の有無は交付決定時に確認されるので、専門家に依頼する前に登録状況を必ずチェックしてくださいね。
費用の中身はわかりました!じゃあ実際どうやって申請すればいいのか、手順を教えてください。
申請の流れ
申請ってやっぱり複雑なんでしょうか……。
順番さえ押さえておけば大丈夫です!大きく公募申請と交付申請の2段階に分かれています。
- GビズIDプライムアカウントを取得する
- 電子申請システム「Jグランツ」を使うには、GビズIDプライムアカウントが必須です。取得には1〜2週間、混雑時は3週間ほどかかることがあるので、公募が始まる前に取得しておくと安心です。
- 公募要領を確認し、必要書類を準備する
- 買い手支援類型・売り手支援類型・小規模売り手支援類型のどれに該当するかを見極めたうえで、事業計画書や決算書など必要書類を揃えます。
- Jグランツから公募申請を行う
- 15次公募では2026年6月19日から2026年7月24日17時までが申請受付期間でした。締切日時を過ぎての申請は一切受け付けてもらえません。
- 書面審査・採択発表を待つ
- 資格要件審査と書面審査が行われ、採択者が発表されます。採択は交付申請を行う権利が保障されるだけで、交付決定とは別物です。
- 交付申請を行い、交付決定通知を受ける
- 採択後にあらためて交付申請を行い、交付決定通知書を受け取ってから、はじめて専門家との委託契約を締結できます。
- 補助事業を実施し、実績報告を提出する
- 補助事業期間内にM&Aのクロージング(最終契約書に基づく株式・事業の引渡しと決済の完了)まで進め、完了後に実績報告書と証憑を提出します。
交付決定の前に専門家と契約しちゃダメなんですね!
そうなんです、そこはよく間違えられるポイントです。交付決定通知書を受け取る前に着手すると、補助対象外になってしまいます。
マジですか、それは怖い……。じゃあ、審査で通りやすくするコツってあるんですか?
審査のポイント・攻略法
審査ではどういうところを見られるんですか?
買い手支援類型なら、経営資源引継ぎの計画が補助事業期間内にきちんと進むものか、財務内容が健全か、買収の目的や必要性、地域経済への効果、買収後の成長見込みが着眼点になります。売り手支援類型なら、譲渡の目的・必要性と地域経済への効果が中心です。
| 加点事由 | 内容の目安 |
|---|---|
| 経営力向上計画・経営革新計画・先端設備等導入計画 | 公募申請時に有効な認定・承認を受けていること |
| 地域未来牽引企業 | 公募申請時点で選定されていること |
| 小規模事業者等の定義への該当 | 「5.補助対象者」に記載の小規模事業者の基準を満たすこと |
| 事業継続力強化計画(連携含む) | 公募申請時点で認定を受けていること |
| くるみん認定・えるぼし認定等 | ワーク・ライフ・バランス推進の取り組み実績 |
| 健康経営優良法人 | 公募申請時点で認定を受けていること |
| 賃上げの表明(2%以上) | 事業化状況報告時点での賃上げ実施を公募申請時に表明 |
加点事由を積極的に使う
院長先生が個人でこうした認定を取得していなくても、経営力向上計画のように比較的短期間で取得できる認定もあります。公募申請の前に、上の表の中で取れそうなものがないか一度洗い出しておくと審査で有利に働きます。特に「小規模事業者等の定義への該当」は、多くの個人経営の治療院がそのまま満たせる項目なので、忘れずにチェックしておきましょう。
買い手支援類型で気をつけることってありますか?
買い手支援類型ではデューデリジェンス(DD)の実施が必須です。補助対象経費にDD費用を計上するかどうかは別として、DDそのものは必ず実施する必要があります。
相見積りは2者以上が原則
補助対象経費は、原則として2者以上の専門家・業者から相見積りを取得し、そのうち最低価格を提示した先を選ぶのが原則です。1件50万円未満の場合でも相見積りが必要になるケースがあるので、専門家を1社だけで決めてしまわないように気をつけましょう。相見積りが取れていないと、実績報告の段階で補助対象経費として認められないことがあります。
なるほど、事前準備がかなり大事なんですね。じゃあ、この制度の基本情報を最後にもう一度まとめてもらえますか?
制度の基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 事業承継・M&A補助金〈専門家活用枠〉 |
| 実施機関 | 中小企業庁(事務局は事業承継・M&A補助金事務局) |
| 直近の公募回 | 15次公募 |
| 公募要領公開日 | 2026年5月22日 |
| 申請受付期間(15次公募) | 2026年6月19日から2026年7月24日17時まで |
| 補助上限額(買い手・売り手支援類型) | 600万円以内(DD費用200万円・廃業費300万円を上乗せ可) |
| 補助上限額(小規模売り手支援類型) | 450万円以内(廃業費150万円を上乗せ可) |
| 補助率 | 買い手支援類型2/3以内、売り手支援類型1/2または2/3以内、小規模売り手支援類型2/3以内 |
| 対象地域 | 全国 |
| 公式サイト | https://shoukei-mahojokin.go.jp/r7h/15-experts_download/ |
次回公募のスケジュールは公式サイトで必ず確認を
この記事を書いている2026年7月29日の時点で、15次公募の申請受付はすでに2026年7月24日17時に締め切られています。次の16次公募については、募集時期・補助上限額・補助率が変更される可能性があるため、日程はまだ公表されていません。申請を検討する際は、必ず事業承継・M&A補助金の公式サイト(shoukei-mahojokin.go.jp)で最新の公募要領を確認してください。
締切がもう過ぎちゃってるんですね……。次の公募を待つしかないんですか?
焦らなくて大丈夫です!事業承継・引継ぎ補助金は毎年度、複数回にわたって公募が行われている制度なので、次の公募に向けて準備を進めておくのがおすすめです。専門家探しや必要書類の準備は公募が始まる前からできますからね。
ちなみに、この補助金と合わせて使える制度ってあるんですか?
他の制度と組み合わせるなら
M&Aで治療院を引き継いで独立開業する買い手の方の場合、開業初期の設備投資や販促費に使える小規模事業者持続化補助金〈創業枠〉も選択肢になります。こちらは補助上限250万円で、開業してからの販路開拓費用に充てられる制度なので、専門家活用類型でM&A自体の費用をカバーしつつ、開業後の運転資金づくりに持続化補助金〈創業枠〉を検討するという組み合わせが考えられます。
なるほど、M&Aの費用と開業後の費用、両方カバーできる可能性があるんですね!
そうなんです。ただし同一の経費に両方の補助金を重複して使うことはできないので、経費の切り分けはしっかり事務局に確認してくださいね。
わかりました!じゃあ最後に、よくある質問をいくつか聞かせてください。
よくある質問
候補先がまだ決まっていないんですけど、それでも申請できますか?
できます!公募申請時点で候補先や具体的なM&Aの形態が決まっていなくても、申請自体は可能とされています。
交付決定前に専門家と契約を結んじゃったらどうなるんですか?
それはNGです。交付決定通知書を受理する前の契約・発注にかかった費用は、補助対象として認められません。
国の他の補助金と併用ってできるんですか?
同一事業・同一テーマで国(独立行政法人を含む)の他の補助金や助成金を受けている、または受けることが決まっている場合は、この補助金を利用できません。公募申請の対象外にもなるので注意してください。
認定経営革新等支援機関の確認書って必要なんでしたっけ?
専門家活用枠については、事業計画に関する認定経営革新等支援機関の確認書は不要です。この点は事業承継促進枠と違うところなので、混同しないようにしてくださいね。
開業してまだ3年くらいの個人事業主なんですけど、この補助金は使えますか?
残念ながら、現時点では対象外になる可能性が高いです。個人事業主の場合は、開業届と所得税の青色申告承認申請書を税務署に提出した日から5年経過していることが条件になっているので、開業3年目だとまだ要件を満たしません。5年経過後の公募回で改めて検討してみてください。
小規模な整体院なんですけど、小規模売り手支援類型を使うメリットって何ですか?
補助率が2/3で統一されていて、営業利益率などの追加要件を満たさなくても2/3が適用される点が大きなメリットです。売り手支援類型(Ⅱ型)だと要件を満たさない場合は1/2に下がってしまいますが、小規模売り手支援類型ならその心配がありません。ただし補助上限額は450万円と、通常の売り手支援類型(600万円)より低めに設定されているので、想定される仲介費用の規模に応じてどちらが得か比較してみるのがおすすめです。
ほんとに助かりました!すごくよくわかりました。
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