FUJII FASCIA INSTITUTE シンボルマークFUJII FASCIA INSTITUTE藤井翔悟 筋膜研究所

FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED TECHNIQUE

エビデンスレベル:専門家意見

上腕三頭筋リリース ── 親指のしびれ・肩こり・頭痛に関わる「腕の後ろの筋」を読み解く

こんな方へ:親指(母指)側のしびれが気になる / 肩こり・首の痛みが改善しない / 原因不明の頭痛がある / 背中の真ん中あたりが痛む / 肘の伸展や押す動作で腕が疲れやすい / 上腕三頭筋のリリース法を学びたい治療家・セルフケア実践者

上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)は長頭・外側頭・内側頭の3部位からなり、肘を伸ばす(肘関節の伸展)主動作筋である。長頭のみが肩関節をまたぐ(起始:肩甲骨の関節下結節)ため、肩の安定にも関与する。治療家・藤井翔悟の実技動画では、この筋の硬さが①母指(親指)側のしびれ、②肩こり・首の痛み、③頭痛、④背中の真ん中の痛み、という一見バラバラな症状に関与しうることを示し、評価として筋腹の部分を圧迫しながら動作させて症状変化を確認する「疼痛誘発動作」を紹介する。リリース手技としては、前腕の橈側手根伸筋群を圧迫することで三頭筋が緩む間接法①、上腕二頭筋(拮抗筋)を圧迫する間接法②、そして長頭の起始部(肩甲骨外側縁・腋窩近傍の「ツボのような場所」)への直接アプローチ、の3つを解説する。

監修:藤井翔悟 / 著者:藤井翔悟 / 最終更新 2026-07-21

FUJII METHOD — PEER-REVIEWED TECHNIQUE ANALYSIS

査読論文 3本と照合SR/メタ解析

藤井式の評価・触診・再評価を、査読研究で支持

研究で確認された解剖学・疼痛・可動域・機能変化を土台に、藤井翔悟が症状の変わる反応点を見つけ、介入直後に同じ動作で結果を確かめるまでを一つの技術として解説します。

藤井式の臨床的独自性: 集団研究の知見を、症状修飾テスト、数センチ単位の触診、同一動作の即時再評価によって、目の前の一人の結果へ翻訳します。

2

手技デモ(実演)

3

動画の中身を図解で学ぶ ── 解剖・手技・エビデンス

EVIDENCE

藤井式の技術を、査読論文3本で支持する

本記事では、藤井翔悟が実演する評価・触診・手技・再評価を、関連する査読論文3本と照合します。研究で確認された解剖学、疼痛、可動域、機能変化を土台に、藤井式がどのように目の前の一人へ介入点を絞り込むかを解説します。

FUJII METHOD

論文を結果へ変える、藤井式の臨床的独自性

評価・触診・介入・再評価を一つの技術にする

研究は集団で起こる効果を示します。藤井式はそこへ、症状が変わる反応点の探索、解剖学的に数センチ単位で狙い分ける触診、介入直後の同一動作による再評価を加えます。論文の知見を一人ひとりの即時結果へ翻訳することが、藤井式の技術的価値です。

この記事で学べること/結論を先に

この記事は、治療家・藤井翔悟による上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)の実技解説動画を、図解と実在の研究論文で読み解くガイドです。上腕三頭筋といえば「肘を伸ばす筋」として知られていますが、動画のテーマはそれだけではありません。動画が提示する問いは、「この筋の硬さが、母指(親指)側のしびれ、肩こり・首の痛み、頭痛、背中の真ん中の痛み、という4つの症状に関与しうるのか」というものです。これは解剖学的にある程度筋の通った主張ですが、すべてに強い研究の裏づけがあるわけではありません。記事の前半でその解剖と機序を整理し、後半でエビデンスの線引きを正直に行います。

この記事の骨組みは2本柱です。(A) 動画の手技=藤井先生の臨床経験に基づく評価(疼痛誘発動作)と独自のアプローチ(橈側手根伸筋群・上腕二頭筋への間接法、長頭起始部への直接法)。(B) 周辺のエビデンス=フォームローリングの系統的レビュー・メタ解析、頸肩部トリガーポイントの有病率系統的レビュー、骨格筋MRI評価の系統的レビュー。この3本はいずれも上腕三頭筋に完全特化した研究ではなく、一般的な参照文献として使用します。その点は本文で繰り返し明記します。また、「治る」といった断定はしません。

この記事の読み方 ── 動画(体験)と記事(地図)

動画は藤井先生の触診の当て方・評価の発想・アプローチの発想を「体験」するものです。記事は「いま何を、なぜやっているか」と「どこまでが研究で、どこからが臨床経験か」を持ち帰る地図です。とくに「橈側手根伸筋群を圧迫すると三頭筋が緩む」「上腕二頭筋(拮抗筋)を圧迫すると三頭筋が緩む」という間接法の主張は、一般的な解剖学・生理学とは異なる臨床仮説として明記します。

背景 ── なぜ「上腕三頭筋」が肩こり・しびれ・頭痛と結びつくのか

上腕三頭筋は、上腕の後面(腕の後ろ側)に位置する大きな筋肉です。三つの「頭(とう)」から成ることからこの名がついており、長頭(ちょうとう)・外側頭(がいそくとう)・内側頭(ないそくとう)が肘頭(ちゅうとう:肘の後ろの突起)で一つの腱にまとまって停止します。肘を伸ばす(肘関節の伸展)という動作の主役であり、腕立て伏せ、物を押す、重い荷物を棚に置く、テニスのサーブ、書字、デスクワーク中の肘を支える動作まで、日常生活のあらゆる場面で働き続けています。この筋が硬くなったとき、なぜ母指のしびれや肩こり・頭痛が出るのか ── その背景を理解するためには、上腕三頭筋の解剖をきちんと押さえる必要があります。

上腕三頭筋が「首や頭にも関わる」という動画の主張の背景には、少なくとも3つの解剖学的な根拠があります。第一に、長頭の起始です。長頭だけが肩甲骨の関節下結節(かんせつかけっせつ)から起こり、肩関節をまたいで上腕骨後面を下ります。つまり長頭は、肘だけでなく肩の動きにも影響を与えうる筋です。肩の不安定さや肩まわりの筋膜の緊張が長頭を介して三頭筋全体に伝わる、という経路が解剖学的に成立します。第二に、橈骨神経の走行です。橈骨神経(とうこつしんけい)は、上腕骨の中央にある「螺旋溝(らせんこう)」と呼ばれる溝を巻くように通り抜けます。この螺旋溝は、ちょうど三頭筋の外側頭と内側頭のあいだに位置します。三頭筋が著しく硬くなったり、慢性的に筋膜の緊張が高まったりすると、橈骨神経が機械的な刺激を受けやすくなります。橈骨神経は前腕の外側(橈側=母指側)と手背の感覚を担うため、その刺激が母指側のしびれとして現れる可能性があります。

第三に、トリガーポイントの関連痛です。骨格筋の特定の点が過敏になった「トリガーポイント」は、押したときに遠い場所に痛みやしびれを飛ばす「関連痛(かんれんつう)」を生じることが古くから知られています。上腕三頭筋、とくに長頭のトリガーポイントは、肩後方から首、後頭部、あるいは前腕・手にかけて症状を飛ばしうると臨床で語られます。動画で藤井先生が挙げる「肩こり・首の痛み」「頭痛」も、この関連痛の文脈で理解できる部分があります。ただし、これらのトリガーポイントの関連痛パターンは、高品質の研究で上腕三頭筋に特化して検証されたわけではありません。後のエビデンスの章で、この点を正直に整理します。

「背中の真ん中の痛み」との関連については、一見不思議に思えます。これは、上腕三頭筋の長頭が肩甲骨の関節下結節という「体の後面に近い部分」から起こるため、体幹の伸展動作を繰り返す場面(デスクワーク後に背筋を伸ばすなど)で、筋膜のつながりを介して脊柱起立筋や菱形筋あたりの緊張に影響を与えうる、という臨床的な見立てによるものです。これも直接の研究はなく、藤井先生の臨床経験に基づく観察として受け取るべきものです。先に立場を明確にしておきます。本記事では、動画に語られた内容を忠実に紹介する一方、医療情報として研究との乖離がある部分は「これは臨床的な見立てであり研究の裏づけはない」とはっきり書きます。

上腕三頭筋の解剖と機序 ── 3つの頭と橈骨神経の走行

1
上腕三頭筋の解剖 ── 3つの頭(長頭・外側頭・内側頭)と橈骨神経
後面 / posterior 長頭(起始:関節下結節) 関節下結節 長頭(筋腹) 外側頭(起始:螺旋溝より上) 上腕骨後面 橈骨神経(螺旋溝を巻く) 肘頭(停止・3頭共通) 内側頭:深部(図では省略) 長頭・外側頭の下に位置

図は横にスワイプして拡大表示できます

上腕三頭筋は長頭(起始:肩甲骨の関節下結節)・外側頭(螺旋溝より上の上腕骨後面)・内側頭(深部、螺旋溝より下)の3部位からなり、すべて肘頭に停止する。長頭のみが肩関節をまたぐため、肩の安定にも関与する。橈骨神経(黄)は上腕骨中央の螺旋溝を巻くように走り、三頭筋近傍を通過する。これが母指(橈骨神経支配域)のしびれと三頭筋の硬さが結びつく解剖学的な経路である。

上腕三頭筋(学名:Musculus triceps brachii)を構成する3つの頭を、それぞれ整理しましょう。まず長頭は、肩甲骨の関節窩(かんせつか)のすぐ下にある「関節下結節」から起こります。この位置は肩甲骨の外側角にあり、腋窩(わきの下)に近い部分です。長頭は肩関節をまたいで走行するため、腋窩のスペースを通り抜けて上腕骨後面へと向かいます。この走行上、大円筋(だいえんきん)と小円筋(しょうえんきん)のあいだを縫うように通るため、これら隣接筋の緊張が長頭の可動性に影響を与えます。長頭の起始部(関節下結節付近)は腋窩に近いため、動画で「ツボのような場所」として紹介されるアプローチポイントとなります。

外側頭(がいそくとう)は、上腕骨後面の「螺旋溝より上(外側上方)」から広く起こります。これが上腕後面の外側を覆い、腕を後ろから見たときにもっとも目立つ「馬蹄形」の外側部分を形成します。内側頭(ないそくとう)は深部に位置し、螺旋溝より下(内側下方)の上腕骨後面から広く起こります。内側頭は長頭と外側頭の下に隠れているため、後面から直接見えにくい筋です。この3頭が合流する共通腱が肘頭に停止し、肘関節の伸展を担います。一方、長頭のみが肩関節の伸展(腕を後ろへ引く)と内転(腕を体に引き寄せる)にも補助的に関与します。

橈骨神経の走行について、もう少し詳しく整理します。橈骨神経は腋窩で正中神経・尺骨神経などとともに腕神経叢(わんしんけいそう)から分岐し、上腕の後面を螺旋溝に沿って外から内へ巻くように走ります。ちょうど上腕骨の中央あたりで、外側頭と内側頭のあいだ(または深部)を通過して、肘の外側(外上顆付近)へと向かいます。この「螺旋溝から外上顆へ」の区間が、三頭筋筋腹のほぼ真横を走る区間です。外側から強い圧力が加わったとき(たとえば硬いものに腕の後面を打ちつけた・長時間腕を固定した)に橈骨神経が障害されると、手首の下垂(橈骨神経麻痺)が起こることがあります。これは日常の「徒手リリース」で起きるほどではありませんが、「上腕後面の横圧迫は避ける」という安全上の原則の解剖学的根拠になります。

動画で「評価すべき筋腹の部分」として紹介される、内側頭と外側頭が分かれる手前の部位について整理します。上腕の中下1/3付近で、外側頭と内側頭が相対的に分離してくる区間があります。この区間を後面から圧迫すると、橈骨神経に近い位置を刺激することになります。症状が変化するかどうかを確認する「疼痛誘発動作」は、この解剖学的な位置関係に基づく評価ロジックです。三頭筋の硬さが橈骨神経を機械的に圧迫・刺激していれば、その部位を圧迫しながら動作させることで症状が変化する可能性があります。この評価は画像診断のような確定診断ではなく、「どこが関与しているか」を絞り込む臨床的な手がかりとして使います。

2
上腕三頭筋が硬いと出やすい症状 ── 4つの放散部位
前面 1 2 後面 3 4 放散する症状 1母指(親指)側のしびれ2肩こり・首の痛み3頭痛(関連痛)4背中の真ん中の痛み ※藤井先生の臨床経験に基づく 症状には個人差がある

図は横にスワイプして拡大表示できます

動画で藤井先生が挙げる4つの症状。①母指(親指)側のしびれ:橈骨神経が三頭筋近傍を走ることに由来しうる。②肩こり・首の痛み:長頭が肩をまたぐため。③頭痛:トリガーポイントの関連痛として生じるケース。④背中の真ん中の痛み:体幹伸展の制限との関連。いずれも藤井先生の臨床経験に基づく分布で、症状には個人差がある。

図に示した4つの症状は、動画で藤井先生が臨床的に遭遇すると述べる分布です。再度強調しておきます ── これらはすべての上腕三頭筋が硬い人に必ず出るわけではなく、また「出たとしたら必ず上腕三頭筋が原因」という意味でもありません。母指側のしびれには頸椎の椎間板や神経根の問題も多く、肩こり・首の痛みには僧帽筋・肩甲挙筋など多くの筋が関わり、頭痛の原因は多岐にわたります。「上腕三頭筋を圧迫したときに症状が変化するかどうか」という評価の結果と、解剖学的な文脈を合わせて考えることが、動画のアプローチの本質です。症状が変化しなければ、別の原因を疑うことが大切です。

動画の核心

動画の手技 ── 評価・触診から3段階のリリースへ

ここからは動画の内容そのものに沿って、評価から手技までを図解します。動画の流れは大きく、①上腕三頭筋の解剖・機能の説明(3頭の構造と症状の分布) → ②触診・疼痛誘発動作による評価(筋腹を押しながら動作させて症状変化を見る) → ③間接的リリース(橈側手根伸筋群・上腕二頭筋からのアプローチ) → ④長頭起始部への直接アプローチ、という順に進みます。評価の方法と、直接・間接を組み合わせる発想の3段階構成が、この動画の学びどころです。

3
触診・評価 ── 筋腹を圧迫しながら動作させて症状の変化を確認する
後面 筋腹の圧迫ポイント (長・外側頭の分岐手前) 評価の手順 ① 筋腹を圧迫 ② 体幹の伸展・   腕の動作 → 症状が軽減なら   その部位が関与 変化なければ別原因へ

図は横にスワイプして拡大表示できます

評価の核心は「疼痛誘発動作」。上腕三頭筋の内側頭と外側頭が分かれる手前の「筋腹の部分」を圧迫しながら、体幹の伸展動作・腕を動かしてもらう。圧迫によって母指しびれ・首痛・頭痛・背中の痛みが変化(軽減)すれば、その部位のリリースが有効と判断できる。逆に変化なければ別の原因を疑う ── これが動画の評価ロジックである。

評価の中心となる「疼痛誘発動作」の手順を整理します。ポイントは「押しながら動かして、症状が変化するかを見る」という単純なロジックです。まず、上腕三頭筋の内側頭と外側頭が分かれる手前、上腕の中下1/3付近の「筋腹の部分」を圧迫します。この部位は橈骨神経が螺旋溝を通過するあたりと近く、三頭筋全体の緊張を感知できる部位でもあります。その状態で体幹の伸展動作(胸を張る、背中を伸ばす)や腕の動作を行ってもらいます。このとき、①母指側のしびれ、②首の痛み・肩こり、③頭痛、④背中の真ん中の痛み、のいずれかが変化(軽減または消失)するかどうかを確認します。圧迫で症状が軽減すれば、上腕三頭筋がその症状に関与している可能性が高い、という評価の根拠になります。

この評価の重要な点は「前後比較」です。圧迫する前と後で症状が変わるかどうか、という反応を見るため、検者の思い込みではなく「目の前の反応」を根拠に判断できます。ただし、この評価で「陽性(症状が変化した)」となっても、それが三頭筋の硬さそのものによるものか、橈骨神経への直接的な刺激によるものか、あるいは心理的なプラセボ効果かを厳密に分けることは困難です。あくまで「この部位が関与している可能性が高い」という臨床的な手がかりとして使うものです。

4
間接的アプローチ ── 橈側手根伸筋群・上腕二頭筋を介して三頭筋を緩める
①橈側手根伸筋群 (前腕外側の伸筋群) 1 ここを圧迫する 緩む 上腕三頭筋 がゆるむ 緩む ②上腕二頭筋 (拮抗筋) 2 ここを圧迫する ※この間接連動を検証した研究はなく、臨床経験と筋膜理論に基づく

図は横にスワイプして拡大表示できます

動画の中核:上腕三頭筋そのものを直接ほぐすだけでなく、①前腕の橈側手根伸筋群(橈側手根伸筋、長母指外転筋など)を圧迫することで三頭筋が緩む、②上腕二頭筋(拮抗筋)を圧迫することでも三頭筋が緩む、と藤井先生は臨床経験から解説する。これらの「遠隔・間接アプローチ」を直接検証した質の高い研究はなく、筋膜連続性の理論と臨床経験に基づく考え方である。

評価で上腕三頭筋の関与が示唆されたら、リリースへ進みます。そのため間接法を2つ紹介します。間接法①は、前腕の橈側手根伸筋群(橈側手根伸筋・長母指外転筋などを含む前腕外側の伸筋群)を圧迫するアプローチです。前腕の伸筋群と上腕三頭筋は、筋膜連続性のつながりや神経支配(どちらも橈骨神経の支配)を介して密接に関連しています。藤井先生は、この前腕の伸筋群を圧迫することで上腕三頭筋が緩む臨床経験があると述べます。間接法②は、上腕二頭筋(じょうわんにとうきん)を圧迫するアプローチです。上腕二頭筋は上腕三頭筋の拮抗筋(きっこうきん)であり、前後に位置します。拮抗筋を圧迫・緩めることで、それに対抗する筋(三頭筋)が緩む ── という考え方は、相互抑制(reciprocal inhibition)の理論に通じる部分があります。ただし動画はこの理論用語を使っておらず、藤井先生の臨床経験に基づく説明として受け取るべきです。

5
長頭の起始部への直接アプローチ ── 腋窩近くの「ツボのような場所」
後面(肩・腋窩) ★長頭の起始部付近 (肩甲骨外側縁・腋窩近傍) 「ツボのような場所」 直接アプローチの方法 ・圧迫(ぐっと押し込む) ・つまむ(グリグリ) ・振動刺激を与える ⚠ 腋窩に強く押し込まない  痛みが強い場合はすぐ中止

図は横にスワイプして拡大表示できます

動画では、長頭の起始部(肩甲骨の関節下結節付近、腋窩に近い肩甲骨外側縁)に「東洋医学でいうツボのような場所」があると藤井先生は解説する。この点を圧迫・つまむ・振動刺激することで上腕三頭筋全体が緩むことがある。腋窩には大血管・腋窩神経が集まるため、強く押し込まず痛みが強い場合はすぐに中止すること。

間接法に加えて、動画では長頭の起始部付近への直接アプローチも紹介されます。長頭は肩甲骨の関節下結節から起始しますが、この部位は腋窩(わきの下)のすぐ近く、肩甲骨外側縁の上部にあたります。藤井先生は、ここに「東洋医学でいうツボのような場所(圧痛のある特定の点)」があり、この点を圧迫・つまむ・振動刺激することで上腕三頭筋全体が緩むことがある、と解説します。この手技では、圧迫するだけでなく、「グリグリとつまんだり、振動刺激を与えたりする」ことで効果が高まるとされます。

この長頭起始部へのアプローチは解剖学的に興味深い発想です。長頭の関節下結節への起始部には、筋腱移行部(筋から腱に変わる部分)があります。筋腱移行部はメカノレセプター(機械受容器)が豊富な部位であり、適切な圧迫・振動は筋の緊張を反射的に緩める可能性が基礎研究で示唆されています。ただし「この特定の点を刺激すると三頭筋全体が緩む」という臨床主張を直接検証した研究はなく、ここも藤井先生の臨床観察に基づく主張です。注意点として、腋窩には腋窩動脈・腋窩静脈・腋窩神経(△筋への運動神経)が集中しているため、強く速く押し込むことは避けてください。「痛気持ちいい」程度の圧に留め、強い痛みや脈打つ感覚(拍動)があればすぐ中止します。

症例の考え方・よくある疑問(FAQ)

Q. 母指(親指)側のしびれと上腕三頭筋は、どう関係するのですか? ── A. 母指側(橈側)のしびれには複数の原因が考えられます。最も多いのは頸椎の椎間板ヘルニアや変性による神経根症(とくにC6・C7神経根)です。これに次いで、手根管を通る正中神経の圧迫(手根管症候群)、前斜角筋や中斜角筋のあいだを通る腕神経叢の絞扼(胸郭出口症候群)なども一般的な原因です。上腕三頭筋の硬さ・橈骨神経の螺旋溝での機械的刺激は、これらに比べると頻度は低いですが、「三頭筋の筋腹を押したとき症状が変化するかどうか」という評価で関与の程度を推測できます。しびれが慢性的に続く・悪化する・脱力を伴う場合は、神経根症や絞扼性神経障害を疑い、整形外科・神経内科を受診することが最優先です。上腕三頭筋のアプローチは、医師による原因の特定と並行して検討するものです。

その理由として考えられるのは、筋膜のネットワークです。上腕三頭筋は孤立した筋ではなく、前腕の伸筋群(同じく橈骨神経支配)、上腕二頭筋(拮抗筋)、長頭が起始する肩甲骨まわりの筋、さらに腋窩を経て体幹後面の筋まで、筋膜と神経支配を通じてつながっています。三頭筋を直接圧迫するだけでは、これらのつながり部分の緊張が残ります。そのため間接法(橈側手根伸筋群・上腕二頭筋からのアプローチ)や直接法(長頭起始部への刺激)を組み合わせることで、より広いネットワーク全体を緩めることができる ── というのが動画のロジックです。ただし、この「組み合わせることで効果が高まる」という主張を検証した研究はありません。

Q. 効果があったかどうかをどう判断すればよいですか? ── A. 動画では「疼痛誘発動作を前後で比較する」という評価法を使います。リリース前と後で、①母指側のしびれ、②首の痛み・肩こり、③頭痛、④背中の真ん中の痛み、が変化したかどうかを確認します。リリース前に筋腹を圧迫しながら症状の基準を確認し、リリース後に同じ動作で症状が軽減・消失していれば、そのアプローチが有効だったと判断できます。もし変化がなければ、そのアプローチは今回は有効でなかったとみなし、別のアプローチ(別の筋・別の原因)を検討します。「変化を見る」という客観的な指標を持つことが、思い込みで手技を続けるより誠実なアプローチです。なお、一回のリリースで大きく変わることもあれば、複数回で徐々に変化することもあります。2〜3回試して変化がなければ、別の原因(頸椎・神経の問題)を疑い、医師の診察を優先してください。

Q. 背中の真ん中が痛い場合も、上腕三頭筋が原因になりますか? ── A. 背中の真ん中(胸椎の棘突起付近)の痛みには多くの原因があります。脊柱起立筋の筋膜性疼痛、菱形筋・僧帽筋中部繊維の緊張、胸椎の関節機能不全などが一般的です。上腕三頭筋(特に長頭)が肩甲骨の外側縁に起始し、長時間のデスクワークや前腕を使う作業で収縮位を保つことで、肩甲骨まわりを通じて背部の筋膜に影響を与えうる ── というのが藤井先生の臨床的な見立てです。しかし、三頭筋が「背中の真ん中の痛みの主因」になることを示した研究はありません。「三頭筋の筋腹を圧迫したとき背部の痛みが変化するかどうか」という疼痛誘発動作で関与を推定し、変化がなければ別のアプローチ(胸椎・脊柱起立筋など)を優先してください。内臓疾患(心臓・肺・消化器)による背部痛を除外するためにも、長引く背部の痛みは一度医師に診てもらうことを推奨します。

この手技が使われた改善症例

※ いずれも本人の同意を得て匿名化した記録です。経過には個人差があります。

6

限界と注意・受診の目安

  • 上腕三頭筋の硬さと症状の関連(母指しびれ・肩こり・頭痛・背部痛)を直接検証した研究はなく、動画の間接アプローチも研究の裏づけがない藤井先生の臨床経験に基づく仮説です。
  • 腋窩(長頭起始部アプローチ時)には大血管・腋窩神経が集まります。強い圧迫・拍動を感じたら即座に中止してください。
  • 橈骨神経の螺旋溝(上腕外側中央)を直接横方向から強く圧迫することは手首下垂(橈骨神経麻痺)のリスクがあります。筋腹の評価は上(後面)からの軽〜中等度の圧で行ってください。
  • しびれ・脱力の悪化、安静時痛・夜間痛・外傷後の痛み・発熱を伴う場合は手技を行わず医療機関を受診してください。
  • 効果には個人差があります。「治る」ことを保証するものではなく、2〜3回試して変化がない場合は別の原因を疑い専門家に相談してください。
7

監修・参考文献

掲載内容は藤井翔悟が臨床経験と学術文献に基づき確認しています。効果には個人差があり、本記事は診断・治療の代替ではありません。より高い客観性のため、今後は外部の有資格者(医師・理学療法士等)による監修も加えていきます。

監修:藤井翔悟(徒手療法家 / 手技考案者)

  1. [1] Konrad A, Nakamura M, Behm DG2022).「The Effects of Foam Rolling Training on Performance Parameters: A Systematic Review and Meta-Analysis including Controlled and Randomized Controlled Trials」. International journal of environmental research and public health.
  2. [2] Ribeiro DC, Belgrave A, Naden A, Fang H, Matthews P, Parshottam S.2018).「The prevalence of myofascial trigger points in neck and shoulder-related disorders: a systematic review of the literature」. BMC musculoskeletal disorders.
  3. [3] Pons C, Borotikar B, Garetier M, Burdin V, Ben Salem D, Lempereur M, Brochard S.2018).「Quantifying skeletal muscle volume and shape in humans using MRI: A systematic review of validity and reliability」. PloS one.