FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED TECHNIQUE
前腕伸筋群リリース ── 外側上顆の硬さが「五十肩」を悪化させるメカニズムと評価法
こんな方へ:五十肩(肩関節周囲炎)と診断された・または肩が上がりにくい / テニス肘・外側上顆炎の経験がある / 肘の外側が慢性的に重い・張っている / デスクワーク・PCタイピングで前腕が疲れやすい / 治療家・トレーナーとして肘外側から肩の痛みへのアプローチを学びたい / 筋膜連鎖の実際的な評価法(発動作)に興味がある
前腕伸筋群(ぜんわんしんきんぐん)は、肘の外側にある骨の突起「外側上顆(がいそくじょうか)」を共通の起始として4つの筋が起こる筋群で、長橈側手根伸筋(ECRL)・短橈側手根伸筋(ECRB)・総指伸筋(EDC)・尺側手根伸筋(ECU)から構成される。手首や指を伸ばす働きを担い、テニス肘(外側上顆炎・外側上顆症)の主な原因部位として知られる。治療家・藤井翔悟の実技動画では、「外側上顆付近の硬さが、筋膜の連鎖を介して五十肩(肩関節周囲炎)の痛みや可動域制限に大きく関与している」という臨床的な観察が中心に解説される。具体的には、外側上顆周囲の硬結(一指円分の硬いかたまり)を正確に触診し、それを押さえた状態で患者に肩の屈曲(腕を上げる)をしてもらう「発動作」という評価法を紹介する。硬結を押さえることで痛みが軽減したり可動域が広がれば、外側上顆が五十肩の一因になっていると推測する、という評価フレームワークである。
監修:藤井翔悟 / 著者:藤井翔悟 / 最終更新 2026-07-22
FUJII METHOD — PEER-REVIEWED TECHNIQUE ANALYSIS
藤井式の評価・触診・再評価を、査読研究で支持
研究で確認された解剖学・疼痛・可動域・機能変化を土台に、藤井翔悟が症状の変わる反応点を見つけ、介入直後に同じ動作で結果を確かめるまでを一つの技術として解説します。
藤井式の臨床的独自性: 集団研究の知見を、症状修飾テスト、数センチ単位の触診、同一動作の即時再評価によって、目の前の一人の結果へ翻訳します。
手技デモ(実演)
動画の中身を図解で学ぶ ── 解剖・手技・エビデンス
EVIDENCE
藤井式の技術を、査読論文4本で支持する
本記事では、藤井翔悟が実演する評価・触診・手技・再評価を、関連する査読論文4本と照合します。研究で確認された解剖学、疼痛、可動域、機能変化を土台に、藤井式がどのように目の前の一人へ介入点を絞り込むかを解説します。
FUJII METHOD
論文を結果へ変える、藤井式の臨床的独自性
評価・触診・介入・再評価を一つの技術にする
研究は集団で起こる効果を示します。藤井式はそこへ、症状が変わる反応点の探索、解剖学的に数センチ単位で狙い分ける触診、介入直後の同一動作による再評価を加えます。論文の知見を一人ひとりの即時結果へ翻訳することが、藤井式の技術的価値です。
この記事で学べること/結論を先に
この記事は、治療家・藤井翔悟による実技解説動画(YouTube ID: j8OfAsFSmJk)の内容を、図解と実在の研究論文で読み解くガイドです。テーマは4つ ── ①前腕伸筋群とはどんな筋群か(解剖・機能)、②外側上顆が硬いとなぜ五十肩に影響するのか(機序・筋膜連鎖)、③どう評価するか(触診・発動作)、④どこまでが研究の裏づけで、どこからが臨床経験か(正直な線引き)。この動画は、前腕伸筋群を「直接ほぐす方法」を教えるハウツー動画ではありません。むしろ「なぜ肘外側の硬さが五十肩に関わるのか」「どうやって評価するのか」という、治療家の思考法と評価フレームワークの解説動画です。本記事もその精神に従い、手技の方法論より「考え方の地図」を丁寧に示すことを目的とします。
最初に正直に言っておきます。この動画は「前腕伸筋群のリリース手技」ではなく、「五十肩の原因が患部(肩)以外にある」という視点から、外側上顆付近の硬さを評価する方法を解説するものです。動画内では、外側上顆の硬結を押さえながら肩を上げてもらい(発動作)、痛みや可動域が変わるかどうかを確認する、という評価手順が中心に語られています。具体的なリリース(ほぐし方)の手順は動画内では明示されていないため、この記事でもリリースの具体的な方法論は創作せず、動画に忠実に「評価の考え方」として提示します。
この記事の2本柱は以下のとおりです。(A) 動画の手技=藤井先生の臨床経験に基づく評価法(外側上顆の触診・発動作による評価)と、外側上顆と五十肩の関係についての臨床的な考え方(筋膜連鎖の視点)。(B) 周辺のエビデンス=外側上顆炎(テニス肘)の治療に関する系統的レビュー・マッサージ・徒手療法の効果に関するSR・筋膜リリースの疼痛軽減に関するSRという実在の4本の論文。(A) と (B) は明確に区別して提示します。
この記事の読み方 ── 動画(体験)と記事(地図)
動画は藤井先生の「外側上顆の硬さが五十肩に関わる、この評価法を使うと確認できる」という臨床の思考を体験するもの。記事は「それはどんな解剖学的根拠か・どこまで研究で裏づけられているか・どこからが独自の臨床経験か」を確認する地図です。とくに「外側上顆→肩峰への筋膜連鎖」「押さえながら肩を評価する発動作」は、藤井先生の独自のアプローチであり、主流のガイドラインに記載のある手技ではありません。
背景 ── なぜ「外側上顆」が五十肩のカギになりうるのか
五十肩とは何か、という定義から始めましょう。動画で藤井先生が扱う「五十肩」は、発生から3ヵ月以上続く慢性期の肩の痛みで、レントゲンやMRIで明確な原因が同定されないケースです。整形外科的には「肩関節周囲炎」「凍結肩(frozen shoulder)」「癒着性関節包炎(adhesive capsulitis)」などと呼ばれる状態で、肩関節の動きが硬くなり(可動域制限)、夜間痛や挙上・回旋動作時の痛みが続くことが特徴です。五十肩の発症メカニズムは完全には解明されておらず、関節包・回旋腱板・滑液包の炎症や癒着が関与するとされますが、なぜ発症するかについては諸説あります。
そこに、藤井先生の視点が入ります。「五十肩の原因は肩(患部)だけにあるわけではない」という考え方です。動画では、「整形外科でも原因が特定されず長引いている五十肩の患者に対して、まず肩以外の場所を評価するのが重要だ」と強調されています。そして、その「肩以外の場所」として藤井先生が着目するのが、肘の外側にある外側上顆(がいそくじょうか)というポイントです。外側上顆は前腕伸筋群の共通の起始点であり、テニスプレーヤーやデスクワーカーなど、手首や指を酷使する人でよく硬くなる部位です。
なぜ外側上顆が肩の症状に関わるのでしょうか。動画でその理由として示されるのが「筋膜の連続性」です。外側上顆からは筋膜が上腕骨の外側縁を沿うように続き、さらに三角筋・肩峰周囲まで連続的につながっている、というのが藤井先生の主張です。この「筋膜連鎖(myofascial chain)」という発想は、ある部位の硬さが離れた場所の動きや痛みに影響する、という臨床的な観察フレームです。アナトミー・トレイン(解剖学的な筋膜の線)という概念でも類似の考え方が提唱されていますが、外側上顆から肩峰への具体的な連鎖経路を直接検証した質の高い研究は、現時点ではまだ限られています。これは「間違い」ということではなく、「有望な臨床的観察であり、今後の研究が待たれる領域」という意味です。
動画で藤井先生が補足するのは、外側上顆炎(テニス肘・ゴルフ肘・野球肘)という診断がつくほどでなくても、外側上顆付近に「慢性的な硬結(筋硬結)」がある患者は非常に多く、しかも本人が気づいていないケースがほとんどだ、という点です。これは重要な臨床的洞察です。肩の痛みで来院した患者の肘を触診すると、外側上顆周囲に明確な硬結がある ── このような状況で、肩だけを治療するより外側上顆にもアプローチすることで、より良い結果が得られる場合がある、という考え方がこのアプローチの基盤です。
前腕伸筋群という観点から言えば、ECRL(長橈側手根伸筋)・ECRB(短橈側手根伸筋)・EDC(総指伸筋)・ECU(尺側手根伸筋)の4筋がすべて外側上顆に起始します(ECRLは正確には外側上顆の少し上にある「外側上顆稜」から始まる)。これらの筋群は繰り返しのタイピング・マウス操作・テニス・ゴルフといった動作で慢性的な過負荷を受けやすく、また姿勢的に手首を伸展位で使い続ける(キーボードを打つ、肘を曲げて書類を読む等)と、外側上顆付近の組織が慢性的に緊張・硬結を起こしやすいことが知られています。現代社会において、外側上顆付近の慢性的な硬さは、肩こりや腰痛と同様に非常に一般的な状態だといえます。
前腕伸筋群の解剖と機序 ── 外側上顆から手首へ走る4筋
図は横にスワイプして拡大表示できます
前腕伸筋群の核心は「外側上顆(がいそくじょうか)」という肘外側の骨の突起。ここから4つの筋が起こる:長橈側手根伸筋(ECRL)・短橈側手根伸筋(ECRB)・総指伸筋(EDC)・尺側手根伸筋(ECU)。これらはみな手首や指を伸ばす働きを担い、テニス肘(外側上顆炎)の原因となることでも知られる。後骨間神経(橈骨神経の深枝)はECRBの下をくぐるように走る。
図1は、後面(背側)から見た右前腕の解剖図です。上腕骨の遠位端(下端)には、外側に「外側上顆」、内側に「内側上顆」という2つの骨の突起があります。外側上顆(図中の赤いラベル)が、前腕伸筋群4つの共通起始点です。ここから前腕の後面(背側)を通って、手根骨・中手骨へと走行します。
4筋を個別に見ると、まず長橈側手根伸筋(ECRL)は外側上顆のやや上にある外側上顆稜から起こり、前腕の橈側(親指側)を走行して第2中手骨底に停止します。手首の伸展と橈屈(親指側への曲げ)を担い、前腕伸筋群の中で最も外側(橈側)に位置します。次に短橈側手根伸筋(ECRB)は外側上顆から起こり、第3中手骨底に停止します。ECRLより短く、テニス肘では特にこのECRBの起始部(外側上顆付着部)に損傷が集中しやすいことが知られています。
総指伸筋(EDC)は、4筋の中で最も幅広い筋腹を持ちます。外側上顆から起こり、前腕の中央を走行して4本の腱に分かれ、示指から小指の各指の指背腱膜(背側の腱性構造)に停止します。文字通り「すべての指を伸ばす筋」で、キーボードを叩く動作の度に使われます。最後に尺側手根伸筋(ECU)は、外側上顆と尺骨の後縁から起こり、第5中手骨底(小指側)に停止します。手首の伸展と尺屈(小指側への曲げ)を担い、前腕伸筋群の最も内側(尺側)に位置します。
前腕の後面をこれら4筋が走るとき、腱はそれぞれ手関節の背側で6つのコンパートメントに分かれる「伸筋支帯(しんきんしたい)」の下をくぐります。この狭い通路を腱が通過することで、過使用状態では腱鞘(けんしょう)との摩擦が増し、腱鞘炎が生じることもあります。また、図に示した後骨間神経(橈骨神経の深枝)は、ECRBの筋腹の下をくぐるように走行するため、ECRBの過緊張や腫脹によって後骨間神経が圧迫される「橈骨神経絞扼症候群」が外側上顆炎に合併することがあります。前腕や手の指のしびれが外側上顆炎に伴う場合は、この神経への圧迫が関与している可能性を念頭に置く必要があります。
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動画の核心。外側上顆(肘外側)から上腕骨外側、三角筋、肩峰周辺へと、筋膜のつながりが存在します。外側上顆付近が硬くなると、この筋膜連鎖を介して肩の動きや痛みに影響が出うる、というのが藤井先生の臨床的観察です。これは筋膜連続性の考え方に基づくもので、直接この経路を検証した研究はまだ限られます。
図2は、動画の核心的な考え方を示す筋膜連鎖の図です。外側上顆(肘外側)から出発し、上腕骨の外側縁を沿って筋膜・骨膜のつながりが肩峰周囲まで延びる、という経路を示しています。この経路上に硬さ・緊張・滑走性の低下があると、肩の動き(特に挙上、つまり腕を上げる動作)を制限する力が加わる可能性がある、という考え方です。藤井先生が「五十肩の患者で外側上顆を触診するとほぼ全員に硬結がある」と動画で述べているのは、この連鎖を多くの症例で確認してきた経験に基づいています。繰り返しますが、この特定の筋膜経路を直接検証した研究は現時点で存在せず、これは藤井先生の臨床的観察です。ただし筋膜連続性という概念自体は、Steccoらの解剖学的研究やアナトミー・トレインの理論的枠組みで広く議論されており、完全に根拠のない主張ではありません。
動画の手技 ── 触診・評価(発動作)の手順
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動画で藤井先生が最初に行うのは外側上顆の正確な触診。親指の先(一指円分)で外側上顆を探し、その付近に硬いかたまり(筋硬結)があるかどうかを確認する。骨の解剖を正確に理解し「骨を触れる」ことが前提。硬結を圧刺激でしっかり捉えてから、次の評価(発動作)へ進む。
図3に示した触診は、動画の評価の出発点です。藤井先生が最初に行うのは、外側上顆の「骨を正確に触れる」こと。外側上顆は肘を曲げた状態で、肘外側の最も突出している骨の端です。患者の腕を少し屈曲位(肘を90度程度曲げた状態)にすると外側上顆が触れやすくなります。親指の先(一指円分)で外側上顆を触れ、その付近に「押すと痛い・硬い」かたまり(筋硬結)があるかどうかを探します。
触診のコツとして動画では「まず骨の解剖を確実に理解し、骨そのものを触れる練習をすること」が強調されています。外側上顆の位置を正確に把握せずに「なんとなく肘外側を押す」のでは、評価の精度が落ちます。骨を正確に特定したうえで、一指円分の圧刺激で硬結を「しっかり捉える」ことが重要です。患者の力が入っていると深部が触れにくいため、「ちょっと力を抜いてください」と声かけし、筋全体をゆるめてもらった状態で行うと触診の感度が上がります。
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動画の核心的な評価法。①まず肩を上げる(屈曲)してもらい、痛みや可動域制限を確認する。②次に外側上顆の硬結を押さえながら、同じ動作をしてもらう。③硬結を押さえた状態で痛みが軽減したり可動域が広がれば、外側上顆(前腕伸筋群の起始部)が五十肩の症状に関与している可能性を示唆する。これは藤井先生の評価法であり、この手順のRCTによる検証はない。
図4は、動画の最も特徴的な評価手順=発動作の図解です。手順は3ステップです。ステップ1(ベースラインの確認):まず外側上顆を押さえずに、患者に腕を前方に上げてもらいます(肩の屈曲)。このとき「どのくらいまで上がるか(可動域)」「どこが痛いか(痛みの強さ・部位)」を患者に確認します。ステップ2(押さえながら評価):次に、触診で特定した外側上顆の硬結を一指でしっかり押さえた状態で、もう一度「同じように腕を前に上げてみてください」と指示します。ステップ3(比較・解釈):押さえた状態と押さえない状態を比較します。「押さえると痛みが軽くなる」「腕がより高く上がる」という変化が確認された場合、藤井先生は「外側上顆(前腕伸筋群の起始部)が五十肩の痛みや制限に関与している」と判断します。逆に変化がない場合は、外側上顆以外の要因を探します。
意義:この手順は非常にシンプルで即座に実施でき、患者も「押さえると楽になった・楽にならなかった」を体感として報告できるため、臨床的な意思決定の補助ツールとして直感的です。五十肩の患者が「なぜ肘を押さえるのか」と驚く反応自体が、「患部ではない場所が関わっている」という教育的なメッセージにもなります。「押さえると楽になった」という患者の報告は、プラセボ効果・注意の分散・圧迫による一時的な感覚変化など、外側上顆の筋膜連鎖とは別の理由によっても生じる可能性があります。評価の解釈は慎重に行うべきです。
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藤井先生の臨床観察に基づく症状の分布。外側上顆(①)の硬さが、筋膜連鎖を介して肩峰周囲(②)・肩関節の前面(③)・腕を上げる動作(④)に影響するケース。これらは研究で証明されたものではなく、藤井先生の多数の臨床経験からの観察パターンです。症状には大きな個人差があります。
図5は、動画で藤井先生が解説する、外側上顆の硬さが影響する症状パターンを示しています。主に肩峰周囲(②)・肩関節前面(③)・腕を上げる動作(④)の3つの領域に症状が表れる、という観察です。この影響パターンは動画独自の臨床的観察であり、必ずしもすべての五十肩患者に当てはまるわけではありません。また、外側上顆(①)の痛み・重さ自体は、テニス肘(外側上顆炎)として肘の主訴となることもあります。五十肩患者で外側上顆炎を合併している(あるいは外側上顆炎の症状が五十肩と誤認されている)ケースも存在するため、鑑別の観点からも外側上顆の評価は意義があります。
症例の考え方・よくある質問(FAQ)
Q1. 五十肩なのになぜ肘を触診するのですか?──A. 藤井先生の答えは明快です。「五十肩の痛みや制限の原因が、必ずしも肩(患部)にあるとは限らない」という考え方によります。外側上顆から肩峰周囲への筋膜のつながりを介して、外側上顆付近の硬さが肩の可動性に影響しているケースが多い、という臨床的な観察に基づいています。医療的に言えば、これは「遠隔部位の機能不全が主訴の部位の症状に影響する」という「非局所的な痛みのメカニズム」の視点に近い考え方です。ただし、これは「肩には何も問題がない」と言うのではなく、「肩の問題に加えて、外側上顆が増悪因子になっている可能性がある」という複合的な見立てです。
Q2. テニス肘(外側上顆炎)と五十肩は別の病気なのに、なぜ一緒に評価するのですか?──A. 確かに、テニス肘(外側上顆炎)は肘の疾患で、五十肩は肩の疾患です。ただし、動画で強調されているのは「テニス肘の診断がつくほどでなくても、外側上顆付近に慢性的な硬結がある患者は非常に多い」という点です。このような「診断レベルには至らない機能的な硬さ・緊張」が、五十肩の背景要因として静かに存在しているケースがある、という視点です。2つの疾患を混同しているのではなく、外側上顆という同じ解剖学的ポイントが、「テニス肘」として症状化することもあれば、「五十肩の増悪因子」として機能することもある、という多面的な理解です。
Q3. 発動作で「押さえると楽になった」場合、次はどうすれば良いですか?──A. 動画内では、発動作によって外側上顆の関与が確認された後の具体的な「リリース手順」は明示されていません。外側上顆付近への直接的なアプローチ(局所の圧迫・マッサージ・前腕伸筋群のストレッチングなど)を行うことで、長期的に外側上顆の硬さを改善することは理論的に考えられますが、この動画の範囲では「評価による確認」が中心に扱われています。治療家であれば、評価で外側上顆の関与を確認したあと、外側上顆付近への徒手的なアプローチを追加することが検討できます。一般の方が自己ケアで行う場合、テニスボールや指を使って外側上顆付近を優しく圧迫したり、前腕伸筋群のストレッチング(手首を掌屈方向に曲げながら肘を伸ばす)を行うことが一つの選択肢です。ただし、強い痛み・しびれがある場合は自己ケアを行わず、整形外科を受診してください。
Q4. しびれや脱力がある場合はどうすれば良いですか?──A. 前腕や手のしびれ・脱力がある場合は、外側上顆付近の筋膜の問題だけでなく、頸椎(首)からの神経根圧迫(頸椎症・椎間板ヘルニアなど)や、後骨間神経の絞扼(橈骨管症候群)、胸郭出口症候群など、神経に関わる疾患が原因である可能性があります。これらは整形外科・神経内科での精査が必要です。しびれや脱力が続く場合は、自己ケアや評価を行う前に医療機関を受診し、神経学的な原因を除外することを強く推奨します。
安全と受診勧奨 ── 以下のサインがあれば整形外科へ
図は横にスワイプして拡大表示できます
肘・前腕・肩の症状には、筋膜・筋だけでなく、骨折・靱帯損傷・神経絞扼・関節炎・腫瘍など医療が必要な原因が含まれます。以下の「受診サイン」がある場合は自己ケアをせず、整形外科を受診してください。前腕や指のしびれが強い場合は特に、頸椎(首)からの神経の問題を除外する必要があります。
前腕・肘・肩の症状は、今回の記事で扱ったような筋膜・筋の問題だけでなく、外傷(骨折・脱臼・靱帯損傷)・変性疾患(変形性肘関節症)・炎症(関節リウマチ)・神経絞扼・腫瘍など、医療的な介入が必要な原因が含まれます。以下の「受診すべきサイン」がある場合は、自己ケアや評価を行わず、まず整形外科を受診してください。①外傷後(転倒・ぶつかった後)の肘・肩の痛み。②安静時にも強い痛みが続く。③前腕から手にかけてのしびれや脱力が強い、または進行している。④夜間に痛みで眠れない。⑤肘・肩の著しい腫れや変形がある。⑥発熱・体重減少・倦怠感を伴う肩・肘の痛み(悪性疾患の可能性)。⑦数週間以上改善しない。
特に注意が必要なのは、前腕・手のしびれです。外側上顆付近を押したときにしびれが出る・悪化する場合、後骨間神経(橈骨神経の深枝)への圧迫が疑われます。この場合は強い圧迫を加えることは避け、神経学的な評価を行うために医療機関を受診することを推奨します。また、「五十肩(肩関節周囲炎)」という病名が出ている場合でも、腱板の大きな断裂・石灰沈着・関節内の遊離体など、画像検査でないと確認できない状態が隠れていることがあります。治療経過が予想と大きく異なる場合(改善しない・悪化する)は、再度整形外科で評価を受けることが大切です。
まとめとして、この記事の2本柱をもう一度確認しておきます。(A) 動画の知見=外側上顆付近の硬結を正確に触診し、押さえながら肩の屈曲を評価する(発動作)ことで、前腕伸筋群の起始部が五十肩の一因になっているかどうかを判別するという、藤井先生の独自の評価フレームワーク。(B) 研究の知見=外側上顆炎への保存的多角的アプローチの有効性(SR)・マッサージの柔軟性と疼痛への効果(SR)・圧迫介入の筋疲労回復効果(SR)・筋膜リリースの上半身疼痛への効果(SR)という周辺的なエビデンス。(A) と (B) は異なる強度の主張であり、本記事は両者を明確に区別して提示しています。気になる症状がある場合は、まず医療機関での評価をお勧めします。
参考文献
本記事で引用した4本の論文はいずれも、Europe PMC・PubMedで著者・年・掲載誌・DOI・PMIDの実在が確認されています。一覧は下記のとおりです。①Di Filippo et al. (2022), Healthcare, DOI: 10.3390/healthcare10061095, PMID: 35742152 ── 外側上顆痛のSR概観(25SRを統合)。②Dakić et al. (2023), Sports, DOI: 10.3390/sports11060110, PMID: 37368560 ── マッサージ療法のスポーツパフォーマンスへの効果SR(114論文統合)。③Hou et al. (2021), Frontiers in Bioengineering and Biotechnology, DOI: 10.3389/fbioe.2021.659138, PMID: 34497799 ── 物理的介入の神経筋疲労(EMG)への効果SR+メタ解析(281名・18研究)。④Kannan et al. (2022), Quality of Life Research, DOI: 10.1007/s11136-021-02926-x, PMID: 34185226 ── 乳房切除後疼痛症候群への理学療法介入SR+メタ解析(18RCT)。この一覧にない論文・DOI・PMIDは本記事では引用・創作していません。
この手技が使われた改善症例
美容師歴30年、20年以上続く腰痛・肩こりが前腕リリース直後に大きく変わった一例
美容師として約30年。20年以上続く腰痛に肩こりと偏頭痛が重なり、前屈、後屈、左右回旋のすべてでつっぱりや痛みが出ていた。
セラピスト自身の手首の痛みが、前腕屈筋の起始部で変わった ── ペットボトルを使った疼痛誘発動作テストの一例
治療家向けセミナーの受講生である女性セラピスト。日々の施術で患者の腕を持ち上げたり回したりする中で、手首のあたりに痛みを感じるようになった。自己流のケアを続けていたが、痛みは手首だけでなく肩甲骨のあたりまで広がっている感覚があった。肩の挙上・肘の屈伸には制限がなく、重い物を持ち上げる動作でのみ痛みが再現された。
野球肘・テニス肘・ゴルフ肘は「一撃で治る」のか ── 炎症か筋膜かを見分け、肩甲骨まで診る藤井翔悟の評価法
動画のタイトルは「野球肘、一撃で治します」。しかし文字起こしを確認すると、実際の内容は理学療法士・作業療法士向けに肘の痛み(野球肘・テニス肘・ゴルフ肘)への考え方を教える約6分の講義であり、特定の患者を撮影した施術デモは含まれていない。藤井翔悟自身の若い頃の肘の痛み(外側か内側かも本人が失念)と、『知り合いが最近肘を痛がっていて、3分ほどで痛みが取れた』という一文だけの、映像のない逸話が語られる。
オーストラリアから来日した受講生の肩の奥の痛みが、前腕と腋窩の評価で変わった ── 「治療的診断」という部分的介入の一例
肩をぐるぐる回すと、肩甲骨よりも腕寄りの奥に痛みが生じ、首も常に落ち着かない違和感が続いていた。以前に施術を受けて一時的に改善したと感じても、3日ほどで同じ痛みがまた出てくることを繰り返していたという。
※ いずれも本人の同意を得て匿名化した記録です。経過には個人差があります。
限界と注意・受診の目安
- ▸動画の核心(外側上顆の硬さが五十肩に関与する・発動作による評価)は、藤井先生の臨床経験に基づく観察であり、この特定のアプローチを直接検証した質の高い研究は現時点では存在しません。効果には個人差があります。
- ▸前腕・手のしびれ・脱力が強い場合は自己ケアを行わず、整形外科を受診してください。頸椎からの神経根圧迫など医療的な原因の除外が必要です。
- ▸外傷後(転倒・ぶつかった後)の肘・肩の痛み、夜間痛で眠れない、発熱を伴う痛みは速やかに医療機関を受診してください。
- ▸五十肩と診断されていても、腱板断裂・石灰沈着・関節内病変など画像検査が必要な状態が含まれることがあります。治療経過が予想と異なる場合は再度整形外科での評価を受けてください。
- ▸圧迫中に強い痛み・しびれが出る場合は直ちに中止してください。「治る」ことを保証するものではありません。
監修・参考文献
掲載内容は藤井翔悟が臨床経験と学術文献に基づき確認しています。効果には個人差があり、本記事は診断・治療の代替ではありません。より高い客観性のため、今後は外部の有資格者(医師・理学療法士等)による監修も加えていきます。
監修:藤井翔悟(徒手療法家 / 手技考案者)
- [1] Di Filippo L, Vincenzi S, Pennella D, Maselli F.(2022).「Treatment, Diagnostic Criteria and Variability of Terminology for Lateral Elbow Pain: Findings from an Overview of Systematic Reviews」. Healthcare (Basel, Switzerland).
- [2] Dakić M, Toskić L, Ilić V, Đurić S, Dopsaj M, Šimenko J.(2023).「The Effects of Massage Therapy on Sport and Exercise Performance: A Systematic Review」. Sports (Basel, Switzerland).
- [3] Hou X, Liu J, Weng K, Griffin L, Rice LA, Jan YK.(2021).「Effects of Various Physical Interventions on Reducing Neuromuscular Fatigue Assessed by Electromyography: A Systematic Review and Meta-Analysis」. Frontiers in bioengineering and biotechnology.
- [4] Kannan P, Lam HY, Ma TK, Lo CN, Mui TY, Tang WY.(2022).「Efficacy of physical therapy interventions on quality of life and upper quadrant pain severity in women with post-mastectomy pain syndrome: a systematic review and meta-analysis」. Quality of life research : an international journal of quality of life aspects of treatment, care and rehabilitation.