FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED SINGLE CASE STUDY
セラピスト自身の手首の痛みが、前腕屈筋の起始部で変わった ── ペットボトルを使った疼痛誘発動作テストの一例
BEFORE
治療家向けセミナーの受講生である女性セラピスト。日々の施術で患者の腕を持ち上げたり回したりする中で、手首のあたりに痛みを感じるようになった。自己流のケアを続けていたが、痛みは手首だけでなく肩甲骨のあたりまで広がっている感覚があった。肩の挙上・肘の屈伸には制限がなく、重い物を持ち上げる動作でのみ痛みが再現された。
AFTER
疼痛誘発動作テストで前腕屈筋群の起始部(内側上顆)周辺を1点ずつ押していくと、数ミリの違いで反応が大きく異なった。見つかった複数の硬結へ順に圧を加えたところ、ペットボトルを持ち上げる動作での痛みが段階的に減り、終了時には「全く痛くない」と報告。肘の伸展可動域も広がった。
経過:セミナー内デモンストレーション・1回、約9分(動画で確認できる、その場の変化のみ)
PEER-REVIEWED EVIDENCE
症例で起きた即時変化を、研究結果と照合
動画内の即時的な痛み軽減は、他の筋(肩甲挙筋)を対象にした圧迫解放法の即時効果を示すRCTと方向性は一致するが、前腕屈筋群の起始部を直接検証した研究ではない。内側上顆炎・外側上顆炎という腱由来の痛みは、診断基準・用語のばらつきが指摘されており、本症例の反応のみから診断名や機序を確定することはできない。
施術の動画
はじめに
手首を触らず、前腕の起始部から動きが変わった
「なんかこう、手首とか腕がなんか痛いなって感じる時があって」。治療家向けセミナーの実技練習で患者役を務めたのは、日頃は自分自身も患者の施術にあたるセラピストの女性でした。患者の腕を回すといった施術動作そのもので、手首のあたりに痛みが出るといいます。自分でもケアを続けていましたが、痛みは手首だけでなく、「ここが中心で、肩甲骨のあたりまで来てるのかな」という感覚が続いていました。
この動画のタイトルには「肘関節調整」「手首の痛みを即解消する魔法の筋膜リリーステクニック」という、かなり強い言葉が並びます。しかし実際に画面で行われていたのは、魔法でも一撃の調整でもなく、前腕屈筋群の起始部(内側上顆)まわりに複数ある反応点を、疼痛誘発動作テストという方法で1点ずつ地道に探し、見つかった硬結へ順に圧を加えていくという、評価と触診の積み重ねでした。本記事では、タイトルの煽り文句ではなく、実際に画面で起きた手順と反応に沿って記録します。
この記事では、約9分間のやり取りを実際の順番のまま追い、①映像で確認できる動作と反応、②本人が言葉にした主観的な感覚の変化、③施術者・講師が示した臨床的な解釈、という3つの層を分けて記述します。この症例が示すのは「前腕を押せば手首の痛みが治る」という一般論ではなく、正確な場所を探すことの難しさと重要性です。
先に結論 ── この症例の読み方
確認できたのは、単回のデモ中に、前腕屈筋群の起始部(内側上顆)周辺の複数の反応点を1点ずつ探り、圧を加えたところ、持ち上げ動作の痛みが段階的に減り、最終的に消失したという事実です。翌日以降の持続性や、同じ仕事を続けた場合の再発は、この動画からは分かりません。
STEP 1
主訴 ── セラピストという仕事が、自分の手首を痛めていた
痛みが出るのは、患者の腕を持ち上げたり回したりする施術の最中でした。本人は「自分でケアしてても、なんかここだけじゃなくて、結構この肩甲骨のあたりとか、こっちまで来てるのかな」と、痛みの中心と広がりを自分の言葉で説明しています。長く自己流のケアを続けてきたものの、根本的な変化は感じられていなかったようです。
講師はここで「女性セラピストあるある」「体格の大きい患者さんを施術していると疲れてしまい、ケアが追いつかなくなる」といった、一般化したコメントを添えています。これは講師の臨床経験に基づく一般論であり、目の前の受講生一人に確認された事実ではありません。本記事では、こうした一般的な傾向の話と、この一人に実際に起きた反応を、意識して分けて記述します。
セラピストという職業は、患者の四肢を支え、動かし、時には体重を支える動作を日常的に繰り返します。手首・前腕は、その負荷を最も直接に受ける部位のひとつです。今回のケースも、特定の外傷がきっかけではなく、日々の業務の積み重ねが背景にあると考えるのが自然でしょう。ただし、この段階ではまだ「なぜ痛むのか」の答えは出ておらず、あくまで背景としての推測にとどまります。
STEP 2
可動域スクリーニング ── 肩・肘は問題なし、なのに痛みの再現が難しい
評価はまず、肩の挙上(バンザイ)と肘の屈曲・伸展の確認から始まりました。講師が「肩上げるのは痛い? 首やると痛い? 手首痛いとか?」と一つずつ尋ね、実際に動かしてもらったところ、肩・肘のどちらにも制限や痛みの訴えはありませんでした。
ここで、デモならではの難しさが表面化します。「手首痛いけど、今はあんまり痛くなかったら練習としてはすごいやりづらい」と本人が漏らし、「こうやったらここまで痛い、というのが欲しい」と講師が応じました。慢性的な症状では、安静時や軽い動作では訴えが弱くても、特定の負荷が加わったときにだけはっきり症状が出ることがあります。この場面は、そうした負荷依存性の症状を、練習の中でどう扱うかという実務的なやり取りでもあります。
本人が挙げたのは、「ペットボトルを持ち上げたら痛いと思います」という具体的な動作でした。実際にペットボトルを持ち上げてもらうと、「あ、こうすると痛いです」と反応があり、痛む場所を「この辺」と示しました。これで、以降の圧迫による変化を比較するための基準動作ができあがりました。
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肩の挙上・肘の屈伸には制限がなく、重い物を持ち上げる動作でのみ手首の痛みが再現された。
STEP 3
疼痛誘発動作テスト ── 押しながら、痛みが消える場所を探す
「疼痛誘発動作というのをやるので、押しながら痛みが消える場所をここから見つけていくんですね」。講師はこう説明し、基準動作(ペットボトルを持ち上げる)を繰り返しながら、前腕・肘の周辺を押して反応を探る評価に移りました。まず、手をしっかり握るようにして押さえた状態で確認すると、本人から反応があり、続けて動かしてみると「だいぶ楽です」という回答が得られました。押していた場所を確認すると、内側上顆でした。
続いて、伸筋群の側、外側にある腕橈骨筋のあたりも試されました。ここでも「これも楽です」という回答があり、「さっきこうやって動かしただけで結構、抜けた感じがする」と続きます。ただし本人はすぐに「若干ちょっとカスった(少し残っている)」とも述べており、完全な消失ではなかったことが記録されています。
この段階で分かるのは、「前腕を押せば痛みが消える」という単純な話ではなく、押す場所によって反応の質と大きさが違うということです。内側上顆側の反応が最も明確で、外側はやや弱い。これは、以降どの部位を中心に触診を絞り込むかを決める、重要な手がかりになりました。
評価で反応した=そこが唯一の原因、ではありません
押している間に痛みが変わることは、介入候補を絞る手がかりにはなりますが、期待や注意の向き、反復による慣れでも症状は変化しえます。疼痛誘発動作テストだけで原因部位や診断名が確定するわけではありません。
STEP 4
前腕屈筋群の解剖 ── 内側上顆に集まる、共通の起始腱
動画で名前が挙がった内側上顆は、上腕骨の下端にある骨の出っぱりで、前腕屈筋群──円回内筋・橈側手根屈筋・長掌筋・浅指屈筋・尺側手根屈筋──が集まって起始する共通屈筋腱の付着部です。手首や指を握る・曲げるという動作は、これらの筋がまとまって働くことで成り立っています。
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円回内筋・橈側手根屈筋・長掌筋・浅指屈筋・尺側手根屈筋は、肘の内側上顆に集まって起始する。
一方、動画内で「外側の腕橈骨筋」と説明された部位について、解剖学的に補足しておきます。前腕伸筋群の多くは外側上顆に集まる共通伸筋腱から起始しますが、腕橈骨筋そのものは上腕骨のさらに上方、外側顆上稜という部位から起始しており、厳密には共通伸筋腱を構成する筋ではありません。動画内の表現は臨床の現場でよく使われる口語的な言い回しであり、本記事では正確な起始部位を区別して記録します。
もう一つ、内側上顆を扱ううえで欠かせない解剖があります。内側上顆のすぐ後方には、肘部管と呼ばれる溝を通って尺骨神経が走っています。机の角に肘をぶつけたときに小指側へビリッと響く、いわゆる「ファニーボーン」がこの神経です。共通屈筋腱の起始部を触診する際は、その近さを踏まえ、しびれや放散痛が出ていないかを都度確認しながら進める必要があります。
手首や指を反復して使う仕事、とりわけ患者の腕を握って動かす施術のような業務では、内側上顆に集まるこの共通屈筋腱の起始部に負担が集中しやすいと考えられます。今回の評価で、最初に反応が出たのがこの部位だったことは、解剖学的な位置づけと矛盾しません。
STEP 5
鑑別の視点 ── 手首の痛みは、前腕の起始部だけが原因とは限らない
セラピストのように手首を酷使する仕事に伴う痛みには、実際にはいくつもの原因が考えられます。手根管症候群のような正中神経の絞扼、母指側の腱鞘炎(ドケルバン病)、三角線維軟骨複合体(TFCC)の損傷、関節そのものの変性など、前腕屈筋群の起始部以外にも候補は多くあります。
今回の動画では、フィンケルシュタインテストやファーレンテストのような、これら他の病態を鑑別するための特別なテストは行われていません。行われたのは、あくまで前腕屈筋群の起始部を中心にした疼痛誘発動作テストです。したがって、この症例が示すのは「この受講生の場合、前腕屈筋の起始部への介入で症状が変化した」という一例であり、「セラピストの手首の痛みは前腕の起始部を緩めれば解決する」という一般化はできません。
痛みが続く場合は、他の可能性も検討してください
手首の痛みにしびれ、握力低下、腫れ、変形、夜間痛が伴う場合は、前腕の筋膜だけでなく、神経・腱・関節を含めた医学的な評価が必要です。自己判断で特定の部位だけに絞り込まないようにしてください。
STEP 6
数ミリの違いが、反応を分けた ── 起始部の中にある複数の反応点
肘が見える状態であらためて確認すると、「今若干痛いですね、やっぱり」と、まだ痛みが残っていることが分かりました。先ほど反応のあった屈筋群の起始部付近をもう一度押さえて持ち上げ動作を行うと、「これは結構楽です」という回答が得られました。
そこから、位置を少しだけ遠位へずらして同じように押したところ、本人から唸り声が上がるほどの強い反応が出ました。会場では「なんかまた言ってある」「肘が全然見えないです」というやり取りもあり、カメラの角度で肘元が映っていなかったことも話題になっています。これは笑いを誘う場面ではありますが、記録としては、その一点が非常に敏感に反応する要注意点だったことを示しています。無理に押し込むのではなく、位置を確認しながら進めることが重要な場面でした。
続いて中央寄りのポイントを試すと、「ここ楽です」という回答があり、施術者役は「1番目とこれが一番楽です」とまとめました。同じ内側上顆の起始部という、指1〜2本分ほどの狭い範囲の中でも、押す位置によって反応がここまで変わったことは、この症例の重要な観察点です。
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ペットボトルを持ち上げながら押す場所を変え、痛みがどう変化するかを1点ずつ比較した。
STEP 7
講師による精密触診のデモ ── 骨指標から、腱の線維を1本ずつ辿る
ここで講師が交代し、より基礎的な触診の手順を実演しました。「上からこう手を下ろしていった時にコツンって当たる」という骨指標のテストで内側上顆を確認し、そこからさらに腱の場所を、裂くような形で1本ずつ触れていきます。「ここどう? ここは?」と、糸を選り分けるように場所を変えながら硬結(グリグリ)を探っていく様子が示されました。
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共通屈筋腱の走行に沿って触診すると、硬さと反応の強さが場所ごとに異なる複数の点が見つかった。
この過程で、深指屈筋につながると思われる部位や、内側上顆から起始する屈筋腱の束と思われる部位を含め、複数の硬結が見つかりました。見つけた点をひとつずつ押さえながら基準動作を再評価すると、そのつど「楽です」という回答が得られています。
同じ起始部の中に、これだけ細かく分かれた反応点が存在したことは、触診の精度がそのまま結果に直結することを示す場面でした。講師が最後にまとめた通り、「評価と治療はそのまま直結する」ため、押している場所がずれていないかを常に確認する姿勢が、この一連の作業の核心にあります。
STEP 8
なぜ母指まで診るのか ── 前腕屈筋群を「面」として捉える
講師は、この受講生の場合、最初に見つかった点に加えてさらに2か所、そして母指も疲れていることから、前腕屈筋群の起始部全体を面として緩める必要があると説明しました。手技としては、起始部の硬結を捉えたまま、母指の対立筋・内転筋という末梢側の張りを併用する方法が示されています。
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起始部の硬結を保持しながら、末梢(母指側)の張りを使う施術者の考え方。機序は経験則であり特定されていない。
「強めに押してもあまり痛みは出ない、むしろ気持ちいいと言われることが多い」と講師は説明します。母指の付け根の筋は短く頑丈なため、しっかりした圧を加えても不快感になりにくいという臨床的な経験則です。
ただし、末梢の母指を操作することが、なぜ近位の腱の緊張に影響するのかという生理学的な機序は、動画内でも、また現時点の文献でも、明確には説明されていません。本記事では、これを施術者の臨床仮説として記録し、確立した機序としては扱いません。
STEP 9
経過 ── グリグリが柔らかくなり、肘が伸びていく
圧迫を1点ずつ加えるたびに、講師は「さっきグリグリ言ってたやつが、ちょっとずつ優しいグリグリに変わってくる」「どうしようもないグリグリが、遊びのあるグリグリに変わってくる」と表現し、あわせて肘の伸展が少しずつ広がっていく様子を確認しています。肘の伸びを、屈筋群の緊張がどれだけ緩んだかを見る、その場の目安として使っている場面です。
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複数の反応点を順に緩めたところ、肘の伸展が広がり、持ち上げ動作での痛みが単回の介入中に消失した。
最後にもう一度ペットボトルを持ち上げてもらうと、本人は「あ、全く、全く痛くないです」と答えました。肘の伸展も、講師が「彼女の正確な可動域のフルレンジ」と表現する範囲まで広がっています。約9分間のやり取りの中で、痛みの訴えが段階的に減り、最終的に消失したことが確認できる場面です。
ただし、肘の伸展を「効果の目安」として使うことには限界もあります。これは角度計による数値的な計測ではなく、見た目の印象に基づく評価です。握力や圧痛閾値も測定されていないため、どの程度の変化だったかを厳密な数字で示すことはできません。
STEP 10
研究は何を支持し、何を支持しないか
内側上顆炎(ゴルフ肘)・外側上顆炎(テニス肘)といった腱由来の肘の痛みは、臨床でよく扱われる病態です。しかし、Di Filippoら(2022)のシステマティックレビューの概観によれば、外側肘関節痛だけを見ても、診断基準や用語(上顆炎・上顆症・腱症など)にかなりのばらつきがあり、統一的な診断枠組みが確立しているとは言い難い状況です。本症例のような短いデモの中での触診反応だけから、特定の診断名を確定することはできません。
Zhangら(2026)のRCTは、外側上顆炎に対して超音波ガイド下で筋膜の深層・浅層のどちらを標的にするかを比較したもので、腱付着部周辺の筋膜層への介入に関心が高まっていることを示します。ただし対象は外側(伸筋側)であり、本症例の中心である内側(屈筋側)の起始部に、同様の効果があるかどうかは別途の検証が必要です。
動画内で語られる「重積」「血行不良」「トリガーポイント」といった説明についても、Zhaiら(2024)のレビューは、トリガーポイント理論が臨床的に広く使われる一方、その神経生理学的な機序は現在も研究段階にあると指摘しています。母指の緊張を使って近位の腱を間接的に緩めるという発想も、施術者の経験に基づく仮説であり、これを直接検証した研究は特定できていません。
総合すると、この症例が示すのは、研究結果の代わりになる普遍的な証明ではなく、一人の身体で起きた観察です。前腕屈筋群の解剖や、圧迫解放技術の即時効果を扱う周辺研究は存在しますが、「前腕の起始部を緩めればセラピストの手首の痛みが解決する」という因果関係を直接支持する研究ではありません。臨床仮説を前へ進める材料として読むのが適切です。
専門家が臨床へ持ち帰るための記録のポイント
同様の手首・前腕の痛みを評価する場合、まず安静時の訴えだけに頼らず、症状を具体的に再現できる負荷動作を本人と一緒に特定することが出発点になります。今回のように「重い物を持ち上げる」といった、日常生活や仕事に即した具体的な動作を基準にすると、以降の変化を比較しやすくなります。
触診では、内側上顆・外側上顆といった骨指標をまず確認し、そこに集まる筋群の解剖を踏まえたうえで、範囲を大まかに絞り込みます。そこから先は、数ミリ単位で位置を変えながら、基準動作の変化を都度確認することが重要です。強い反応が出た点は、原因を確定する証拠としてではなく、慎重に扱うべき要注意点として記録します。
内側上顆の周辺は尺骨神経が近接するため、しびれや放散痛の有無を確認しながら進める必要があります。圧を加えるたびに基準動作を再評価し、変化した項目と変化しなかった項目の両方を記録すること、そして客観的な計測器(握力計・角度計・圧痛計)を用いなかった場合はその旨を明記することが、症例記録の信頼性を支えます。
よくある質問
Q. 前腕を押せば手首の痛みは治りますか? ── A. そうは言えません。今回のデモでは、単回の介入中にその場の痛みが軽くなりましたが、翌日以降の持続性や、他の人にも同じ結果が出るかは確認されていません。押す場所によって反応が大きく変わったことからも、正確な評価が前提になります。
Q. 強い痛みが出た点にあえて触れたのは、危なくないですか? ── A. 動画では、強い反応が出た点をそのまま押し切るのではなく、要注意点として位置を確認しながら進めています。内側上顆の周辺には尺骨神経が近いため、しびれや電撃痛が出た場合は、無理に続けず圧を緩める必要があります。
Q. 母指を押すと前腕の痛みが変わるのはなぜですか? ── A. 施術者の臨床的な経験に基づく手技であり、末梢の緊張が近位の腱にどう影響するかという生理学的な機序は、現時点の研究では明確に説明されていません。仮説として理解するのが適切です。
Q. これは内側上顆炎(ゴルフ肘)と診断されたということですか? ── A. 動画内で医学的な診断は行われていません。内側上顆炎・外側上顆炎という腱由来の痛みは、診断基準や用語そのものにばらつきがあることが研究で指摘されており、短いデモの触診反応だけから診断名を確定することはできません。
Q. 自分も同じ場所を自己流でマッサージしていいですか? ── A. 勧められません。内側上顆の周辺は骨・腱・神経が近接しており、位置がずれると効果が変わるだけでなく、強く押しすぎるとしびれを引き起こすおそれがあります。骨指標や神経の走行を理解した専門家に相談することをお勧めします。
安全のための受診目安
手首・前腕・肘の痛みに、進行するしびれ、握力低下、物を落とす、腫れや変形、外傷後の強い痛み、夜間に悪化する痛み、発熱を伴う場合は、セルフケアや徒手療法よりも医療機関での評価を優先してください。これらは前腕の筋膜だけでは説明できない病態のサインである可能性があります。
内側上顆の周辺を自分や他人が触れる際は、尺骨神経が近くを通ることを念頭に置いてください。押している最中に小指側・薬指側へしびれや電撃痛が走った場合は、すぐに圧を緩め、無理に続けないことが安全のための基本です。
セラピストやハサミ・工具を使う職業など、手首・前腕を反復して使う仕事を続けている場合、その場で痛みが軽くなっても、同じ負荷を繰り返せば症状が戻る可能性があります。単発の施術だけに頼らず、業務量の調整や休息、セルフケアを含めた長期的な視点も必要です。
まとめ ── 前腕の起始部という「面」の中に、探すべき反応点があった
治療家向けセミナーで患者役を務めた女性セラピストは、施術業務の中で手首の痛みを感じるようになり、自己流のケアでも改善しない状態が続いていました。肩・肘の可動域には制限がなく、重い物を持ち上げる動作でのみ痛みが再現されるという特徴がありました。
疼痛誘発動作テストで前腕屈筋群の起始部(内側上顆)周辺を探ると、数ミリの違いで反応が大きく異なる複数の点が見つかりました。それらを1点ずつ捉えて圧を加えたところ、約9分間のデモの中で持ち上げ動作の痛みが段階的に減少し、最終的に「全く痛くない」という報告が得られ、肘の伸展可動域も広がりました。
一方で、これはセラピスト同士による単回のデモであり、握力・圧痛閾値・可動域の数値的な計測は行われていません。同じ施術業務を続けた場合の再発の有無、翌日以降の持続性は、この動画だけでは判断できません。「前腕を押せば手首の痛みが治る」という一般論ではなく、「正確な場所を1点ずつ探すことが結果を左右する」という評価の姿勢を、この症例から読み取るのが適切です。
症例の結論
施術業務による手首の痛みを訴えたセラピストに対し、前腕屈筋群の起始部(内側上顆)周辺で疼痛誘発動作テストを行ったところ、数ミリの違いで反応が大きく異なる複数の点が見つかった。それらを順に圧迫したところ、約9分間のデモ中に持ち上げ動作の痛みが段階的に減少し、最終的に消失したと本人が報告した。長期的な持続性、再発の有無、診断名の確定は、この動画からは判断できない。