FUJII FASCIA INSTITUTE シンボルマークFUJII FASCIA INSTITUTE藤井翔悟 筋膜研究所

FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED SINGLE CASE STUDY

産後の内側膝痛が、上殿神経リリースと仙腸関節の調整で消えた ── 「変形性膝関節症」という前置きを、どう読むか

産後の膝痛内側膝痛(鵞足部エリア)階段昇降時痛深屈曲時痛(正座)上殿神経リリース仙腸関節の調整産後の骨盤ケア筋膜リリース

BEFORE

20代後半・産後に発症した内側膝痛。痛みの場所は膝の内側、鵞足(がそく)の停止部エリア。階段を降りるとき(大腿四頭筋に遠心性の収縮が入る場面)や、正座など膝を深く曲げる動作で強く痛んだ。診断名としての画像検査(X線・MRI等)は動画内で示されていない。

AFTER

上殿神経の周囲へのリリースと、仙腸関節の位置調整を行った初回の施術で、外側広筋・腸脛靭帯を含む「外側のライン」の緊張が緩み、その場で荷重時の膝の痛みが消失したと本人が報告した。合計3〜4回、1回約30分の施術で、痛みは消失したとされる。

経過:計3〜4回・1回約30分(本人の自己申告による、単一症例の回顧的な報告。VAS等の疼痛スコアや客観的な可動域・筋力測定は示されていない)

施術の動画

はじめに

「変形性膝関節症」という前置きで語られた、産後の内側膝痛

動画は「変形性膝関節症及び膝の痛みについて」という前置きで始まります。しかし、実際に紹介された症例は、レントゲンで確認された変形性膝関節症の患者ではありません。20代後半で出産を経験し、産後に膝の内側が痛むようになった女性の一例でした。

痛みの場所は、膝の内側、鵞足(がそく)と呼ばれる場所──縫工筋・薄筋・半腱様筋という3つの筋が集まって脛骨に停止するエリアです。階段を降りるとき、とくに太もも前面の筋肉(大腿四頭筋)に遠心性の収縮が入る場面や、正座のように膝を深く曲げる動作で、強い痛みが出ていたといいます。

この記事で最初にお伝えしておきたいのは、本動画がこれまで当研究所で紹介してきた症例記事の多くとは、形式が異なるという点です。受講生モデルへのライブ実演ではなく、藤井翔悟が3D解剖学アプリの画面を操作しながら、医師・理学療法士という専門家の聴衆に向けて、過去に担当した患者の症例を記憶に基づいて口頭で振り返る、講義形式の動画です。実際の問診・触診・評価の場面は映像として収録されていません。

先に結論 ── この記事の読み方

確認できるのは、藤井が口頭で説明した①症例の概要(産後発症・内側膝痛・増悪動作)②行われた2つの介入(上殿神経リリース・仙腸関節の調整)③患者本人が報告したという結果(初回での荷重時痛の消失、3〜4回での痛みの消失)です。実際の評価・治療の映像、客観的な疼痛・可動域の測定、産後の経過月数や産科的な評価の有無は、動画内に示されていません。また、この症例では通常の疼痛誘発動作テストが「かからなかった」と藤井自身が明言している点も、他の症例記事と異なる重要な相違点です。

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症状の地図と経過
症状の地図と経過 ── 産後に発症した内側膝痛(鵞足部エリア) 痛みの場所 膝の内側・鵞足の停止部エリア (側性=左右どちらかは動画内で明示されていない) ① 階段を降りるとき 大腿四頭筋の遠心性収縮が 入る場面で痛みが出る ② 深い膝の屈曲(正座など) 深屈曲(正座姿勢)でも 同部位に強い痛みが出る 20代後半の女性。出産を経て発症。診断名としての画像検査(X線・MRI等)は動画内で示されていない。 → この年代での「変形性膝関節症」の確定には慎重な検討が必要。本記事では症状としての「産後の内側膝痛」として扱う。

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20代後半・産後に発症した内側膝痛(鵞足の停止部エリア)。階段を降りるときと深い膝屈曲(正座など)で悪化した。

STEP 1

この動画の形式 ── ライブ実演ではなく、回顧的な講義

本題に入る前に、この動画がどのような形式で作られているかを明確にしておきます。藤井は3D解剖学アプリを操作し、骨盤・殿部・大腿の筋肉や神経を画面上でレイヤーごとに表示しながら、「私の臨床上、結果を得られている知見」として、過去に担当した一人の患者の症例を語ります。

これは、他の症例記事にあるような「受講生モデルの身体に、その場で触れて評価し、変化を確認する」実演ではありません。患者本人は登場せず、問診のやり取りも、触診の様子も、可動域を測る場面も、映像としては存在しません。すべては藤井の記憶と説明に基づく、事後的な再構成です。

この違いは些細なことではありません。ライブ実演であれば、少なくとも「その場で何が起きたか」を映像として検証できますが、回顧的な講義では、実際に何を確認し、何を確認していないかは、話者の説明に委ねられます。本記事では、この制約を前提としたうえで、動画で実際に語られた内容にのみ忠実に沿って記述します。

STEP 2

症例の概要 ── 20代後半・産後・内側膝痛という組み合わせ

動画で紹介された患者は、20代後半の女性。産後に膝の痛みを訴えるようになったといいます。痛みの部位は、膝の内側、鵞足の停止部エリア。動作としては、階段を降りるとき、とくに大腿四頭筋に遠心性の収縮(伸ばされながら力を発揮する収縮)が入る場面と、正座のように膝を深く曲げる動作(深屈曲)で、強い痛みが生じていました。

ここで正直に指摘しておきたいのは、動画冒頭のテーマ設定が「変形性膝関節症」だったことです。変形性膝関節症は一般に、加齢に伴う軟骨の摩耗や関節構造の変化を背景とする疾患で、多くは中高年以降に発症し、画像検査(X線・MRI)による関節裂隙の狭小化や骨棘形成の確認を経て診断されます。20代後半の女性、それも産後という文脈で語られる本症例に、この病名をそのまま当てはめることには慎重であるべきです。

「変形性膝関節症」という前置きを、そのまま受け取らない

動画では画像検査の実施や診断名の確定について一切言及がありません。20代の産後女性における内側膝痛は、鵞足炎(鵞足部の腱・滑液包の炎症)、膝蓋大腿関節由来の痛み、産後の骨盤・下肢アライメント変化に伴う非特異的な痛みなど、変形性膝関節症とは異なる病態である可能性のほうがむしろ高いと考えられます。本記事では、この病名を確定した診断としては扱わず、「産後に生じた内側膝痛」という症状の記述にとどめます。

階段降段時の痛みは、大腿四頭筋の遠心性収縮に伴う膝蓋大腿関節・脛骨大腿関節への負荷増大でよく見られる訴えであり、深屈曲時の痛みも膝関節の構造上、内側支持組織や鵞足部に負荷がかかりやすい動作です。これらの動作特性自体は、変形性膝関節症に限らず、多くの膝関節疾患・軟部組織障害で共通して見られるものであり、この2つの動作だけから特定の病態を絞り込むことはできません。

STEP 3

出産前後に何が起こるのか ── 骨盤輪の生理的な弛緩

藤井がこの症例を読み解く出発点としたのは、出産という出来事そのものでした。「出産時に非常にこの仙腸関節が開くと言いますか、大きな剪断力がかかって、子宮口が開いて、そこからいわゆるお産という形になる」。分娩の過程で骨盤には大きな力学的負荷が加わり、女性の骨盤・殿筋群は、それまで経験したことがないほど弛緩する、と藤井は説明します。

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上殿神経と仙腸関節
仙腸関節(SI関節)まわり 産後、靱帯がゆるみやすい部位 上殿神経(L4〜S1) 大坐骨孔を通って外側へ走行 中殿筋・小殿筋 (大腿筋膜張筋も同神経支配) 上殿神経は、中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋の3つだけを支配する 大坐骨孔を通過するため、仙腸関節まわりの力学的な変化の影響を受けやすい位置関係にある。 膝(大腿四頭筋・鵞足の筋群)は、この神経の支配領域には含まれない。 背面から見た骨盤・殿部の模式図

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上殿神経(L4〜S1)は大坐骨孔を通り、中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋のみを支配する。仙腸関節はすぐ内側に位置する。

これは臨床的な誇張ではなく、妊娠・出産に伴う生理学的な変化として広く知られている現象です。妊娠中はリラキシンをはじめとするホルモンの作用により、恥骨結合・仙腸関節を含む骨盤輪の靱帯が緩み、分娩時にはさらに機械的な力が加わって骨盤の可動性が一時的に高まります。産後に体型が変化したり、骨盤矯正が必要だと感じたりする女性が多いのも、この生理的変化と無関係ではありません。

ただし、ここで補っておかねばならない情報があります。動画では、この患者が出産から何か月・何年が経過していたのかが、一切語られていません。骨盤輪の弛緩は一般に産後数か月をかけて徐々に回復するとされ、産後の時期によって「生理的な回復途上の状態」なのか「本来戻るべき安定性が戻っていない状態」なのかの解釈が変わってきます。この情報が欠けていることは、本症例を評価するうえでの明確な限界です。

産後の骨盤の痛みは、まず産科的・整形外科的な評価が前提です

産後の骨盤帯の痛みが強い、長引く、恥骨のあたりに痛みがある、歩行が困難、といった場合は、恥骨結合の過度な離開(symphysis diastasis)や産後の仙腸関節炎など、画像評価と医学的管理を要する病態が背景にある可能性があります。本記事で扱う仮説は、あくまで機能的な筋緊張の話であり、こうした器質的な問題の可能性を否定するものではありません。産後の強い骨盤痛・歩行障害がある場合は、自己判断せず、産婦人科・整形外科での評価を優先してください。

STEP 4

上殿神経とは何か ── なぜこの神経に注目したのか

藤井が注目したのは、仙骨神経叢の枝である上殿神経(じょうでんしんけい)でした。「上殿神経というものは、この殿筋群を支配してますから」。解剖学的に見ると、上殿神経はL4〜S1の神経根に由来し、大坐骨孔を梨状筋の上を通って骨盤の外へ出たあと、中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋(TFL)という3つの筋を支配する、運動神経です。

藤井の説明では、仙腸関節が過剰に開いてしまうと、これまでかかっていなかった機械的なストレス(メカニカルストレス)が上殿神経にかかるといいます。上殿神経にテンションがかかることで、その支配下にある殿筋群が「いつもよりもタイトに」「刺激が常に張っている状態」になり、支配神経領域の筋が過剰に収縮した状態が持続的に起こっている、という見立てです。

この推論の骨格──仙腸関節という骨盤の関節のすぐそばを、殿筋群を支配する末梢神経が通過している、という解剖学的な位置関係そのものは事実です。関節周囲の構造変化が、近接する末梢神経に何らかの機械的な影響を与えうるという発想も、他の神経絞扼症候群(例えば梨状筋症候群における坐骨神経など)を考えれば、荒唐無稽なものではありません。

一方で、この上殿神経由来の緊張仮説を直接的に検証した研究は、現時点で見当たりません。藤井自身も動画の中で「これはまだなかなかエビデンス的に出ていないところもたくさんあります」「詳細は、まだ高いエビデンスレベルのものはないので、もちろん私の主観と、得られた結果をシェアさせていただく」と、繰り返し留保をつけています。この誠実な留保を、本記事でも維持します。

STEP 5

仙腸関節から鵞足エリアへ ── 藤井が語った仮説の全体像

藤井の仮説を、動画で語られた順にたどると、次のような連鎖になります。①出産に伴い仙腸関節が過剰に弛緩・開大する。②その結果、上殿神経に通常はかからない機械的ストレスがかかる。③上殿神経が支配する中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋が持続的に過緊張する。④その緊張が、大腿筋膜張筋から連続する腸脛靭帯・外側広筋という「外側のライン」にまで及ぶ。⑤最終的に、膝内側の鵞足エリアに痛みとして現れる。

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藤井が語った仮説の連鎖
藤井が語った仮説 ── 仙腸関節から鵞足エリアへの連鎖(未検証のモデル) ① 産後の仙腸関節 分娩時の剪断力・ホルモンの影響で弛緩 ② 上殿神経への負荷 今までなかったメカニカルストレス ③ 殿筋群の持続緊張 中殿筋・小殿筋・TFLがずっと張った状態に ④ 外側ラインの緊張 腸脛靭帯・外側広筋が連動して硬くなる ⑤ 鵞足エリアの痛み 膝内側に症状として現れる(仮説) この一連の流れは、藤井が動画内で「私の主観」「詳細はまだ高いエビデンスレベルのものはない」と 明言したうえで語った臨床的な仮説である。上殿神経は解剖学的に膝の筋を支配していない。 また、この症例では通常の疼痛誘発動作テスト(押しながら症状の変化を見る評価)は「かからなかった」と 藤井自身が述べており、この仮説は触診での誘発反応ではなく、出産前後の機能解剖学的な推論から立てられた。 → ③〜⑤(殿筋の緊張が外側ラインを介して膝内側の痛みを生む、という部分)は、査読された強いエビデンスの ある機序ではなく、藤井個人の臨床的な観察として読む必要がある。

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産後の仙腸関節の弛緩から鵞足エリアの痛みへ至る5段階の説明。藤井自身が「主観」「エビデンスはまだない」と留保した仮説である。

藤井はこの連鎖について、「なぜこの鵞足のあたりに出ていた痛みが、消えるのかって話なんですけども、これはまだなかなかエビデンス的に出ていないところもたくさんあります」としたうえで、「腸脛靭帯だったりとか、外側広筋というものは、筋単体で見るんじゃなくて走行で見てみると、内側まで走行しているので」と、筋の走行上の連続性を根拠に説明しています。

この症例では、疼痛誘発動作テストが「かからなかった」

多くの症例記事で中心的に用いられる評価法──痛みの出る動作をしながら各部位を押し、症状が変化する点を探す「疼痛誘発動作テスト」は、本症例では機能しなかったと藤井自身が明言しています(「結論から申し上げますと、疼痛誘発動作はかからないです」)。つまりこの仮説は、その場での触診による誘発反応から導かれたものではなく、出産という既往と機能解剖学的な知識を組み合わせた臨床的な「読み(リーディング)」から立てられたものです。評価の性質が他の症例と異なる点を、読者・実践者は区別して理解する必要があります。

STEP 6

「外側のライン」とは何か ── 外側広筋・腸脛靭帯の解剖

藤井が「外側のライン」「ラテラルライン」と呼んだのは、大腿筋膜張筋・大殿筋から連続する腸脛靭帯と、その深層にある外側広筋です。外側広筋は大腿骨の外側から起こり、脛骨粗面・膝蓋骨に停止して膝を伸展させる、大腿四頭筋のうち最も外側にある筋です。腸脛靭帯は、大腿筋膜張筋と大殿筋の一部からの線維を受けて大腿外側を縦走し、脛骨外側のガーディ結節へ停止する、線維性の帯(バンド)です。

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外側広筋・腸脛靭帯
外側広筋 (がいそくこうきん) 腸脛靭帯(ちょうけいじんたい) 大腿筋膜張筋・大殿筋からのつながり 外側広筋・腸脛靭帯 ── 神経支配は上殿神経ではない 外側広筋は大腿神経(L2〜L4)支配。上殿神経が支配するのは中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋であり、 「外側ラインが連動して緩む」という説明は、神経支配の話ではなく筋膜の連続性という別の仮説である。 外側から見た大腿・膝の模式図

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外側広筋は大腿神経支配であり、上殿神経の支配筋ではない。「外側ラインの連動」は神経ではなく筋膜の連続性という別の説明である。

ここで、専門家として正確を期すべき点を一つ指摘しておきます。外側広筋を支配するのは大腿神経(L2〜L4)であり、上殿神経ではありません。動画の説明を字面通りに受け取ると、「上殿神経の緊張が、支配関係のない外側広筋にまで及んでいる」ように聞こえますが、これは神経支配の話としては成立しません。

より正確に理解するなら、藤井が語っているのは神経支配の連続ではなく、筋膜の連続性です。上殿神経が支配する大腿筋膜張筋が過緊張すると、そこから連続する腸脛靭帯というひとつの筋膜構造を介して、隣接する外側広筋や膝周囲の張力状態に、間接的な影響が及びうる──という筋膜モデルとして読むのが適切です。「神経が届いているから連動する」のではなく、「筋膜として物理的につながっているから、張力が伝わりうる」という、別のカテゴリーの説明であることを、混同しないようにしてください。

STEP 7

神経支配(事実)と筋膜のつながり(仮説)を分けて読む

この動画をめぐる説明を正確に理解するために、本記事でもっとも強調したいのが、この切り分けです。①上殿神経がどの筋を支配するかは、教科書的に確立した解剖学的な事実です。中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋の3筋に限られ、鵞足を構成する縫工筋・薄筋・半腱様筋(それぞれ大腿神経・閉鎖神経・脛骨神経支配)は含まれません。

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神経支配(事実)と筋膜のつながり(仮説)の切り分け
混同しやすい2つの話 ── 「神経の支配領域」と「筋膜のつながり」は別モデル ① 神経支配 ── 解剖学的な事実 上殿神経(L4〜S1) 支配するのは、次の3筋のみ: ・中殿筋 ・小殿筋 ・大腿筋膜張筋(TFL) 外側広筋・鵞足の筋(縫工筋・薄筋・ 半腱様筋)は、大腿神経・閉鎖神経 ・脛骨神経など別の神経の支配下。 → 上殿神経が直接「膝」を支配  することは、解剖学的にない。 ② 筋膜のつながり ── 藤井の仮説 大腿筋膜張筋・大殿筋 ↓ 腸脛靭帯として連続 腸脛靭帯・外側広筋 ↓ 筋膜の張力が伝わる(仮説) 膝外側 〜 鵞足エリア(膝内側) この「外側から内側まで走行が 連続する」という説明を、藤井自身 「高いエビデンスレベルのものはまだ ない」と留保している。 → 神経ではなく筋膜の連続性という、  別カテゴリーの仮説として読む。 ①は教科書的に確立した解剖学的事実。②は藤井個人の臨床的な仮説であり、査読された強い実証研究はまだない。

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上殿神経の支配領域は中殿筋・小殿筋・TFLの3筋に限られる事実と、外側ラインを介した膝への波及という藤井の仮説を、明確に分けて示す。

②一方、「外側のラインが緊張すると、筋膜の連続性を介して膝内側の鵞足エリアにまで影響が及ぶ」という説明は、藤井個人の臨床的な仮説です。走行上の連続性という解剖学的な着眼点自体は理解できるものですが、この仮説そのものを検証した査読済みの実証研究は、現時点で確認できません。

①を根拠に②が成り立つかのように語られると、あたかも神経学的に裏づけられた機序であるかのような印象を与えかねません。しかし実際には、①(事実)と②(仮説)は別のレイヤーの話です。本記事はこの2つを意図的に分けて示すことで、動画の内容を「専門用語で語られているから正しい」と鵜呑みにせず、どこまでが解剖学の教科書的な知識で、どこからが臨床家個人の仮説なのかを、読者自身が判断できるようにすることを目指しています。

STEP 8

実際に行われた介入 ── 上殿神経リリースと仙腸関節の調整

見立てに続いて、藤井が実際に行ったと説明する介入はシンプルです。「まずはこの上殿神経自体のリリースですね。上殿神経を、周囲をリリースしていくわけなので、まず上殿神経のリリースというものをやっていきます」。続けて「その後に仙腸関節の位置を戻して」と、2段階の介入が述べられています。

この2つの介入の具体的な手順──どこにどう触れ、どの方向へどれだけの圧をかけたか、患者をどの体位にしたか──は、動画内では詳しく示されていません。これは、実技を見せるライブ実演ではなく、口頭で要点を振り返る講義形式であることの制約です。読者・実践者がこの記述だけから同じ手技を再現しようとすることには、大きな限界があることを申し添えます。

藤井は、この2つの介入を行った時点で身体に起きた変化を、次のように説明しています。「この外側のラテラルラインの筋が、もうその2つの上殿神経のリリースと、それから仙腸関節の調整をした時点で、外側の腸脛靭帯、外側広筋を中心に、その時点でですね、かなり弛緩していたと」。つまり、上殿神経・仙腸関節という2つの介入対象への働きかけの直後に、触診上、外側のラインの緊張が緩んでいたと述べています。

STEP 9

経過 ── 初回での変化と、3〜4回での消失

外側のラインが弛緩していたことを確認した直後、患者本人から「荷重した時の膝の痛みがなくなった」という発言があったと藤井は説明します。これは、初回のセッション、しかもその場で得られた変化です。

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施術経過と、確認できること/できないこと
施術の経過と、この動画から確認できること/できないこと 1回目 上殿神経リリース+仙腸関節の調整 外側ラインが弛緩荷重時痛が消失(自己申告) 2〜3回目 同様のアプローチを約30分×継続 経過の詳細は動画内で語られていない 3〜4回目終了時 計3〜4回・1回約30分 痛みが消失したと報告(自己申告・単一症例) 確認できること ・産後発症、階段降段・深屈曲で悪化する内側膝痛(鵞足エリア)の主訴 ・上殿神経リリース+仙腸関節調整という2つの介入内容 ・初回セッション内で外側ラインの弛緩と荷重時痛の消失を本人が報告したこと ・計3〜4回・1回約30分の施術で、痛みが消失したという結果 確認できないこと(動画内で語られていない・示されていない) ・産後の経過月数、分娩様式、恥骨結合離開など画像・産科的評価の有無 ・VAS等の疼痛スコア、関節可動域・筋力の客観的測定値 ・疼痛誘発動作テストの陽性所見(本症例では「かからない」と藤井自身が明言) ・施術後の追跡期間、再発の有無。この動画は実演の撮影ではなく回顧的な口頭紹介である

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計3〜4回・1回約30分の施術で痛みが消失したと報告された一方、産科的評価の有無や客観的な疼痛・可動域の測定は動画内に示されていない。

藤井は「もちろんこれが初回で得られた変化なんですけれども、何度も申し上げますけど、施術自体は3回ぐらいですね。1回、大体30分程度の施術を3回程度させてもらっている」と述べる一方、別の場面では「結果としては、3、4回の施術で痛みを消失するところまで持っていった」とも語っており、正確な施術回数には「3回」「3、4回」という幅があります。

最終的な結果として、鵞足のエリアに出ていた膝の痛みが消失したという自覚症状が得られた、とまとめられています。ただし、これらはすべて患者本人の口頭での申告に基づくものであり、VASなどの疼痛スコア、関節可動域計での測定、筋力検査といった客観的な指標は、動画のどこにも登場しません。

さらに、この動画自体が、施術の様子を撮影した記録ではなく、藤井が後日、記憶に基づいて聴衆に語った回顧的な報告です。数日後・数週間後に痛みが再発しなかったか、産後の骨盤帯そのものがその後どう回復していったかについては、動画内に情報がなく、確認する手段がありません。

STEP 10

なぜ変わったのか ── 一つの仮説に還元しない

藤井の仮説は、仙腸関節の弛緩→上殿神経への機械的ストレス→殿筋群の過緊張→外側ラインの緊張→鵞足エリアの痛み、という一本道の説明です。しかし、この症例で起きた変化を考えるとき、他の可能性も並べて残しておくべきです。

第一に、産後の骨盤帯の痛みや周辺組織の過緊張は、多くの場合、時間の経過とともに自然に回復していく生理的な過程を含みます。3〜4回、数週間かけて行われた施術のあいだに、産後の自然回復がある程度進んでいた可能性は否定できません。動画には出産からの経過月数が示されておらず、この点を検証する材料がないこと自体が、本症例の限界です。

第二に、殿部・骨盤周囲への手技的な介入そのものが、局所の筋緊張だけでなく、感覚入力を通じた痛みの調節、安心感、施術者への信頼、注意の向け方の変化など、非特異的な効果をもたらしうることも、他の多くの筋膜リリース症例と同様に考慮すべきです。

第三に、走行上の連続性に基づく筋膜的な波及という藤井の仮説も、完全に排除されるわけではありません。腸脛靭帯・外側広筋という外側の構造への介入が、膝関節全体の力学的なバランスを変化させ、結果として鵞足エリアへの負荷が減少した、という可能性は解剖学的に矛盾しません。ただし、これは症例から導かれた仮説であり、検証された機序ではないという位置づけを崩さないことが重要です。

考察

専門解説 ── 妥当な部分と、慎重に扱うべき部分

【専門解説】上殿神経(L4〜S1)が大坐骨孔を通過し、中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋を支配するという解剖学的事実、および仙腸関節がその近傍に位置するという位置関係は、教科書的に確立している。産後に仙腸関節を含む骨盤輪の靱帯性弛緩が生じるという生理学的知見も広く支持されており、この2つを組み合わせて「産後の骨盤変化が上殿神経の走行環境に影響しうる」という仮説を立てること自体は、解剖学的な合理性の範囲にある。

一方で、①この仮説(上殿神経への機械的ストレス→殿筋群の持続的過緊張→鵞足部への関連痛)を直接検証した研究は現時点で確認できず、症例数も単一例にとどまる。②外側広筋は大腿神経支配であり、上殿神経由来の神経学的な連動という説明は不正確であって、筋膜の連続性という異なるカテゴリーの仮説として扱うべきである。③本症例では通常の疼痛誘発動作テストが機能しなかったと術者自身が述べており、評価根拠が触診上の誘発反応ではなく、機能解剖学的な推論にとどまる。④出産からの経過月数、産科的な評価の有無、恥骨結合の状態など、産後の身体を評価するうえで欠かせない情報が動画内で示されていない。

産後の筋膜療法・徒手療法の周辺エビデンスとしては、産後の腹直筋離開・腰背部痛・骨盤底機能障害に対する筋膜療法の効果を検討した2023年のSR・メタ解析(Wangら)や、妊娠関連の骨盤帯痛に対する心理社会的要因を扱った2026年のSR(Gregoorら)が存在し、産後の骨盤帯・骨盤底へのアプローチが有益でありうる方向性、および痛みの経験には生物学的要因だけでなく心理社会的要因も関与しうることを示している。ただし、いずれも本症例の「上殿神経リリース+仙腸関節調整」という手技そのもの、また膝痛への波及という主張を直接検証したものではない。

臨床的に有用な点があるとすれば、「膝の痛みを、膝そのものだけでなく、産後の骨盤という文脈から読み解く」という視点の提示である。これは、鵞足部の痛みを局所の炎症としてのみ捉えるのではなく、患者の産科的な既往を踏まえた全身的な評価の重要性を示唆する。一方で、この視点の価値と、上殿神経リリースという特定の手技が有効だという主張とは、切り分けて評価されるべきである。前者は臨床推論として妥当性があり、後者は単一症例の回顧的な報告にとどまる。

考察

やさしい解説 ── 「産後だから」を、膝の痛みの手がかりにする

【やさしい解説】出産のあと、骨盤の関節は普段よりもゆるんだ状態になります。この動画で紹介された女性の膝の痛みを、藤井先生は「産後だから起きていることかもしれない」という視点から読み解きました。骨盤のすぐそばを通る神経とお尻の筋肉に注目し、そこから太もも外側、そして膝の内側へと、緊張がつながっているのではないか、という考え方です。

実際に、お尻まわりへのアプローチのあと、太もも外側の張りがゆるみ、患者さんはその場で「膝の痛みがなくなった」と話したそうです。3〜4回の施術で、痛みは消えたと報告されています。

ただし、これは実際の施術の様子を撮影した動画ではなく、先生が後から専門家に向けて説明した講義です。膝の痛みが本当にお尻や骨盤の問題だけで起きていたのか、時間の経過とともに自然によくなっていく部分がどれくらいあったのかは、この動画だけでは分かりません。太もも外側の筋肉は、お尻の筋肉とは別の神経に支配されているため、「同じ神経がつながっているから連動する」という説明も、厳密には正確ではありません。

それでも、「膝が痛いときに、膝だけでなく、出産という体の大きな出来事も含めて考える」という視点そのものは、多くの産後のお母さんにとって参考になる考え方だと思います。もし産後に骨盤や股関節まわりの痛みが強い、長引く、恥骨のあたりが痛い、といった症状があれば、まずは産婦人科や整形外科で相談することを優先してください。

よくある質問

この記事を誤解しないための5つの答え

Q. これは実際の治療の様子を撮影した症例動画ですか? ── A. いいえ。藤井が3D解剖学アプリを操作しながら、過去に担当した患者の症例を記憶に基づいて口頭で紹介する、回顧的な講義動画です。実際の問診・触診・治療の映像は収録されていません。

Q. 「変形性膝関節症」の症例なのですか? ── A. 動画の前置きではそう位置づけられていますが、20代後半・産後という文脈、および画像検査による診断の言及がないことから、変形性膝関節症と確定できる根拠は示されていません。本記事では「産後に発症した内側膝痛」として扱います。

Q. 上殿神経が膝の痛みの直接の原因なのですか? ── A. 上殿神経が支配するのは中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋の3筋のみで、膝の筋を直接支配してはいません。「上殿神経から膝へ」という説明は、神経支配の連続ではなく、大腿筋膜張筋から腸脛靭帯へと続く筋膜の連続性という、藤井の臨床的な仮説です。

Q. 産後の膝の痛みには、同じアプローチが効きますか? ── A. 本記事は単一の回顧的な症例報告であり、対照条件も比較検証もありません。産後の膝痛の原因は人によって異なり、この手技が誰にでも同様に効果を示すという根拠はありません。効果には個人差があります。

Q. 産後の骨盤の痛みは、放っておいても大丈夫ですか? ── A. 多くは時間とともに回復しますが、強い痛みが長引く、恥骨のあたりが痛い、歩行が困難といった場合は、恥骨結合の離開や仙腸関節炎など、医学的な評価を要する病態が背景にある可能性があります。自己判断で様子を見ず、産婦人科・整形外科に相談してください。

まとめ

この動画が示すこと、示していないこと

本記事で紹介したのは、藤井翔悟が医師・理学療法士向けに行った、産後に発症した内側膝痛(鵞足部エリア)の一例に関する回顧的な講義動画です。仙腸関節の弛緩→上殿神経への機械的ストレス→殿筋群の過緊張→外側ラインの緊張→鵞足エリアの痛み、という仮説のもと、上殿神経のリリースと仙腸関節の位置調整という2つの介入が行われ、初回セッションで荷重時の膝の痛みが消失し、3〜4回の施術で症状が消失したと報告されています。

一方で、この動画は実際の評価・治療の映像を伴わない口頭での振り返りであり、通常の疼痛誘発動作テストも本症例では機能しなかったと述べられています。外側広筋への言及は神経支配としては不正確で、筋膜の連続性という異なる仮説として理解する必要があります。産後の経過月数や産科的な評価の有無も語られておらず、単一症例・自己申告という限界も踏まえて読む必要があります。

「産後だから」という文脈を膝の痛みの手がかりにするという発想そのものは、臨床推論として価値があります。しかし、その発想の価値と、上殿神経リリースという特定の手技の有効性が実証されているかどうかは、別の問題です。本記事は、その両者を分けて提示することを目的としています。

症例の結論

産後に発症した20代後半女性の内側膝痛(鵞足エリア)に対し、上殿神経のリリースと仙腸関節の調整を行ったところ、初回セッションで荷重時痛の消失、3〜4回の施術で痛みの消失が報告された。ただし、本動画は実際の評価・治療の映像を伴わない回顧的な口頭紹介であり、通常の疼痛誘発動作テストは本症例で機能しなかったと術者自身が述べている。上殿神経と外側広筋を結ぶ説明は神経支配としては不正確で、筋膜連続性の仮説として理解すべきである。産後の経過月数・産科的評価の有無は不明であり、単一症例・自己申告に基づく結果である点を踏まえて読む必要がある。

本記事は、本人の同意を得て匿名化した一人の施術前後を記録するシングルケーススタディです。藤井式の評価と手技で生じた即時変化を、関連するRCT・系統的レビュー・基礎研究と照合して紹介しています。
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