FUJII FASCIA INSTITUTE シンボルマークFUJII FASCIA INSTITUTE藤井翔悟 筋膜研究所

FUJII METHOD — EVIDENCE-ALIGNED SINGLE CASE STUDY

15年来の膝の痛みを「股関節のせい」と考えていた理学療法士が、下腿・支帯・靭帯周囲への施術を受けた ── 施術場面のない感想インタビューから何が言えるか

膝の痛み膝屈曲時痛スクワット時痛扁平足(本人申告)支帯リリース下腿リリース内側側副靭帯周囲へのアプローチ膝蓋下脂肪体へのアプローチ後脛骨筋〜足部支帯距骨下関節アライメント評価

BEFORE

理学療法士として開業して約1年の男性。元ボディビル競技者で、高負荷のトレーニングを続けてきた。膝の痛みは「覚えていないくらい」前、少なくとも15年以上続く。最も痛かった時期に整形外科を受診したが「筋トレをやめろ」と言われるだけで通院をやめた。自分では「股関節の使い方が悪い」と考え、股関節周囲のストレッチなどを行い多少は改善したが、取り切れず、スクワットはできず、脚のトレーニングもつらかった。施術当日は「膝を曲げるだけで痛い」状態だった。

AFTER

施術者は、下腿の筋・骨・靭帯周囲、支帯、膝蓋下脂肪体の奥側、内側側副靭帯、後脛骨筋から足部の支帯にかけてアプローチした、と口頭で説明する。本人は「股関節じゃないところにもあった」「下にもあったのか」と驚き、終了後は「地に足がついたような感じ」と報告。施術者は距骨下関節のアライメントが「かなり変わった」、内反気味だった足が「ペタンとついている」と述べ、歩行では本人が立脚後期・蹴り出しの改善を認めた。施術者は「一撃でほぼ取れる」と述べたが、本人が痛みの変化を自分の言葉で明言した場面はない。

経過:施術1回・直後の感想インタビュー約5分42秒(施術・評価の場面は映っていない。動画で確認できるのは施術後の主観報告と施術者の発言のみ)

PEER-REVIEWED EVIDENCE

査読論文 6本RCTSR/メタ解析観察研究

症例で起きた即時変化を、研究結果と照合

施術場面のない感想インタビューであり、痛みの変化は施術者の「一撃でほぼ取れる」という発言にしか対応しない(本人は足部の接地感覚と歩行の変化、認識の変化を報告)。「膝より下から膝を見る」という視点は、膝蓋大腿関節痛に対する足部内在筋トレーニングのRCT、運動連鎖に沿った強化の系統的レビュー、変形性膝関節症に対するディープ・フロント・ライン筋膜リリースのRCT、筋膜リリースの補助療法としての系統的レビュー、膝痛へのドライニードリングのメタ解析、膝痛患者の下肢筋トリガーポイントの観察研究と部分的に接点があるが、いずれも単回の徒手介入で15年来の膝痛が直後に消失することを示すものではない。診断名・画像所見が不明のまま15年経過している点から、受診勧奨を明記した。

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施術の動画

はじめに

施術は映っていない ── 「施術後の感想インタビュー」という動画の性質

この記事で扱う動画のタイトルは「15年来の膝の痛みが足支帯のアプローチで消失した事例」です。「消失した事例」という言葉からは、施術の前後で膝の痛みが劇的に変わる様子が記録されていることを期待しますが、約5分42秒の文字起こしを確認すると、この動画は施術が終わったあとに撮影された感想インタビューだけで構成されています。施術そのものの場面、施術前の評価、施術後の再評価は、いずれも映っていません。

したがって、「何をしたか」は施術者の口頭の列挙から、「何が変わったか」は本人の主観報告と施術者の発言から、それぞれ再構成するしかありません。当研究所では、これまでにも同じ配信者による多数の動画を文字起こしから読み解いてきましたが、タイトルの表現と実際の内容が食い違う例がほとんどでした。今回の動画は、患者本人が登場し、経過と感想を自分の言葉で語っているという点で、純粋な講義動画よりも情報量は多い一方、「消失した」という結論部分が施術者の発言にしか対応していない、という特有の注意点があります。この記事は、本人の言葉と施術者の言葉を分けて記録し、動画から言えることと言えないことを正確に伝えることを目的としています。

この記事で分けて扱う4つの層

①本人が自分の言葉で語った経過と感想(主観報告)、②施術者が口頭で説明した施術部位と観察(触診・観察にもとづく施術者の解釈)、③この動画には映っていない施術場面・評価・計測という不在の事実、④「膝より下から膝を見る」という施術者の考え方と、それに関連する既存研究。この4つを混ぜず、それぞれの確からしさを分けて記録します。本人の氏名は動画内で名乗られていますが、本記事では匿名化しています。

STEP 1

経過 ── 15年以上続く膝の痛みと、「股関節のせい」という本人の仮説

動画は、施術者・藤井翔悟が「膝の治療を受けていただいた感想ということで」と切り出し、本人に自己紹介を求めるところから始まります。本人は理学療法士で、「今開業してもうすぐ1年になります」と話します。膝の痛みはいつからか、と問われると、「もう覚えてないぐらいですけれども、たぶんもう15年以上前ぐらいから」と答えます。

きっかけについては、明確な受傷機転はなく、「僕も見た目そのままで筋肉大好き人間なので」「元々ちょっとボディビルの大会とかも出たりしてて」と、長年の高負荷トレーニングを挙げ、「それでたぶんもう膝痛めたのかな」と本人は推定しています。施術者は「今日結構膝曲げるだけで痛かったですね」と当日の状態を確認し、本人は「痛かったです」と答えます。これが、動画から確認できる施術前の症状の、ほぼ唯一の具体的な記述です。

医療機関については、「ほんとマックス痛かった時は行ったことがある」が、「行ってももう、筋トレやめろしか言われない」ため、「もう行かなくなりました」と話します。施術者が「診断名とか」と水を向けますが、本人から具体的な病名は語られず、画像検査の有無も不明です。自分での対処については、「昔からちょっと股関節の使い方が絶対悪いっていうのは自分で分かってた」ので、股関節周囲の筋へのアプローチやストレッチをしてきた。その結果は「ちょっとは良くはなりましたけれども、やっぱり取りきれないですし、やっぱりスクワットできないですし、足のトレーニングもちょっとしんどい」というものでした。

図1
本人が語った経過のタイムライン
本人が語った経過 ── 15年以上続く膝の痛みと、「股関節のせい」という仮説 15年以上前 膝の痛みが始まる(高負荷トレーニング・ボディビル競技) 最も痛かった時期 整形外科を受診「筋トレやめろ」→ 通院をやめる その後〜 自分で股関節周囲をストレッチ等。少し改善スクワットは不可 施術当日 「膝を曲げるだけで痛い」状態→ 施術(映像なし) 直後 感想インタビュー(この動画) 本人の自己紹介から分かること ・理学療法士。開業して「もうすぐ1年」 ・「筋肉大好き人間」、ボディビルの大会に出場歴あり ・明確な受傷機転はなく、トレーニングで痛めたと本人は推定 ・「昔から股関節の使い方が絶対悪い」と自覚し、股関節を中心に対処 ・年齢・体格・現在のトレーニング量は語られていない 動画からは分からないこと ・診断名(変形性膝関節症か、膝蓋大腿関節痛か、その他か) ・画像検査(X線・MRI)の有無と所見 ・施術前の痛みの程度(数値)・膝屈曲の可動域 ・施術の場面そのもの(手技・順序・時間) ・翌日以降の経過・トレーニング再開後の状態

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15年以上前の発症から、整形外科受診と離脱、股関節中心のセルフケア、施術当日の「曲げるだけで痛い」状態、直後のインタビューまで。診断名・画像所見・施術場面は動画に含まれない。

【補足】この経過から読み取れるのは、本人が理学療法士としての知識にもとづき、「膝の痛みは股関節の機能不全に由来する」という仮説を立て、それに沿ったセルフケアを続けてきた、ということです。股関節の機能と膝痛の関連は、膝蓋大腿関節痛などで広く研究されてきたテーマであり、この仮説自体は専門的に自然なものです。一方で、診断名が不明であるため、この膝痛が変形性膝関節症、膝蓋大腿関節痛、膝蓋腱症、膝蓋下脂肪体の問題、半月板や軟骨の変性のいずれに該当するのかは、動画からは判断できません。「膝を曲げるだけで痛い」「スクワットができない」という訴えは、これらのいずれでも生じうるものです。

STEP 2

施術者が「触れた」と語る部位 ── 股関節ではなく、膝より下

「今日痛みの原因を僕から告げられてどう感じましたか」という問いに、本人は「やっぱ股関節じゃないところにもやっぱりあったんだな」と答えます。施術者はここで、自分が施術した部位を列挙します。「下腿のね、筋肉だったり骨とか靭帯周囲とか」「支帯のアプローチをしたりとか」「あとその脂肪体の奥側の実質触ってたりだとか」「あと、内側側副靭帯だったりだとか、連結してる場所やっていった」。さらに後段で、「下腿の、だから後脛骨筋から、あの、足部の支帯にかけての、あそこのあたり」と補足します。

本人の反応は、「いや、あ、下にもあったのか」「もう僕の中ではもうほぼほぼ股関節からと思ってたんで」「かなりびっくりしました」というものです。施術者は「PTさんだもんね、もちろん知識あると思うし」と述べ、「股関節以外にも気づけたって感じですか」と問い、本人は「そうですね」と答えます。

図5
施術者が「触れた」と語った部位マップ
施術者が「触れた」と語った部位 ── 本人が見ていた股関節ではなく、膝より下 股関節・殿筋 1 2 3 4 5 本人がこれまで 原因と考えていた場所 (今回は触れていない) ① 膝蓋下脂肪体の奥側 「脂肪体の奥側の実質触ってたり」 ② 内側側副靭帯と連結部 「内側側副靭帯だったり、連結してる場所」 ③ 下腿の筋・骨・靭帯周囲 「下腿の筋肉だったり骨とか靭帯周囲」 ④ 後脛骨筋 「後脛骨筋から…」(下腿深層) ⑤ 足部の支帯 「…足部の支帯にかけての、あそこのあたり」 注意:実際の施術場面は映っていない 部位の順序・時間・手技(圧迫/保持/動かしながら等)は一切語られていない。

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本人が原因と考えていた股関節・殿筋ではなく、膝蓋下脂肪体・内側側副靭帯・下腿・後脛骨筋・足部支帯という「膝より下」が列挙された。実際の施術場面・順序・手技は映っていない。

【補足】ここで重要なのは、列挙された部位が「膝より下」に集中している点です。膝蓋下脂肪体と内側側副靭帯は膝そのものの構造ですが、下腿の筋・骨・靭帯周囲、後脛骨筋、足部の支帯は、膝から離れた下腿〜足部の構造です。「股関節・殿筋から膝を見る」という本人の従来の視点に対し、施術者は「膝より下から膝を見る」という対照的な視点を提示しています。ただし、どの部位にどの順番で、どのくらいの時間、どのような手技(圧迫・保持・動かしながらの操作など)を加えたかは、一切語られていません。「支帯のアプローチ」が膝周囲の膝蓋支帯を指すのか、足関節周囲の支帯を指すのかも、文脈から後者が示唆されるものの、明示はされていません。

図2
膝前内側の軟部組織
大腿四頭筋 (膝蓋骨の上で腱に移行) 膝蓋骨 膝蓋下脂肪体 膝蓋靭帯の後方にある脂肪組織 施術者:「脂肪体の奥側の実質」 に触れた 内側膝蓋支帯 (膝蓋骨から内側へ広がる薄い膜) 内側側副靭帯 施術者:「内側側副靭帯だったり、 連結してる場所」にアプローチした 膝前内側の軟部組織 ── 施術者が「触れた」と語った膝蓋下脂肪体・内側側副靭帯とその周囲 膝蓋下脂肪体は神経支配が豊富で膝前面痛の発生源となりうる。これらが本人の痛みの発生源だったかは動画からは判断できない。

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施術者が「触れた」と語った膝蓋下脂肪体・内側側副靭帯とその周囲。膝蓋下脂肪体は神経支配が豊富で膝前面痛の発生源となりうるが、本人の痛みの発生源であったかは不明。

【補足】膝蓋下脂肪体は、膝蓋靭帯の後方にある脂肪組織で、豊富な神経支配を持ち、膝前面痛の発生源となりうることが知られています。内側側副靭帯とその周囲、内側膝蓋支帯なども、膝内側痛の局所的な発生源として評価対象になります。施術者が「脂肪体の奥側の実質」「内側側副靭帯だったり、連結してる場所」と述べているのは、こうした膝前内側の軟部組織を指していると読めます。これらが本人の膝痛の発生源であったかどうかは、動画からは判断できません。

図3
後脛骨筋から足部の支帯へ
後脛骨筋(下腿深層) 施術者:「後脛骨筋から 足部の支帯にかけて」 脛骨 屈筋支帯 内果の後方で腱を押さえる バンド状の結合組織 舟状骨・内側縦アーチへ 後脛骨筋腱が付着し、アーチを支える 下腿深層から足部内側へ ── 施術者が強調した「後脛骨筋から足部の支帯にかけて」の連続 後脛骨筋腱は内くるぶしの後方を回って足底へ向かい、内側縦アーチを支える。本人は「扁平足がある」と述べている。

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下腿深層の後脛骨筋と、その腱が内くるぶしの後方で屈筋支帯の下を通り、内側縦アーチを支える連続。施術者が「後脛骨筋から足部の支帯にかけて」と強調した部位。

【補足】後脛骨筋は下腿の深層にあり、その腱は内くるぶし(内果)の後方を回って足底へ向かい、舟状骨などに付着して内側縦アーチを支えています。内果の後方で腱を押さえているのが屈筋支帯です。施術者が「後脛骨筋から足部の支帯にかけて」と強調しているのは、この下腿深層から足部内側への連続した組織を指していると読めます。本人が「扁平足がある」と述べていることとあわせると、施術者は足部のアーチと接地のあり方を、膝痛に関連する要素として見ていたことがうかがえます。ただし、これは施術者の発言から推測できる見立てであり、動画内で明示的に説明されたものではありません。

STEP 3

本人の報告 ── 「地に足がついたような感じ」と、足部の感覚の変化

施術を受けた感想を問われた本人は、まず「結構最初、あー、なんかここかーっていう感じ」と、施術中に痛みや関連を感じた場所があったことを示唆します。そして、「でも終わった後は、やっぱすごいなんか足が、なんか地に足がついたような感じで」と、終了後の感覚を述べます。

施術者はこれを受けて、「すごかったもんね。かなりアライメント変わってましたもんね。たぶん距骨下関節かなり」「元々だから、内反足みたいな感じだったじゃないですか。内足強かったのがペタンってついてる感じでしたもんね」と、足部の接地の変化を観察として語ります。本人はこれに対し、「逆になんか僕、結構あの、扁平足があるんで、なんかあんまりなんかペチャってつくっていう感覚が、あんまりいいと思ってなかった」「逆に、あ、違うんやわと思って」「なんかびっくりしました」と答えます。

図4
距骨下関節と内側縦アーチ
脛骨 距骨 (足首の中心にある骨) 距骨下関節 距骨と踵骨のあいだ。 足部の内反・外反に関わる 踵骨 内側縦アーチ 踵から舟状骨を経て 第1中足骨へ 距骨下関節と内側縦アーチ ── 施術者が「かなりアライメント変わってました」と語った部位 「内反足みたいな感じ」から「ペタンとついてる感じ」へ、という施術者の観察。映像上の計測・写真比較はない。

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施術者が「かなりアライメント変わってました」と語った距骨下関節。「内反足みたいな感じ」から「ペタンとついてる感じ」へという観察だが、映像上の計測・写真比較はない。

【補足】ここで語られているのは、痛みではなく、足部の接地感覚と、それについての本人の認識の変化です。本人は扁平足を自覚しており、足裏が平らにつく感覚を「よくないもの」と考えていました。施術後に足裏がしっかり接地する感覚を得て、「それは必ずしも悪いことではなかった」と認識を改めた、という流れです。施術者は距骨下関節(距骨と踵骨のあいだの関節で、足部の内反・外反に関わる)のアライメントが変わったと述べますが、映像上の計測や写真の比較はなく、施術前の状態との比較も施術者の記憶にもとづく口頭の説明にとどまります。

【補足】施術中の「ここかーっていう感じ」という言葉も、短いながら手がかりになります。これは、触れられた場所に痛みや関連する感覚があり、本人が「膝の痛みと関係のある場所がここにあったのか」と認識した瞬間を指していると読めます。理学療法士である本人が、自分の身体で、従来の仮説(股関節)とは異なる部位に反応を感じた、という体験として語られています。ただし、触れられて痛い・反応がある場所が、必ずしも痛みの原因であるとは限らない、という点は、施術を受ける側・行う側の双方が意識しておく必要があります。

歩行については、施術者が「その後歩行とかしてもらった時も結構良かったですよね」と問い、本人が「そうでしたね」と答えます。どの相がよくなったかを問われた本人は、「やっぱりなんか立脚のあと、なんか言葉が出てこない」と言葉に詰まり、施術者が「立脚後期とか」「とか、蹴り出しの時とか」と補うと、「とかですね、はい」と同意します。この部分は、施術者の誘導的な問いに本人が同意する形で語られている点に、記録として留意が必要です。

STEP 4

施術者の総括 ── 「一撃でほぼ取れる」という言葉と、本人が言っていないこと

インタビューの終盤、施術者は、股関節や殿筋ばかり触ってきた膝痛に対して、下腿・支帯・靭帯周囲を徒手でアプローチするというイメージはあったか、と問います。本人は「あ、もう全然なかったですね」「やっぱちょっとストレッチはかけれるんかなぐらいなイメージしかなかった」と答えます。施術者は「結構ね、その見逃してるだけで、たぶん痛み知らなかった原因、ケースだと思うんですけど」と述べ、支帯・靭帯周囲・下腿の筋膜のつながり・結合組織を見ることで「治療のアプローチが増えますし、出せる結果も絶対増える」と、視聴者である治療家に向けて語ります。

そして締めくくりで、「膝の痛みちょうど出てたんで受けていただいたんですけど、まあ、一撃でほぼ取れるという面白い結果も生まれつつ」「変化も大きかったし、まあ、アプローチの、またパラダイムシフトというかですね、新しい場所に意識を向けていただくっていういい事例だったんで」と総括します。タイトルの「消失した」に対応するのは、この「一撃でほぼ取れる」という施術者の発言です。

【補足】ここで、動画全体を通して本人が言っていないことを確認しておきます。本人は、「痛みがなくなった」「膝を曲げても痛くなくなった」「スクワットができるようになった」とは、一度も述べていません。本人が自分の言葉で語った変化は、「地に足がついたような感じ」という足部の感覚、扁平足についての認識の変化、歩行の蹴り出しへの同意、そして「痛みの原因が股関節以外にもあった」という認識の変化です。痛みそのものがどうなったかは、施術者の総括からしか読み取れません。本記事のタイトルで「消失した」という表現を使わないのは、このためです。

【補足】なお、本人は理学療法士であり、インタビューの終盤では、施術者が主宰する体系を「ぜひ学んでいただいて」と勧める文脈が含まれています。本人の感想は率直なものとして読めますが、施術直後という時点、施術者が同席しているという状況、学習を勧められているという関係性は、感想の語られ方に影響しうる要素として、記録に残しておきます。

STEP 5

「膝より下から膝を見る」という視点と、既存研究の接点

施術者が提示する「膝の痛みを股関節や殿筋だけでなく、下腿・支帯・足部から見る」という視点は、運動連鎖(足部のアライメントや機能が、下腿・膝の力学に影響する)という枠組みで説明されることが多い考え方です。この枠組みに関連する研究はいくつかあります。たとえば、膝蓋大腿関節痛に対して、股関節・膝の筋力強化に足部内在筋のトレーニングを加えることで、痛みと機能がより改善したとするランダム化比較試験があります。

徒手療法に関しては、変形性膝関節症に対して、下腿〜足部を含む「ディープ・フロント・ライン」に沿った筋膜リリースと、運動連鎖を意識した軟部組織手技を比較したランダム化比較試験や、筋膜リリースを補助療法として位置づけた系統的レビューがあります。また、膝痛症候群に対するトリガーポイントへのドライニードリングのメタ解析では、短期的な疼痛軽減が報告されていますが、効果量は中等度以下で、研究の質にはばらつきがあります。

さらに、膝の手術後の痛みを持つ人で、下腿を含む下肢の筋にトリガーポイントと圧痛閾値の低下が観察されたという報告もあります。「膝より下に、膝痛と関連する部位がある」という施術者の視点は、こうした知見と部分的に接点を持ちます。ただし、いずれの研究も、本動画のような単回の徒手介入で、15年続いた膝痛が直後に「ほぼ取れる」ことを示すものではありません。

STEP 6

この動画から言えること・言えないこと

ここまでの内容を、確からしさの層ごとに整理します。①本人の主観報告として確認できるのは、15年以上続く膝痛の経過、「膝を曲げるだけで痛い」という当日の状態、施術後の「地に足がついたような感じ」、扁平足についての認識の変化、歩行の蹴り出しへの同意、「痛みの原因が股関節以外にもあった」という認識の変化です。②施術者の説明・観察として確認できるのは、下腿・支帯・脂肪体・内側側副靭帯・後脛骨筋〜足部支帯という施術部位の列挙、距骨下関節のアライメントと足部の接地の変化、歩行の改善、「一撃でほぼ取れる」という総括です。

③この動画では確認できないのは、施術の場面そのもの、手技の内容・順序・時間、施術前後の痛みの程度、膝屈曲の可動域、スクワット動作の可否、翌日以降の持続性、トレーニング再開後の経過です。④「膝より下から膝を見る」という視点は、運動連鎖に関する研究と接点を持ちますが、それらは運動療法や複数回の介入を評価したものであり、単回の徒手介入の効果を示すものではありません。

図6
この動画から言えること・言えないこと
この動画から言えること・言えないこと ── 本人の言葉と施術者の言葉を分ける ① 本人の主観報告 15年以上続く膝痛、 当日は「曲げるだけで痛い」 終了後「地に足がついた ような感じ」 扁平足で「ペタンとつく」感覚 への認識が変わった 歩行の蹴り出しの改善に 同意(誘導的な問いに対して) ② 施術者の説明・観察 下腿・支帯・脂肪体・MCL・ 後脛骨筋〜足部支帯に施術 距骨下関節のアライメントが 「かなり変わった」 歩行が「結構良かった」 「一撃でほぼ取れる」 (タイトルの「消失」に対応) ③ ここでは確認できない 施術の場面そのもの (手技・順序・時間) 施術前後の痛みの程度・ 膝屈曲の可動域 スクワット動作の可否の変化 翌日以降の持続性・ トレーニング再開後の経過 とくに注意:「痛みがなくなった」と本人が自分の言葉で述べた場面はない。「ほぼ取れる」は施術者の発言。 診断名・画像所見が不明のまま15年経過している。長年の膝痛でも一度は画像検査を含む診察を(本文参照)。

図は横にスワイプして拡大表示できます

本人の主観報告・施術者の説明と観察・確認できないことを3層に分けて整理した。「痛みがなくなった」と本人が述べた場面はなく、「ほぼ取れる」は施術者の発言である。

受診が優先される場合 ── 長年の膝痛でも、一度は診察を

本人は、最も痛かった時期に整形外科を受診したものの、「筋トレをやめろ」と言われるだけで通院をやめた、と話しています。長年のトレーニングを続けてきた人にとって、この助言が受け入れがたいものだったことは理解できますが、診断名や画像所見が不明のまま15年が経過している、という点は、記録として重く見る必要があります。

膝が腫れて熱を持つ、膝が引っかかって伸びない・曲がらない(ロッキング)、転倒やひねったあとに急に痛くなった、安静にしていても痛みが強くなる、膝が崩れるような不安定感がある、といった場合は、施術より先に整形外科を受診してください。また、長年の膝痛であっても、半月板や軟骨の変性、靭帯の緩み、骨の変形など、画像検査でしか分からない要素があります。一度は画像検査を含めた診察を受け、現在の膝の状態を把握したうえで、トレーニングや施術の方針を決めることをおすすめします。

やさしい解説 ── 「股関節のせい」と思っていた膝痛と、膝より下を見るという考え方

この動画は、施術が終わったあとに「受けてみてどうでしたか」と感想を聞くインタビューです。施術そのものの様子や、施術の前後で膝がどう動くようになったかを比べる場面は映っていません。何をしたかは施術者の先生の説明から、何が変わったかは受けた本人の言葉から、それぞれ読み取るしかない動画です。

受けたのは、理学療法士として開業して1年ほどの男性で、長年ボディビルのトレーニングを続けてきた人です。15年以上前から膝が痛く、一番ひどいときに整形外科へ行っても「筋トレをやめなさい」と言われるだけで、通うのをやめてしまったそうです。本人は「自分は股関節の使い方が悪い」と考え、股関節まわりのストレッチなどをしてきましたが、痛みは取り切れず、スクワットもできない状態でした。

施術者の先生が触ったと説明しているのは、股関節ではなく、膝より下の場所です。すねの筋肉や骨・靭帯のまわり、「支帯」と呼ばれる腱を押さえるバンドのような組織、膝のお皿の下にある脂肪のクッションの奥、膝の内側の靭帯、そして、ふくらはぎの奥の筋肉(後脛骨筋)から足の内側にかけての部分です。本人は「下にもあったのか」「ほぼ股関節が原因だと思っていた」と驚いています。

施術のあと本人が感じたのは、「地に足がついたような感じ」という足裏の感覚の変化でした。もともと扁平足で、足裏がべたっとつく感覚をよくないものだと思っていたけれど、「あ、違うんや」と感じたと話しています。歩くときの蹴り出しもよくなったと同意しています。ただし、「膝の痛みがなくなった」と本人がはっきり言った場面はなく、「ほぼ取れた」と言っているのは施術者の先生のほうです。この違いは、動画を読むうえで大切です。

膝の痛みを、膝そのものや股関節だけでなく、足首や足の裏の使い方も含めて見るという考え方は、研究の世界でもある程度支持されています。ただし、それは運動やトレーニングを何週間か続けた結果を調べたものが中心で、1回の施術で長年の痛みがほぼ取れる、ということを示した研究ではありません。この動画も、1回の施術直後の感想を記録したものであり、翌日以降どうなったかは分かりません。

すぐに受診すべきサイン

膝が腫れて熱を持つ、膝が引っかかって伸びない・曲がらない、転倒やひねったあとに急に痛くなった、安静にしていても痛みが強くなる、膝が崩れるような不安定感がある、といった場合は、施術より先に整形外科を受診してください。長年の膝痛であっても、画像検査でしか分からない要素があります。一度は診察を受けて現在の状態を把握したうえで、トレーニングや施術の方針を決めることをおすすめします。

まとめ

この動画から確認できるのは、①長年の高負荷トレーニングを背景に15年以上続く膝痛を持つ理学療法士が、「股関節のせい」という自分の仮説に沿ったセルフケアで取り切れずにいたこと、②施術者が下腿・支帯・膝蓋下脂肪体・内側側副靭帯・後脛骨筋〜足部支帯という「膝より下」を中心に施術したと説明していること、③本人が施術後に「地に足がついたような感じ」という足部の感覚の変化と、「痛みの原因が股関節以外にもあった」という認識の変化を報告していること、の3点です。

一方で、施術の場面、施術前後の評価、痛みの程度の変化、スクワット動作の可否、翌日以降の経過は、いずれも動画には含まれていません。タイトルの「消失した」に対応するのは施術者の「一撃でほぼ取れる」という発言のみで、本人が痛みの変化を自分の言葉で明言した場面はありません。歩行の改善も、施術者の誘導的な問いへの同意として語られています。

「膝の痛みを股関節だけでなく、膝より下からも見る」という視点は、運動連鎖に関する研究と接点を持ち、治療家にとって評価の幅を広げるヒントになりえます。ただし、それを「1回の施術で長年の膝痛がほぼ取れる」という効果の主張と結びつけるには、この動画の情報はあまりに少ないといわざるをえません。治療家・セラピストとしてこの内容に関心を持った方には、施術の前後で同じ動作・同じ尺度を使って変化を記録すること、そして長年の膝痛については一度は画像検査を含めた診察を勧めることを、あわせておすすめします。

本記事は、本人の同意を得て匿名化した一人の施術前後を記録するシングルケーススタディです。藤井式の評価と手技で生じた即時変化を、関連するRCT・系統的レビュー・基礎研究と照合して紹介しています。
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